見える全てが変わっていた。
前作を完結させずに始めるクズです。一章完結させるのに一年掛かっちゃった♡今回は一章分だけ頑張って上げます。飽きたらまた別のを書きます。
……おじさん
ここどこ?
「……とぼけたことを聞くな、お前は」
「う、うん。だってぼくここ知らないわけで」
「さっきからそこにずっと立っているのに、お前はここがどこかわからないのか?」
「はい」
「ほれ、そこの看板」
――――アルドシア?
読めた。異国の知らない文字だけど、頭の中にスゥと言葉が浮かび上がった。
だけど、知らない。
背が高い看板は、Y字の道に合わせて、二股に道しるべを立てているんだけど、そこがどこだか、わからない。
「おじさん、ここどこの国?」
「……自分が今いる国の名前もわからないのか?」
「うん」
「―――――頭でも打ったか? 坊主」
「いいから教えてよッ」
「はぁ……ここはアルドシア帝国。そしてここは中央都市、首都アルドシアへと続くアッテオの街道で、そっちはアリエルの村だ」
「―――――」
初老の男はため息交じりに山の方を指さすが、もちろんどちらも聞いたことがない。
全部で二百何十カ国はあるであろう国を全て知っているわけじゃないけど、僕はこの国を全く知らない。
ここはどこ?
そもそも僕はどうして、ここにいるの?
なして?
「もういいか? 構っていたいが少し急いでいてな、あまりここで使っている時間が惜しいんだ」
「……」
「―――――ガナン」
呆然とする僕をよそに、馬車の客室から一人の少女が顔を出す。
その子はぼくよりも小さくて、綺麗な金色の髪で肌は色白で瞳は少し緑がかった青で、なんだか綺麗なお嬢様って感じの女の子だった。
多分この子はいいところのお姫様で、このしわがれた馬車の馬を操る老人がその従者なんだろう。
で、その初老の男は女の子が出てくるなり、頭を下げる。
「……そうですね」
「ま、まだ、間に合うと思うの……だから何か必要なものを」
「―――――いいでしょう。この男の『顔』に免じて、ワシのお古でも与えましょうか」
「うん……」
少女は少し嬉しそうに微笑んで、それからおじさんは荷馬車から何かを投げる。
僕の足元に転がったのは、袋が一つと、細長い棒状のもの。
これは、柄がついている。
僅かにそりかえった細長いそれは――――
「……剣?」
「アルフレイム鉱石を削って出来た結晶石を更に削り叩いて作った刀だよ」
「……刀?」
「―――――ウォルフィアードだったら、知っていると思ったんだがな」
「うぉるふぃー?」
「いちいち答えていたら日が暮れる。我々はこの場で失礼する」
「ち、ちょっと待ってよ、おじさん。何が、何がどうなってるんだッ?」
「獣人の坊主。しっかりと村に帰るんだぞ」
え?
馬車が土煙りを上げて去っていく。
荷馬車の小窓から、少女が麦わら帽子を押さえながら、顔を出して、小さくこちらに手を振っている。
その瞳に映るのは――――僕?
ううん、正確には違う。
だって、僕にはあんなにびっしりと全身に毛が生えていない。
髪だって黒いはずなのに、僕の体毛は銀色のようにも映ってたし、鼻も耳も突き出て伸びていた。
あんなの僕じゃない。
だけど――――だけど。
「……まじ?」
僕は震える手で足元に転がる、【刀】を手に取り、柄を握り締めて鞘から身を引き抜く。
刀身には僕の姿が映った。
それは【オオカミ】みたいだった。
全身毛むくじゃらで、頭から耳が尖って見えて、鼻筋が突き出ていて、牙が伸びていて、顔をひきつらせる、学校の制服姿の僕が、そこにいた。
銀色のオオカミ男が僕の前にいた。
「え……ええええええええ!?」
目ん玉がひんむくほど驚く顔が刀に映った。
刀が地面に転がった。
碧水晶のように透き通った刀身が空を映した。
「え、僕なんでこんな姿……? え……ええぇぇ……」
僕の名前は龍藤 空
「な、なんで、なんでぇ……?」
地元の私立の高等学校に通う高校一年生。
趣味はなくて、特技は居合道で両親の実家が道場をしていて、僕は門下生で。
そして、今いるのは―――――知らない場所。
「ここ、どこなの……?」
知らない景色。知らない空。
山が大きい。ビルがなくて空が広くて平野が広がっていて、風が冷たい。
僕は、今知らない世界の知らない場所にいた。
そして、知らない生き物に変わっていた。
「……うそぉ」
風が冷たく、破れた僕のズボンから延びた僕の尻尾を撫でた。
今日は一日目。
狼男になった僕の知らない異世界、アルドシアと呼ばれる土地生きた最初の日だった。
苦情等は感想で言ってください。