18.第四魔災の勝因
第四魔災。
1000年で最強の魔王が起こした厄災。
人類は短期間で、なすすべもなく敗れた。
人類唯一の幸運はその魔王の方針。
発生した魔王の方針には色々ある。
発生するや否や、人類に侵攻をかけてくることもあれば、数十年動かないこともある。
人類を皆殺しにしようという方針もあれば、支配しようという方針もある。
第四魔災の魔王が人類を皆殺しにしようとするタイプだったら、人類はとうに滅びていた。
歴史家たちは皆そう言っている。
魔王は人類を支配し、100年もてあそんだ。
理由もなく殺されるものなど枚挙に暇がない。
人間は奴隷であり、モルモットであり、おもちゃであった。
ただし、一定の数は維持しようとしていたようで、無意味な大量虐殺はなかった。
しかしその暮らしの壮絶さは様々な文献に残されている。
「お前ら覇気がないなー」
歴史の授業。オルブライト先生が第四魔災の解説をしている。
「このタイミングでそんな話はちょっと……」
ジェミーが苦笑いを浮かべる。
魔元帥の件はすでに国内通知済み。
その強さを、人類の苦難の歴史を説明されて元気が出るはずがない。
「その魔王はなんでそんなに強かったんですかー?」
アイリスが挙手をして質問する。
「うーん。魔王がなんで強いかはわからないよ。ランダムというか、運がいいか悪いかなんじゃないかな」
オルブライト先生は難しそうな顔をする。
「ただ、どれくらい強いかってのはある程度説明できる。あくまである学者の推測だがね……」
魔王が発生すると同時に、軍団も発生する。
それは予兆なしに突然現れる。
魔王は1体。最高幹部は3~10体程度と幅が広い。
その最高幹部にはそれぞれ数十体の幹部がつく。
このあたりまでが高位魔族という認識でよいだろう。
魔王と強さを数値化するのは簡単ではない。
何体もの魔王と戦った経験者というのがほとんどいないからだ。
だが、最弱の魔王の強さを100としよう。
その場合。最高幹部の強さは60~80程度。幹部は30~50程度となる。
並の魔王は150。強めの魔王は200といった感じになると推測される。
だが、第四魔災の魔王グレモルクの強さは、一説によれば300を越えるとされているのだ。
なるほど、弱い魔王の3倍、並の魔王の2倍強いんだな、では済まされない。
最高幹部が200。幹部が100を越えるのだ。
つまり、配下に数体の強めの魔王と数百体の弱めの魔王がいるのと同じになる。
これが第四魔災。圧倒的な戦力で人類を制圧した魔王による厄災。
オルブライト先生の説明が終わると、教室内には沈黙が訪れる。
顔が青ざめる者。体がブルブルと震えている者もいた。
「そんな桁違いの厄災、どうやって勝利したのですか?」
ティライザが尋ねる。
「それはここからだよここから。人類が支配されること100年。人類はとうとう立ち上がったのだ!」
「おお。」
ジェミーが珍しく授業に食いつく。
「ジェミーがまじめに話を聞くなんて奇跡ですね」
「そ、そうね……」
ティライザに相槌を打つアイリス。
人類は黙って従っていただけではなかった。
無謀にも反乱を起こしたことは幾度もある。
しかし、どれも即座に鎮圧。
人類は次第に諦めていった。
AS暦615年。大陸最北の地ダータネス。
ここで一人の若者が仲間とともに蜂起した。
それを聞いた誰もがこう思った。
どうせすぐ鎮圧されるさ、と
しかし、彼らは鎮圧に来た魔族の軍勢を撃退。
それを期に人類の反抗の機運が高まった。
各地で反乱が続発した。
東部の山岳地帯では、龍族を100体以下にまで減らされ、復讐に燃える龍の姫が立ち上がった。
中央でも西部でもそれは起きた。
北の勇者や龍の姫。
それ以外にも、素性が一切不明の謎の光の戦士たち。
彼らはのちに魔王を討ち、7英雄――セブンスターズと称された。
「おおおおお」
ジェミーが興奮している。
「うるさいなー」
隣の席のティライザが不満そうだ。
セブンスターズには今までの人類にはない新たな力があった。
――神器。
リディル、クラウ・ソラス、グングニル、アルテミスの弓、カドゥケウスといった伝説の武器。
それらの力でもって、魔族を次々を打ち倒していった。
「つまり、英雄の力と伝説の武器が合わされば、第四魔災の魔族とて倒せるということだ。そう恐れる必要はない」
オルブライト先生はそう話を締めくくった。
座学が終わると、ユーフィリアは城に戻っていった。
「まあアタシらは普通にやるしかないわな。鍛えるだけさ」
ジェミーはいつも通り体を鍛えに行く。
アイリスも農業部に向った。
「そう、私たちはできることをするんです。そういうわけでちょっときてください」
ティライザに部室に連れていかれる。
部室というか実験室だが。
そこで2枚の写真を取り出す。魔法によって上空から取られた写真。
「これは第六魔災決戦の地、カン・プノー平原の戦い後の写真」
平原には直径数キロメートルもあろう、巨大なクレーターができていた。
「こちらは第二魔災の爪あとといわれているもの」
ここから東方の山岳地帯にある山。オールド・トランフォード山。
その大地から山々が超強力なレーザーで吹っ飛んだ感じになっている。
標高の高い山に、ぽっかりとでかい穴が開いていた。
「第二魔災は古すぎて詳細がわかりませんが、こっちは決戦で大魔道士セリーナ様が使った魔法――カタストロフィ。この力があれば、奴を間違いなく倒せます」
「まあ、そうだろうな。これを俺に見せてどうしろってんだ」
俺はとぼける。
「この魔法を習得するのを手伝ってください」
「手伝いって何をすればいいんだ?」
「セックスです」
「ファッ!?」
真顔で言ってくるティライザ。
「いgまうぃqmdpんd(訳:いきなり何言ってんだ)」
アカン。ずいぶん慣れてきたはずだが、動揺するとダメだな。
少し言葉がおかしくなった。
俺の言葉が伝わってるのかはわからないが、ティライザは気にせず続ける。
「一度セリーナ様にお会いしたことがあります。そのとき聞いたんです、その魔法をどうやったら使えるようになるかを」
セリーナは当然だが、その魔法の使い方を他者に教えることはなかった。
「そうしたら、男を知って、大人の女になったらまた来なさいっていわれたんです」
「そgばgくぉにsgぽrぉだけvねこ!(訳:それ適当にあしらわれただけじゃねーか!)」
残念ながらティライザはこういうことに疎いのだろう。
「それに、男の人に精を注がれると魔力が増えるってよく聞きますし」
「ぐrなmjエロゲ(訳:それなんてエロゲ)」
だめだ話が通じない。
いや通じるわけがないんだが。
まあそもそも俺はそういうことができないので、俺に言われても無理。
とりあえず、心を落ち着けて話せる状態に戻そう。
そう考えて深く息をはく。
「か、勘違いしないでください! 誰にでもこんなこと言うような女じゃないですからね」
むしろお前が何を勘違いしたんだよ。
俺が動かないので、ティライザはその理由を考えたのだろう。
「vぅぺうんfざめーy(訳:そういうことじゃねーよ)」
「責任を取れとかはいわないので安心してください」
脱ぐためだろうか、制服に手をかけたところで俺は手を掴む。
「ふぉ、gって。くぉぅmdがhぽdするvだ(ちょ、まって。それなら何とかするから)」
俺がそう告げると、ティライザは困惑した。
「さっきから何言ってるかわからないです……」
誰のせいだよ。




