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12.冒険者ギルド④

 事後処理を終え、部屋から出る。廊下の向こうではオーレッタが待っていた。


「誰も来ませんでした」

「そうかありがとう」

「それと、言われた通り書類を作成しました」


 バーナンドは死んだ。

 しかし記録上はまだ死んでいない。

 バーナンドはこれからとある依頼を受けて地方に行くことになった。

 

 作ってもらったのはそれを証明する書類。

 たいした仕事でもないので、一人でふらっとこなしに行った。

 皆はそのうち帰ってくるだろうと気にも留めない。

 しかし彼が帰ってくることはない。


 かなり時間がたってから、帰ってこないことを不審に思う者も出るだろう。

 しかし冒険者が依頼で命を落とすことはままある。

 行方不明者で処理されて終わりである。


 仲がよかった者は不審に思い調べるかもしれない。

 けど調べるのは旅先か、旅の途中で何があったか。


「あなた様なら私にこんなことをさせなくても、この男程度どうにでもできたのでは?」

「人を殺せば罪に問われる。この国程度に俺を捕らえることなどできないが、学園生活が送れなくなるのでな」


 罪に問われないようにするには、殺人を隠匿する必要があった。

 殺すだけなら、暗い路地裏でも、バーナンドの自宅ででもできる。


 しかしその場合、さすがに捜査は行われるだろう。それも即座に。

 バーナンドと問題を起こした人物、恨みがある人が真っ先に容疑者となる。


 俺は奴といざこざを起こした。多数の人が目撃している。

 俺も疑われて色々嗅ぎまわられてしまう。

 容疑者に奴を殺せる能力があるのが自分しかいなければ、最有力の容疑者だ。


 元々身元不明の胡散臭い人物なのだ。

 しかも色々隠し事がある。疑われること自体をできるだけ回避したほうがいい。


 だからオーレッタにこんなことを頼んだ。

 オーレッタがいなければ奴に仕返しをするのはいつになったかわからない。

 俺はとても感謝している。


「なるほど、そこまでお考えでしたか。失礼しました」


 説明を聞き、オーレッタは頭を下げる。


「何かあったらまた頼みに来る。それまでは今までどおりに仕事をしていてくれ」

「はい。あなた様をサポートする上で、目的をお教え頂けるとありがたいです」

「目的?」

「たとえば世界征服とか」

「それはないな」

 

 オーレッタは色々と勘違いをしているようだな。

 邪神族の目的はそういったところにはない。

 我々はラスボスが勇者に倒されたのち、次に勇者に立ちふさがるべき存在。通称裏ボス。

 

――ただしオマケ要素。

 ストーリー上必須ではなく、別にやりたくないならやらなくてもいい存在。

 結果1000年放置された。


 やっと勇者が現れたと思ったら、とある奴が大失態を犯して神のプランをぶち壊し。

 その反省と弱点克服のために学園に通っている。


「俺の目的は女だ」


 邪神の説明なしでこれをどう伝えようか迷ったが、結局これで十分だった。


「えっ!?」

「昨日も言ったとおり、俺は若い女性が苦手でな。それを克服するために学園に通っている。世界征服とかは興味がない」


 オーレッタはそれを聞いてふと思い出す。


「しかし私とはもう普通に話せてませんか?」


 言われてみればそうだ。

 今のところ結構うまくいっている。

 でも動揺するとたぶん謎言語になるだろうな。


「なら少しずつ特訓の成果が出ているということだ」

「私ならいつでもお話し相手になります。お申し付けくださいませ。も、もちろん体のお相手でも!」


 オーレッタは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 残念ながら俺はその相手はできないんでな。

 俺はオーレッタに挨拶をして帰った。






 ブリトン王国首都ローダンにあるカンタブリッジ学園に通っているが、俺は王都に家を持っていない。

 ワープの魔法で毎日行き来しているのだ。


 暗黒神殿に戻り、玉座に座る。

 ちょうど爺やも帰ってきた。


「爺よ」

「はい。なんでしょうアシュタール様」

「お前はこの1000年。結構外に出てたよな」


 人に接触しなければいけないとき、人間界に用事があるときは大抵爺やが担当していた。


「はい。それが何か?」

「人間に好意を寄せられたり、告白されたりしたことあるか?」

「はい。何度もございます」


 さすがイケメン。爆発しろ。


「そういう時どう対処した? 特にベッドに誘われたときとか」

「そういう行為ができない体であることを、正直に伝えてお断りしてます」

「なるほど。しかしそれもなあ」


 邪神族は性欲がほとんどなく、そもそも俺以外は男性器もない。


「いろんな人間と会って、本気で好きになるとかはなかったのか」

「ありません。今日はそんな質問ばかりですね。何かありましたか?」

「たいしたことじゃないが、なんかそういった機会が増えるような気がしてきてな。このまま不能なのもどうかと」


 いや、すでにそういう機会があったのだが、さすがに言うのは恥ずかしい。


「死ぬ気でヤル気を出せばいけるはずです」


 人生最後の勝負という覚悟を持って、最大最後の難敵に挑む。

 前に聞いたときはそんなことを言っていた。


「どうやってそこまで気分を高めるんだよ」

「そうですな……たとえば本気で恋をなさるとか」

「本気?」

「はい。この人以外何もいらない。この人がいなくなったら生きていけない。それくらい大切な人となら……」


 なるほど。そういうテンションの高め方もあるのか。


「それにアシュタール様は前世の記憶がおありなのですから、当時を思い出してみては?」


 当時。1000年以上前の話。

 もうかなりおぼろげになりつつある。

 前世では当然性欲はあった。

 そりゃあもうギンギンですよ。


 でもそれを思い出しても全く反応しません。

 そもそも前世ってろくな目にあってないからね。

 

 女性と話そうとすると謎言語になるのは前世でも同じ。

 こんな奴どう考えてもクラスのおもちゃ。イジメ対象ですわ。


 ええ、ヤンキー女子にいじめられてました。

 「やらせてください」って言えたらセックスさせてやるぞって言われたこともある。

 ヤンキーと言っても結構美人。こんなチャンスは二度とないと全力で言おうとしましたよ。

 

「やじゃげdどヴぁd」


 結構言えた方だと思うよ。これ大体わかるじゃん。でもだめだった。


 いや。こんなことを思い出しても仕方がない。

 明日はダンジョン攻略に行くのだったな。

 その準備を済ませて寝ることにした。

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