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15.ダンジョンの奥に潜むもの①

 翌朝また5人がケンジアンの前に集結した。


「あ、それ……」


 俺は昨日との違いに気付く。

 ユーフィリアは神剣リディルを持ってきていた。


「昨日の話をしたら、お父様もお母様も笑顔で了承してくれたわ」


 自信満々にVサインをするユーフィリア。


 金に目がくらむ王族。この国はそれでいいのか不安になった。

 もちろん昨日の財宝程度では一国の財政が健全化するわけもない。

 先はまだまだ長そうである。






 怪しいデッドスペース2箇所目。

 さらっと調べたが、例によって開け方は不明。


「もう壁壊すね」


 昨日のようにあれこれ頭を悩ませるのはめんどくさい。

 俺だけでなくユーフィリアも同様に思っていたようだ。


「大丈夫かあ? 万が一神剣が壊れたらどうするよ」


 昨日の1件でジェミーが弱気になっていた。

 それを聞いて、ユーフィリアもさすがに逡巡(しゅんじゅん)する。


「神剣、神槍といったものは今の人類が作ったものではなく、太古の神か何かが作ったもの。修理もできませんし、万が一壊れたら人類に大損害ですよね」

「昨日の財宝程度じゃ到底埋め合わせできません……」


 ティライザが淡々と、アイリスが不安そうに述べる。


「逆だ逆。こんな壁壊せないようじゃ神剣といえないだろ。使い手の力不足で壁が壊せないとしても、それで剣が壊れることはない」

「それもそうね。壁一つ壊せないようじゃ魔王相手にも使うのは不安だわ」


 ユーフィリアは俺の言葉に納得したが、実際のところ魔王とこの壁どっちが硬いかはよくわからない。


「はあああああああ!」


 ユーフィリアは気を充満させる。勇者の人気(じんき)。それを特別に勇気と呼ぶ人もいる。

 ユーフィリアがリディルを振り下ろすと、リディルと壁の接地面で激しい火花が舞う。




ギイイイイイイイイイイイィィ




 金属を両断する音がこだまする。

 その音が消失したとき、壁は真っ二つに割れた。

 その直後、壁は雲散霧消した。


「すげーなー」


 ジェミーが素直に賞賛する。

 アイリスとティライザは無言で拍手していた。


「ハァッ! ハァッ!」


 ユーフィリアからは汗がしたたり落ち、肩で荒い息をしている。


「思ったより消耗が激しいようですね」


 ティライザが疑問に思って問う。


「ハァハァ……あたしはリディルを使いこなすにはまだまだ未熟ってことね」


 ユーフィリアは自戒する。


「あとあれだ。今のは全力疾走するようなもんだ。そりゃ時間は短くても息は切れるさ」

 

 俺は壁の向こうを見る。

 その床に穴があり、はしごがかけられていた。


「ここが正解のようね。先にもう1箇所チェックしていいかしら」


 ここを降りればこのダンジョンに巣くうものたちもさすがに襲ってくるだろう。

 ユーフィリアの提案に従い、さきに最後のデッドスペースを調べることにした。






 残念ながらもう1箇所は何もなかった。

 ユーフィリアの回復を待って俺たちは地下3階に降りた。


「ここからは敵が襲ってきてもおかしくないわ。注意してね」


 ユーフィリアが注意を促すと、皆がうなづいた。

 これまでは何もないダンジョンに偽装していたわけだから襲ってこなかった。

 しかし、奥があるのがばれた以上、隠れている必要はない。


 俺たちは周囲を警戒しつつ奥に進んだ。

 だが、敵は現れない。代わりにあるのは……。


「うああああああ」


 ざくざくざくざく。

 落とし穴の罠。当然先行した俺が落ちる。

 下には剣山。

 まあ万能結界(サンクチュアリ)がはじき返しているのでダメージすらないが。


「罠探知はできないんですね」


 ティライザがひょっこり上から顔を出す。


「そんなスキルは存在しない。盗賊が罠に気付くのは長年の知識、それに経験と勘だ」


 当然俺にはそんなものはない。床が真ん中からパカっと開くかどうかなんてわからない。

 全部の壁や床に何か異変はないかを、入念に調べればそりゃ気付く。

 でも非常に神経を使う上に、時間がかかるのでやってない。



「というか大丈夫ですかー?」


 アイリスが心配そうに声をかける。回復は司祭である彼女の担当。

 俺は無言でうなずく。


浮遊(レビテーション)


 ティライザが空中に浮かぶことができる魔法を皆にかけていく。

 

 さらに先に進んだところで、俺は皆を制止した。


「どうしたの?」


 ユーフィリアが剣に手をかけて周りを警戒する。


「絶対にさわらないでね。ここに何か見える?」


 俺が指さしたのは1本の糸。いや、赤外線センサーみたいなものと言うべきか。

 使われてるのは魔法の技術なんだろうけど。


「んん~」


 ジェミーが目を細めて、そこを凝視しながらどんどん近づいてくる。


「おひ、vたる! まhyる!(訳:おい、あたる! あたる!)」


 焦ってしまい微妙に噛んだ。

 

「あ、ごめんごめん、気になっちゃってさ」

「何も見えないけど、何かあるの?」


 ユーフィリアもかがんで角度を変えたりしながら見るが、何も見えないようだ。

 邪眼(イビルアイ)がある俺には、なんらかのトラップを作動させる線はっきりと見えている。


 そのセンサーは水平に足元に、胸のあたりに。あるいは垂直に、あるいは斜めにとあった。

 それを詳しく説明し、俺が先導しながら罠を越えさせる。


「ちょっと! どこ触ってるのよ!」

「いや、ぶつかりそうになったから仕方なくだよ……」

 

 ユーフィリアが真っ赤になって怒るが、罠を避けるためには必要なことだ。

 そうやって奥に向かっていくが、敵は一切現れなかった。






 地下3階を踏破し4階へ。


「結局何もでませんね」


 アイリスが「ふうっ」と息をはきながら話す。

 ずっと緊張しながらというのは、なかなかにこたえるものだ。


「この間もこんなのありましたね……。とんでもなくすごいという噂のダンジョンに、意気込んで向ったら何もなかったという」


 ティライザが言っているのは暗黒神殿のことだろう。俺には何もいえない。


「一応いたけどね。すごそうだけどなんかよくわかんないの」


 ユーフィリアが思い出して語る。


「け、気配だけがすごい方だったんですよ。伝承にもそういう風に……」


 アイリスの声がどんどん小さくなっていった。


「書いてあったの?」


 ティライザに突っ込まれるともはや言葉もない。


 気配だけではなくすごいんだぞ!

 俺は心の中でアイリスを応援した。


「話はそこまで」


 ユーフィリアが言うと、雑談はぴしゃりと止んだ。

 目の前には巨大な門があった。


「この先が最深部かしら」


 何かいるとしたらこの先。そう直感が告げている。

 皆が戦闘準備を整えたのち、門を開ける。


 しかしその先には何もなかった。

 ただ真っ黒であった。灯りをかざしても光さえも通さない。


「む、これは転移門か」


 俺はその漆黒の空間に手を入れてみる。

 手はそのままずずズズッと闇に飲まれていく。

 邪眼(イビルアイ)をもってしても先の見えない闇。


「転移門ってなんです?」


 ティライザも興味深げ腕を闇の中に突っ込んでいく。


「この門の中は漆黒の闇。光も通さない。中に入ってもなにもかも真っ暗なんだけど、なぜか立てるし、中の人の姿は見える」


 それは亜空間の道。たいした距離ではなく、その反対側の門を越えると、全く違う場所に出る門。


「この門の先がどこに繋がっているかは不明。大抵亜空間に繋がっている」


 亜空間とはこの地上とは違う別の小さな世界。


「この先はのどかな草原かもしれないし、城があるかもしれない。この世界の常識が通じない世界さ」


 俺の話を聞いて、彼女らには一つ心当たりがあった。


「あ……この間の暗黒神殿ってもしかして」


 ユーフィリアがぽつりと言うと、3人は頷く。


「洞窟の出口が真っ暗で何も見えない。そこをちょっと進んで出口が見えて、出たらいきなり馬鹿でかい空間に馬鹿でかい神殿。地下にこんな空洞があるなんてありえないと思ってました」


 ティライザの言うとおりである。

 暗黒神殿は地下に空洞を掘って、そこにあるというわけではない。

 亜空間にあるのだ。


「転移門と名づけているが、階段や洞窟の出口でもある現象だ。境界を歪めて全然別の場所に移動させる」

「戻ってこれるんですよね……?」


 アイリスの不安を、俺は頷いて取り除く。


「当然。転移門を一時的に使えないようにするとか、誰かを出れなくするといったことはできない。ただ、転移系の魔法はたぶん使えないと思ってくれ」


 これも神話時代の遺物。神の力によって作られたもの。

 そういじくり回すことはできない。

 壊すことくらいはできるかもしれないが、壁とは比較にならないほど強大な魔法で防護されている。


 解説が終わったところで、皆と一緒に中に入る。


「なんか、変な感覚です」


 真っ暗な空間。しかし地に足は着いている。

 みんなの姿と出口だけが見える。

 ただそれだけの空間。

 アイリスがそんな感想を述べる。


「方向感覚とか、空間認識が狂うからな」


 俺の空間把握能力もぶっ壊れていて、ここがダンジョンのどの辺か? というのもさっぱりわからなくなる。

 転移するんだから当然だが。


 そして漆黒の空間から抜ける。

 転移先はそれほど広くない世界。正面には城が見えた。

 ここが地下ではない証明として、空では青空が広がっていた。


 城の門も無人であり、俺たちはまっすぐ奥へと進む。

 そのまま進んで正面の扉を開けると、謁見の間のような広い空間。

 その先にある玉座に座っているものがいた。


「やはり魔族……」


 ユーフィリアが気を引き締める。


――魔族。


 人類の天敵。何度倒しても再び出現する宿敵。

 人間より一回りから数回り大きく、肌の色は赤、青、緑などカラフル。

 大きな角、牙、鉤爪、尻尾などがある場合もある。


「よくぞ来た人間どもよ」


 青い肌をした大きな魔族は、その玉座に座ったまま語りかける。


「あなたがこのダンジョンの主?」


 ユーフィリアが周りを警戒しつつ問う。


「しかり」

「ならばここで倒すまで」

「倒す? 我を貴様のような人間の小娘がか!」


 その魔族は豪快に笑った。


「へん! こっちは魔王討伐経験ありの勇者パーティーだぞ!」


 ジェミーが斧を構えた。その斧が一部欠けているのはまだ直っていない。

 その言葉に魔族は表情を一変させる。


「ふふふふふふ……」

「何がおかしいのです?」


 ユーフィリアが問いただす。


「とうとう勇者が来たと聞いてうれしくてな。雌伏のときも終わりだ」


 魔族は立ち上がる。そして今まで隠していた魔気を開放した。


「何、この気配……」


 ユーフィリアが驚きで顔を見開いている。


「この魔気……私たちが戦った魔王マルコックより強い。遥かに!」


 ティライザが険しい表情で杖を構える。


「魔王より!? そんなことってあるんですか?」


 アイリスは恐怖で体が震えている。


「魔王の強さの幅が大きいからな。強い魔王の家来が、弱い魔王本人より強いことは普通にある」


 俺はアイリスに答えた。


「我はフメレス。魔元帥フメレス」


 フメレスは名を名乗る。


 1000年の人と魔の争い。俺はそのすべてを見てはいたが、さすがにすべての魔族の顔をいちいち覚えてはいない。

 ただその名前には当然聞き覚えがあった。


 人類の歴史に危機などいくつもあった。

 どれが最も危なかったかと言われれば諸説はあるだろう。


 だが、「もっとも強い魔王は?」と聞かれれば、誰もがこう答える。

 魔王グレモルク。

 500年前に第四魔災を引き起こした魔王。

 人類をあっさりと征服し、100年の支配を行った唯一の魔王。

 魔元帥フメレスはそのナンバー2であった。

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