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弐
「これに乗るんだ」
私は男に言われるがままに馬車へ乗り込んだ。
4年の歳月を過ごしたこの森ともお別れだ。
私がここへ戻って来ることは2度とないだろう。
これから私は知らない土地で顔も名前も知らない誰かと結婚するのだから
花嫁とは名ばかりの生け贄として世界の均衡を保つためだけに
私は何も知らなくていい。
それがどんなに愚かなことかをも私は知らなかった。
アマリリスは何も知らない。
村人達が本当はアマリリスを心の底から愛していたことを
そして何よりも己の気持ちを
彼女は知らないのだった。