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21.対魔族会議②

「こちらの思い通りに会議は進んだな」


 会議が終わり、別室でジョージ三世とヴィンゼントが話をしている。


「父上、本当にこのままブリトン王国に手を貸さないのですか?」


 ヴィンゼントの言葉にジョージ三世は目を細める。


「先手は取った。相手の出方をまず(うかが)う。婚約が成立すれば即座に会議を開いて連合軍を結成するさ。資金援助も行う」


 知らないときはののほんと過ごしていたが、事態が判明した以上、ブリトン王国は警戒せざるをえない。


 ダンジョンから王都方面への兵の配備を増やし、砦を建設し、魔族に備える。

 各地に居る騎士、兵士たちも何かあったら駆けつけれるように準備していなければならない。


 半戦時体制になるのだ。

 これはブリトンにとっては負担である。

 しかもいつまで続くかわからない負担。


 ブリトン王国にとって最善の道は連合軍によって即座にフメレスを討つことだ。


 それをはいそうですかと飲むほど、ジョージ三世はお人よしではなかった。


「相手が拒否したらどうします?」

「当然援軍は送らない。マグナカルタに書いていない以上、それを行う義務はない」

「それはさすがに心象が悪くなるのではないですか」

「両国の関係は元から良好とはいえない。気にする必要はない。我々の目的はなんだ?」

「経済的に支配し、婚姻政策で緩やかに統一を促す」


 ジョージ三世は満足げに頷いた。

 ブリトリア大陸に統一国家ができたことはない。

 記録がおぼろげな大昔はのぞいて、の話ではあるが。

 

 過去いくつもの国が武力によってそれを成し遂げようとしてきた。

 しかし、それを成し遂げる国は現れなかった。


 なぜかと言われれば、魔王が原因である。

 人類は定期的に魔王と戦争を行う。


 戦争後は疲弊していることが多い。

 それがある程度回復する頃には、また魔王が現れてもおかしくないのだ。

 

 余裕ができて、戦争しようとする国が出る頃には魔王が出てもおかしくない時期。

 運よく魔王がなかなか出ないときにのみ、大陸統一のチャンスは訪れる。


 逆に劣勢側は、はやく魔王よ出ろと祈るという謎の現象すら起きた。

 ひたすら時間稼ぎ作戦をするのだ。


 魔王が出るとすべてが水の泡。

 統一を目指すような大陸最大戦力を持つ国は、当然魔王戦争の中心的役割を果たすことになる。


 そして魔王戦争が終わる頃にはまた国が疲弊してしまう。

 武力によって立つ国が、武力が弱まったらどうなるか。

 それは歴史を見れば明らかであった。


「武力による統一は無謀。武力は魔族に使わねばならず。いつ発生するかも判らないのでは戦略の立てようがないわ」

「はい、ですから私はユーフィリアを妻とし、その息子をブリトンの王にする」

「妹はアイランドに嫁がせる。これで3大国すべて、わしの孫が王となる」


 この世界は国家の興亡は激しい。

 魔王という災害によって強制的に争乱が起きるからだ。

 ブリトン王国もアイランド王国も若い国家であった。


「今は反抗的だが、もう1~2代もすれば、すべてスコットヤードのいうことを聞くようになるさ」

「問題は魔元帥フメレス本人です」


 ヴィンゼントがずれた話を元に戻す。


「それももう手は考えてある」

「は? どのような」


 ヴィンゼントは素っ頓狂な声を上げる。


「第四魔災のナンバー2。強い魔王と同等と想定される」

「はい。近年例がない強さ。現に勇者が敗れております」

「ならば別の勇者を当てればよい」


 ジョージ三世はこともなげに言う。


「わが国にいる勇者がほかの勇者よりそれほど強いとは思えませんが」

「違うわばか者」


 ジョージ三世は頭の切れが悪い息子を叱責する。


「第四魔災の魔族と聞いたら、激怒して討伐にいくような勇者がおるだろう」

「あっ。なるほどあの人ならば討ち取れるやも知れませんな」

「人じゃないがな。すぐに知らせて暴走されては困るから、知らせるタイミングは慎重に測るが」


 ヴィンゼントの不安はそれでなくなった。

 スコットヤード王国が今回の件で損害をこうむる可能性はない。


「父上、援軍の件で一つお願いしたいことが……」

「なんだ」

「第三騎士団の指揮権をお貸し願えないでしょうか?」

「ふーむ……」


 ジョージ三世は思案する。

 ヴィンゼントの考えは見え透いていた。


 ジョージ三世には、ユーフィリアに入れ込みすぎているように思えた。

 ブリトン王国の第一王女と婚約させる予定を、第二王女に変更したのはヴィンゼントの希望である。


「よかろう。すぐさま国境に近いハミルトン要塞に配備しておこう。ただし……」

「わかっております。無条件で援軍を差し向けたりなどしません」

「勇者とはいえ、弱った小娘などモノにして当然。お前の手管を拝見するとしようか」

 

 騎士団1つで事態が好転するわけでもなし。

 その割には騎士団の派遣は国庫への負担は大きい。

 

 しかしその程度は余裕で費やせるほどのゆとりがあるのが、スコットヤード王国であった。

 保険の意味を込めてジョージ三世は許可を出した。






「ユーフィリア殿下」


 ヴィンゼントがユーフィリアに声をかける。


「どうしました?」


 ユーフィリアには元気がない。

 元々今回の事態を招いたのが自分たちであること。

 特に神剣を奪われたことが、重く心にのしかかっていた。


 唯一の救いはアシュタールが生きていたことである。

 アシュタールは心配する必要がない存在――邪神であることを彼女たちは知らない。


「援軍の件だけど……」


 そう言われるとユーフィリアがびくっとする。

 また婚約のはなしか。

 ユーフィリアはそう思ったのだ。


「第三騎士団だけでよければ、なんとか出せることになった」

「え、本当?」


 ユーフィリアの表情が心持ちよくなる。


「だから、僕と交際してほしい」


 その言葉にユーフィリアは眉をひそめる。


「べ、別に何かしようってわけじゃない。清い交際だよ」


 婚約と違って、別に正式なものでもなく、あとから何かしら縛られるわけではない。

 形だけ頷いて、あとは知らんぷりもできるだろう。

 

 しかしユーフィリアはそれをよしとはしなかった。

 かといって真剣に交際する気などない。


「少し考えさせて……」


 そう答えるのが精一杯だった。

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