表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/146

2.邪神の日常

 魔王を退治した勇者。

 それは世界の英雄。真の勇者である。

 

 ブリトン王国第二王女、ユーフィリア・プランタジネット。

 大国の王女にもかかわらず、魔王戦争に参加。

 勇者としての才能を開眼し、魔王討伐に成功した。


 勇者とは職、クラスの名称であると同時に、魔王を倒すものを指す。

 ゆえにちょっとややこしい。

 その人が賢者なら、賢者の勇者なんて言い方をする奴もいる。

 これはまだいいが、じゃあユーフィリアは勇者の勇者になるんだけど……。


 それはともかく、どこに居るか探してたらどうやら浴室に居るようだ。

 そこを覗くのはマナー違反。俺は他を適当に観察することにした。


 浴室、トイレは見ない。私室は見るけど、18歳未満がみてはいけない場面だったら即チャンネル変更。

 これがマイルールだ。


 そこを見ないなんてもったいない! という人もいるかもしれない。

 でも邪神になったことで、こういうことに対する興味は失われているんだ。

 性欲というのはほとんど消えている。

 

 そういったのは種の存続と密接に絡むもの。

 弱い生物ほど1回に多数の子供を生む。魚類には数万、数十万どころか億単位の産卵をするのもいるとか。

 生まれてきた子供の大半が死ぬため、そこまでしてやっと種族が存続できる。

 それだけたくさん生むことが必要なのだ。

 一方哺乳類は1回で数匹。人間はほぼ一人となっている。

 

 つまり人間は、1回で一人生めば十分。生物的にはもう一番上の状態まできてしまっている。

 そこからさらに技術を発展させ、より強く、より長生きするようになったらどうなるか。

 元の世界では先進国の多くは少子化になった。つまり子供を一切生まないものが増えたのだ。

 1の下は0ということだ。


 種の存続的にはそれで全く問題がない。他の誰かが生むだろと。

 けどそんな状態でも性欲がなくなったというわけではない。

 むしろ性欲は普通にある。死にかけたり、危ない場所に行くと性欲が高まるらしい。


 




 そして邪神。

 邪神は人間よりも遥かに上の、究極の生命体である。

 寿命はない。命の危険に晒されることなどまずない。


 そんな存在になると、とうとう性欲すらほとんどなくなるのだ。

 俺は転生体なので他とはちょっと違い、一応男性器はついている。

 他の邪神族の部下たちは、体は男なんだがついてないらしい。

 必要になったときだけ生えるそうだ。もっとも1000年でそんなことは一度もなかったが。


 1000年も過ごしていれば、この男性器が本当に使えるのかが気になることもある。

 ゆえにソロ活動をしたこともあった。でも無理。


 人生最後の勝負という覚悟を持って、最大最後の難敵に挑む。

 そのくらいテンションをあげればなんとかなるかもしれない。

 爺やはそんなことを言っていた。

 まあそんなの一生に一度あるかどうかだ。






 そんなことを考えていたら、ユーフィリアはお風呂からあがったようだ。

 ユーフィリア・プランタジネットは16歳。金色のロングヘアーで、髪はウェーブが掛かっている。

 魔王を倒す旅をしていたときはもう少し短めだったが、今は国元に戻り学園生活。

 おしゃれに気を使っているのだろう。

 長いまつげの下にある、エメラルドグリーンの双眸(そうぼう)は透き通るように美しい。

 

 細身なのにたわわな胸と突き出たお尻は、この1年でさらに成長している。

 国ナンバー1の美少女と評判であった。

 風呂上りの濡れた髪と上気した体は、年齢以上に(なまめ)かしい。

 人間の男であれば釘付けになってしまうであろう。


 性欲無くなってるくせに容姿やスタイルにうるさいって?

 美しいものを美しいと思う心がなくなったわけではない。

 人間だってダイヤモンドなどの宝石を見れば美しいと思うだろう。でもそれに欲情はしない。そういうことだ。


 まあ彼女をずっと見ていても、普通に学園生活を送るってるだけだ。

 学園と言っても依頼を受けて魔物を倒したり、魔王を倒したりするような人種――冒険者を養成する学校だが。


 他を見ようにも、さすがに魔王が倒されて1年足らずでは、人間同士の諍い(いさか)もたいしたことはない。


「アシュタール様どちらに?」


 俺が観察を終えて玉座から立ち上がると、爺やが訪ねてくる。


「俺が立ち上がるのは鍛錬するときくらいだ。わかるだろ?」


 俺がそう言うと、後ろに控えていた家臣の一人が前に進み出て(かしず)く。


「は! 本日は邪神軍、第一軍団精鋭がお相手させていただきます!」


 第一軍団長のアドリゴリが気合を入れて応えた。






 邪神軍――第一から第十五軍団まであり、一軍あたりの邪神族の数は約1000体。

 邪神族ではない魔物、召喚獣、魔法生物などを使役しているので、実際の戦闘時は数倍に膨れ上がるであろう。


 精鋭とはその1000体の邪神族を指す。

 1体1体が魔王級に強いと思ってもらっていい。


 その精鋭たちが――皆倒れていた。

 暗黒神殿にある巨大コロセウム。そこは訓練場でもあった。

 訓練を開始してまだ何分もたっていない。


「ううううう。強すぎこんなん無理」

「よかった……今日も死んでない」

「きたない。邪神きたない」

「びええええええん」


 起き上がれない者たちの泣き言が聞こえる。


「貴様ら情けない! それでも栄えある邪神軍精鋭部隊か!」


 アドリゴリがヨロヨロと立ち上がりつつ発破をかける。


「動けるものは我に同調せよ!」


 アドリゴリの足元に巨大魔法陣ができる。


「む、軍団技か」


 多人数が心を一つにし、一人に力を集める技法。

 まだ動けるものは皆残る力をすべてアドリゴリに渡していく。

 俺は手を前にかざし、受け止める体制をとった。


「うおおおおおおおおおおおお」


 アドリゴリの体からすさまじい力の奔流が巻き起こる。


「イビルバースト!」


 アドリゴリから放たれた邪属性の力が俺に向ってきて、大爆発を起こした。

 だがその力は俺まで届かない。かざした手の先には透明な壁のようなもの――結界があり、それが魔法を防いでいた。


「まだだああああああああああああ」


 アドリゴリが最後力を振り絞ると、パリンッという音ともに結界が崩れ去った。


「やった! アシュタール様の結界を壊したぞ!」


 アドリゴリが両手を挙げてガッツポーズをしている。軍団が皆でたたえあった。


「やった! 邪神軍初の快挙だ! 第十三軍団に勝ったぞ」


 俺は自分の手を見る。ほんのちょっぴり切れていた。

 もっともその傷もすぐに塞がったが。


「やれやれ。結界1つ割った程度でそんな大騒ぎされてもねえ」


 唯一の観客である爺やが俺の横まで転移して肩をすくめる。


「まあいいだろ爺や。こいつらも成長してるということだ」

「そうですぞエウリアス様。この軍団技をマスターするためどれほど特訓したことか……」


 エウリアスとは爺やの名前だ。


「軍団技の威力はなかなかだったな。俺も使ってみたい」

「それは無理です。あまりにも力がかけ離れている方とは同調することは出来ないそうで」


 アドリゴリが恐縮しつつ説明する。


「邪神様の物理攻撃、魔法攻撃、ブレスなど、ありとあらゆる攻撃を弾き飛ばす万能結界(サンクチュアリ)。これを破ったのは見事なれど、付け上がるでないぞ。本来の万能結界(サンクチュアリ)は自動発動。しかも常時幾重にも張られている。わざわざ手をかざして発生させたということは、1枚にしたうえにその1枚も弱めたということじゃ。」


 爺やが説明すると、アドリゴリは驚く。


「な、なんと! そうでしたか。我らはまだまだ未熟。精進します」


 俺はアドリゴリとエウリアスの会話を呆れながら眺めていた。






「やれやれ。爺やは厳しいな。多少は褒めてもいいだろ」

「なに。奴は褒めると付け上がるタイプですぞ。叩いて伸ばすべきです」


 1000年誰も来ないわけだが、俺は日々こうやって修行している。

 結果としてモリモリ強くなっていった。並の邪神の強さなんて知らないが、先代邪神の強さを知っている爺やによれば、先代より強いのは間違いないとか。


「俺もだんだん強くなってるからな。それに合わせて結界も自動で強くなってしまってる。だから一昔前の結界の強さにしてみただけだ。それを砕いたんだからたいしたものさ」


 そう言いながら俺は自分のステータスをチェックする。






種族 :邪神

名前 :アシュタール

Lv :999

HP :99999/99999

MP :99999/99999

STR:999

VIT:999

AGI:999

DEX:999

INT:999

CHR:999


スキル:邪眼 邪耳 邪鼻 邪気 万能結界 邪属性魔法レベル99 オートリジェネ オートリフレシュ 復元能力 etc






 うーん、この機能していないステータス。

 部下達によると1レベル上がるとステータスは2~5くらい上がるそうだ。

 つまり成長率がよければ200レベル代でもう999なんていってしまう。

 

 しょせん裏ボスなんてオマケの存在。

 そいつらのステータスなんて考慮に入れてねーよってことですか。

 人間とか魔族ならステータスが999まで行くことは滅多にないのだろう。

 だから999までカウントすれば十分だと。


 見かけ上は999が上限だが、それは表示だけで、実際のステータスは増え続ける。

 999でステータスの成長が止まるのではなく、数値上見えないだけ。

 レベルのほうも999では止まらない。


 俺も転生直後は800レベルだったが、それから1000年鍛えてかなり強くなった。

 それは間違いなく実感している。

 

 部下たちも強くなっているが、あいつらの能力値も当然カンストしている。

 なのでレベルが上がっているのはわかっても、強くなっていることはなかなか分かりづらい。

 だからこういうときは褒めてもいいんじゃないかと思うが、爺やはここでは一番厳しいから仕方ないね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ