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17.ダンジョンの奥に潜むもの③

 転移先は暗黒神殿。

 俺は玉座に座る。

 

「どうしました。思ったよりお早いお帰りですな」


 俺の帰りを待っていた爺やは穏やかに尋ねる。

 俺は今日の経緯を説明する。第四魔災の魔元帥が生きていたことを。


「ふむ、妙な話ですな。それほどの大物を取り逃がしていたことに気付かないとは」

「俺たちも勝敗が決したあとの残党狩りなどチェックしないからな」

「我々はそれでよくても、人間にとっては大事。なぜ人間はそれを見過ごしたのか……」


 アドリゴリやジェコら軍団長もその場にいて、話を聞いていた。


「それよりも、これからどうなさるおつもりで?」


 ジェコが話を変えようとしてくる。


「いきなり俺たちが何かをするわけにもいくまい。人間と魔族は天敵同士。お互いつぶしあうまでさ」

「では、ただ見守ると?」


 ジェコに問われ、俺はふと考える。


 まあおれ自身は学園生活を送っている以上、多少は関わることになるかもしれない。

 人類は魔王が発生した場合、全国民に通知する。


 隠すことに意味はないからだ。

 定期的に現れることは誰もが知っている。

 気が早いなら、今頃通知し始めているかもしれない。


 人類は恐怖に陥るだろう。

 第四魔災のナンバー2が実は生きていて、10万の軍隊をこしらえていたなどと聞いたら。


「あ゛?」


 俺はふとしたことに気付く。


「い、いかがなさいましたか?」


 ジェコが汗をかいて、動揺しながら尋ねてくる。

 他の者たちもビクビクしていた。


 今の俺の声に怒りがこもっていたことに気付かないものはいなかった。

 ここ数百年は新たな眷属は生まれていない。

 長い付き合いである。


「わからないのか?」


 俺の怒気を含んだ声に、ジェコが恐縮する。


「も、申し訳ございません」






 ダンジョンの奥で数百年雌伏の時を過ごす。

 そして偶然現れた勇者。


 それを一蹴。勇者パーティーは命からがら逃げ出す。

 そしてそれは瞬く間に世界中に伝わる。


 そして人類は知ることになる。

 第四魔災が終わっていないことに。

 人類は思い出す。

 なすすべもなく敗北した過去を。

 服従させられた屈辱を。

 虐げられた苦しみを。

 魔族の恐怖を。






「これって本来俺たちがやるはずだったことだろーが!」


 俺は怒りで床を蹴る。

 床はビキビキビキっとヒビがはいるが、しばらくすると修復していく。

 暗黒神殿には自己修復能力があるのだ。

 

 完全に破壊されても修復するのかはわからない。

 直らなくなったら困るので試さないが。


「お、落ち着いてください」


 第五軍団長ガレスが俺に近づいてきてなだめようとする。

 ヒゲ面のおっさんである。


「うるせえ!」

「ぐほぁ」


 怒りに任せてガレスを殴り飛ばした。


「ちくしょおおおおお」


 完全に先を越され、きれいにきっちりやり遂げられた。

 完璧だった。

 

 俺を邪神にしてくれた神に合わせる顔がない。

 いや、実際会うことはもうないけど。


 俺は怒りで邪気が全開になる。

 暗黒神殿がゴゴゴゴゴゴゴと震えている。


「お、お静まりください」

「うるせえ!」


 再度寄ってきたガレスを蹴飛ばした。


「そ、そこまでお怒りなら、もう今からでもでその10万の軍ごとフメレスをぶち殺しにいきましょう」


 俺はそんな提案をしたアドリゴリを睨む。


「今からやったってもう手遅れだ。それにいきなり10万の軍勢がいなくなったら色々不自然だろうが」

「ではどういたしますか?」


 そういわれても困るな。怒りで何も考えが思い浮かばない。


「まあ10万と言っても魔法生物とゾンビ。魔族とは違います。人類が協力すれば余裕でしょう」


 爺やが顎に手を当てて考え込む。


「問題は第四魔災の生き残りの幹部です」

「5体までは確認した」

「それは今の人類では苦労するでしょうね」


 俺と爺やの会話にジェコが疑問を投げかける。


「今の人類は弱いのですか?」

「人類というより勇者が、ですね」


 エウリアスは生徒に話すように皆に説明する。

 今学園で教師をやっているが、ある意味天職かもしれない

 

 人類の人口は基本増加傾向にある。

 魔災が起これば、一時的に激減することもあるが。

 

 今の人類の人口は1000年で最も多い。

 徐々にではあるが、様々な技術が進歩して来た結果だろう。

 

 一方勇者は何人かいるわけだが、その勇者が以前と比べてそこまで強くない。


「システムでそうなってるのか、たまたまなのかは知らんがな」

「ですので、幹部とフメレスを倒すには苦労すると思いますね」 

「数が多いんだから、人海戦術で倒せばいいことだ」


 結局何も決まっていないが、どうせ俺と爺やとジェコが人間界にいるのだ。

 何かあったらそれから考えればいいさ。







 翌朝学校に行くと、教室では暗い顔をしたいつもの4人がいた。


「え!?」


 ユーフィリアが目を見開いて驚く。

 そして俺に飛びついてきた。


「よかった! 生きてたのね」


 彼女はうっすら涙を浮かべていた。


「いh、ふぉg、ゆーzうぃp?(訳:いや、あの、ユーフィリア?)」


 俺は動揺してうまく言葉が紡げない。


「生きてたんですか」


 ティライザからは笑みがこぼれていた。本人は無表情を貫いているつもりのようだが。


「ていうか、生きてるならその日のうちに連絡してください」


 アイリスが少し怒っていた。


 彼女らは先にワープで王都に帰っていたわけで、王都のどこにいるかをいちいち探すのも大変。

 どうせ明日会うし、俺的にはあそこで別れの挨拶をしたつもりだった。


「もう。心配したんだから!」


 そうか。心配してくれてるのか。

 いや別に絶対平気なんだけどさ、俺は。

 彼女たちはそのことを知らないんだ。

 

 こんな感覚は久しぶり……。

 いや、そういえば前世でこんな風に心配してくれる人はいなかったな。


「もう平気だから、ちょっと離れてくれないか」


 彼女の体の柔らかさは十分堪能した。2つのふくらみも。

 その甘い香りはシャンプーの香りだけではないだろう。


「そうですね。教室でこんな風に王女様が抱き合ってるとか、大スキャンダルですよ」


 ティライザに指摘されて、真っ赤になりながらユーフィリアは離れた。


「どうやって帰ってきたんだ?」


 ジェミーの疑問に簡単に説明する。

 あそこの魔族は元々こちらを殺すつもりなどなかったことなどを。

 俺は結局見逃されたということにしておいた。


「なるほど、恐怖をねえ」


 ユーフィリア達は王都に帰ると、王政府他各所に連絡。

 政府は他国にも即座にワープで使者を送った。

 

 ブリトン王国はその晩のうちに国民に情報を開示。

 他国も近日中に告知するだろう。


「まあ最初はやつらの目論見どおりになるわ。でも連合軍が結成されれば、10万の軍など蹴散らせるでしょう」


 連合軍は各国が集まった会議で承認されて結成する。


「明日に対魔族会議が開かれるわ。私もその会議には出るので、なんとしてでも話をまとめないとね」


 対魔族会議。魔族への対応を話し合う国際会議のことだ。

 小国も含めてほぼすべての国が参加する。

 ユーフィリアはブリトン王国の王族であり、勇者。会議に参加するのも当然であった。

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