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22.王都篭城戦①

 数日後の朝。ブリトン王国に激震が走る。

 魔元帥フメレスの軍勢が王都ローダンのすぐそばまで来ていたのだ。


「なぜここまで接近に気付かなかった!?」


 リチャード二世が激怒する。


「も、申し訳ございません」


 王国騎士団長ゴードルフが謝罪する。


 フメレスが潜伏するダンジョンは王都ローダンの南東。しかし敵は北東から攻め寄せてきた。

 ぐるっと山を越えて、迂回して進軍してきたのである。

 移動距離は倍になるが、人間の目をかいくぐるというのには成功した。


「申し訳ございません、そちらの監視は手薄でございました」


 さらに言えば魔王クラスの者が偵察し、伝令をつぶしてまわっていたのだ

 その追撃を振り切って報告できるものが居るはずもない。

 そのため、王都から見える位置に来るまで気付けなかった。


「父上、今はそれどころではありません」


 ユーフィリアの顔色は悪かった。悩み事のせいで夜も眠れず、食事も喉を通らない。


「そうだな……もはや篭城するしかあるまい」


 戦時ではない今、王都にいる戦力は一万を大きく割り込んでいた。

 ブリトン王国なら、その何倍もの兵力を動員できる。

 しかし、これから召集をかけてもすぐには集まれない。

 篭城戦力には含めることはできなかった。


「この王都ローダンは巨大な城壁で囲まれています。ここがそう易々と落ちることはありません」


 ゴードルフが力強く宣言する。


「おお頼もしい。指揮は任せるぞ」

「は!」


 ゴードルフは頭を下げて、退室した。






 ローダンの城壁は高さ10メートル。防御魔法がかけられている強化壁である。

 本来ならそう易々と破られたりはしない。

 

 だが、味方の数が少なすぎる。

 敵は十数倍なのだ。


 更なる問題は魔族。奴らは翼を持つ者も多い。なくても空を飛ぶ魔法がある。

 空を飛べれば城壁など無意味。

 そういった相手を防ぐには対空戦力が必要。


 弓隊、魔道部隊が空から来る部隊を撃退するしかない。

 敵ももちろんその部隊を優先的に狙ってくる。

 彼らは防御能力に劣るので、魔族の攻撃を受ければ短時間で壊滅してしまうだろう。


 魔族の侵入を許せば、事態は深刻となる。

 街中で暴れられてしまうと、もはや味方は浮き足だす。


 命令系統も乱れ、組織的戦闘がだんだんしづらくなるのだ。

 その段階で街中はもう乱戦状態に突入するだろう。


 そして中に侵入した敵に、町の門が開けられしまえばそれまでだ。

 10万の敵になすすべもなく蹂躙されるのは明白であった。


「勇者がそんな暗い顔してたら士気が下がるわよ」


 勇者の先輩であるフィオナがユーフィリアに声をかける。


「は、はい。すいません」

「戦況分析はやめたほうがいいわ。どうせいい結果なんで浮かばないし」


 フィオナは笑ってユーフィリアの方を叩く。


「まあ、実際の魔災よりまし。たとえばセリーナ様のときはさ。こういうやばい戦況な上、援軍はもう来ない。人類に余剰戦力は存在しないって状況。負けたら人類は滅亡。それに比べればはるかにましだと思わない?」

「そうですね。このくらい跳ね返せるようにならなければ……」


 ユーフィリアは気合を入れなおすため、頬をピシッと叩いた。


「今日を耐えれば王都に近い領地に居る騎士が、そしてその後は国外の援軍が次々来るわ。さすがに各国もこんな状況ならすぐ援軍をよこす。明日はわが身だからね」


 最初から協力していれば、こんなことにならなかったのに。

 幾度もの魔王戦争を経て、人類は協力するようになったはずなのに……。


 ユーフィリアはそう思ったが、言葉には出すことなくフィオナと別れた。





 ユーフィリアは城を出て、ヴィンゼントの邸宅へ向っていた。

 ユーフィリアが思いつく援軍の当てはここくらいしかなかった。


「おお、ユーフィリア。ちょうどいいところに。君も来る?」


 ヴィンゼントはなにやら出かける用意をしている。

 

「どこへ行くの?」

「本国に決まってる。戦況はわかってるよ。この僕がこんな危ないとこにいるわけにはいかないだろ!」


 戦いが始まる前に逃げようというのだった。


「そんな……援軍は!?」

「このような状況になった以上、すぐ派遣するよ。でもこの王都はもたない。だから僕と来るんだユーフィリア」

「ふざけないで……私はこの国の王女。そして勇者なの。民を見捨てて逃げるなんてできないわ」

「そうか……じゃあ僕は行くよ」


 ここはヴィンゼントの国ではない。だから国を守る義務は彼にはない。

 それはユーフィリアも理解している。

 しかし、普段付き従っている学園の子分。屋敷に使えている人たち。知り合い。そういった人を見捨てて自分だけ逃げるというのか。

 それはユーフィリアには理解できない感覚であった。


「待って、援軍の話は」

「さっき言ったろう。もう国境の第三騎士団は動き出しているはずだ」


 同じ話を繰り返したユーフィリアに、ヴィンゼントは苛立っているようだ。


「それじゃあ間に合わない。精鋭部隊をワープで送って。今は一人でも戦力がほしい」

「ワープが使える人間なんてそんなに多くない。精鋭部隊を帰れる見込みのない戦場に送るのは、父が許さないだろう」

「そんな……」

「じゃあね。また会えることを祈ってるよ」


 ヴィンゼントが部下に連れられてワープで消えると、ユーフィリアはがっくりと膝をついた。


 ヴィンゼントの言葉はひどく冷たかった。

 余裕がないと、この男はこういう感じなのか。


 ますます嫌いになった。

 そしてそんな奴に頼ろうとした自分自身も。 

 

 なぜあんな奴に頼ろうと思ったのか。

 ユーフィリアは自分が恥ずかしくなった。

 しかし、じゃあ誰を頼ればいいのか。ユーフィリアにはわからなかった。




****   ****




「これは予想外の展開ですね」


 爺やが食堂でうどんを食っている俺に話しかける。

 すでに王都ローダンは蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。

 戦闘開始まで何時間もない。

 皆が必死にできることをしていた。


「だから戦いは面白い」

「敵の動きは邪眼(イビルアイ)ビジョンで監視してなかったので?」


 邪眼イビルアイビジョン。世界中のほとんどの場所を、好きなようにのぞくことができる魔法。


「見たらつまらないだろ。それに、世界中を隅々まで監視することは不可能だぞ」

「それで、我らはどうします?」


 そばに控えていたジェコが問う。


「敵が来たら戦うさ。だれと、どう戦うかは状況しだい。どうせ敵も中に入ってくる。だから町の中心である学園で待機だ」

「かしこまりました」

「言うまでもないだろうが目立ちすぎるなよ」


 俺は箸で二人を指しつつ注意した。


「それは行儀が悪いので止めて下さい」


 爺やから注意が返ってきた。






 王都の人は堅牢と思われる様々な施設に収容された。

 王城は言うまでもないが、冒険者ギルド、学園もその1つである。


「アシュタール様」


 俺は開戦直前に冒険者ギルドのオーレッタを訪れていた。

 人でごった返している。



「ここは危ない。安全なところに避難させることもできるぞ」


 安全な場所とは暗黒神殿のことである。


「あなた様は残るのでしょう? なら私も残ります」

「俺はこんなとこでは死ぬことはない。お前とは違う」

「私もこの町、このギルドに愛着はございます。魔族なんぞに蹂躙されるのは許せません」


 彼女の意志が固いようなので、それ以上の話はやめておいた。

 人には命をかけるべきときがあるのだ。

 その覚悟を汚すことになる。

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