さようならの儀式
2章 さようならの儀式
物心ついて初めての葬式で、喪主をやれといわれても、
どうしていいのかわからなかった。
葬儀屋も十七歳そこらのぼくが全部仕切るのは無理だとわかっているから、
「どうしましょうか」
ではなくて、
「こうしましょう」
という口調で段取りを決めていく。
棺おけが三つも並ぶ葬式も珍しいのだろう。
葬儀屋も落ち着いた物腰ではあるものの少々勝手が違うと戸惑っているように思えた。
ぼくは喪服がわりの制服のジャケットに袖を通した。
ここはクーラーがよくきいているから、上着を着ていても暑くない。
ぼたんをとめる右手にはまかれたばかりの白い包帯。白い、白い包帯。
駆けつけた病院では、まだ実感がわかなかったのか、
ヘンな冷静さで白いリネンに包まれた家族と対面した。
機械音のしない部屋。もう全ての医療機器が取り外された親父とお袋。
ヤヨイだけはまだモニターにつながれた状態だったけれど、
画面に映る波形は限りなくフラットにちかく、やがてピーという警告音が鳴り響いた。
ぼくがみている光景はなんなのだろう。
ドラマか?
映画か?
医者も看護士も限りなく嘘臭くみえる。
大掛かりなドッキリにひっかけられているのか?
「ヤヨイ」
小さく呼んでみた。ヤヨイの瞳は開く事はなく、唇もぴくりとも動かない。
きれいに形を整えて磨いてある桜色の爪。ぼくは指の先に触れて、もう一度、
「ヤヨイ」
と声をかけてみた。
額の大きな傷。生え際に乾いた血液がこびりついている。
頭のおくで心臓がどくどく音をたてているような感じがして、眩暈がした。
看護士が声をかけてくれるまでぼくはブロンズ像のように固まったままだった。
それから医者から説明されたことも警察とのやりとりも実は殆ど覚えていない。
ただ言われるがまま、書類をいくつか書いて、気がついたら病院から紹介された葬儀社の控え室でへたり込んでいた。
カズの母ちゃんが血相変えてとんできた。
どこから情報がはいったのかはわからないが、大人がいてくれるのはありがたい。
ぼくには頼りにできる親戚がいないから。
カズの母ちゃんはぼくをぎゅーっと抱きしめてくれた。
とびきりの美人でそのうえ若い。でもそれ以上に気が強いしっかり者だ。
カズを女手ひとつで育ててきたツワモノ。
黒い洋服からかすかにカズの家の匂いがして、ぼくは緊張が緩んだ。
あとからあとから涙がでてきて、止まらなくなった。
すこし落ち着いてからぼくはカズの母ちゃんの車でいったん家に向かった。
制服と、葬儀用の写真なんかを取りにいくためだ。
家はぼくが出かけた時のまんまで、まだ親父の煙草の匂いとか、お袋の香水の匂いとか、
鼻をくんくんさせれば嗅ぎ取ることができそうだ。
洗面所にヤヨイの髪留めがおいたままになっていたり、洗ったカップが水切りの中に重なっていたり、日常があちこちに残っている。
もう誰もここに戻ってこないのだということが理解の範疇を超えていた。
親父の書斎の棚からアルバムを引っぱり出した。
そこに写っている笑顔と、病院でみた痣やキズのある顔がフラッシュカードみたいに頭に浮かんできてたまらなくなった。ぼくの中の風船がばちんと音をたてて破裂した。
叫びにならない声をあげて、部屋の壁を殴った。
何度も
何度も。
カズの母ちゃんが気がついてとめてくれるまで、ぼくはこぶしを壁に打ちつけ続けていた。
後ろから羽交い絞めにされて、そのままその場にしゃがみこんだ。
ぼくの体をきつく抱きしめるカズの母ちゃんの腕をほどこうとして見ると、
右のこぶしは血でぐちゃぐちゃになっていた。
肩であらく息をしながら、
「大丈夫です」
と、言ってゆっくりと立ち上がった。
黙々と必要なものを紙袋につめて、ひきずるような足取りで車に乗り込む。
「途中、薬屋に寄るよ。包帯と消毒買うからね」
カズの母ちゃんはエンジンをかけながら言った。ぼくは黙ってうなずいた。
応急処置で巻いたハンカチには赤黒い血がにじんでいた。
ついさっき選んだ三人の写真が引き伸ばされて、黒い額縁に飾られている。
右手を包帯を巻いてくれているカズの母ちゃんに預けたまま、ぼんやりと見ていた。
技術の進歩ってやつは、すげえ。
パソコンに取り込んで、背景をちょいちょいっと消したら、記念写真がすぐに遺影に早代わりだ。
昔のひとはどうしていたのだろう。
歳をとったら遺影用になるような写真を自分で撮影して準備していたのだろうか。
でも、うちみたいに突然逝ってしまった場合は?
そんなことをぼんやりと考えた。
ヤヨイはこの写真で満足しているだろうか。
「お兄ちゃん!もう!この写真はほっぺたがふくらんで見えるからイヤダって言ったでしょ!」
なんて怒っているかもしれない。
ヤヨイはプリクラのほうが写りがいいから、デジカメは嫌いって言っていたっけ。
まあ、いやがるほどもなく、我が家のデジカメはずっと埃をかぶったままだったな。
小学校の頃までは運動会なんかのイベントに持ち出していたものの、
高校や中学の体育会で親がシャッターをきっていた記憶はない。
もちろんビデオカメラもそうだ。
たまに親父が社員旅行だとかって持ち出すことはあっても、せいぜい十枚撮ってくるのがいいところだ。
親父の写真は誰かの結婚式で撮ったやつ。
ヤヨイは修学旅行で友達と撮ったやつ。
お袋の写真はなかなかなくて、今のお袋よりちょっと若い。こっちは、
「それでOKよ」
と、親指をたててくれているだろう。
「ケンちゃん!」
振り返ると、喪服を着た妙子おばさんが白いハンカチを口元にあてて、駆け寄ってきた。
ぼくにすがりつくと、
「うううう」
と、うなるような泣き声をあげた。妙子おばさんは親父の妹だ。
「こんなことになって・・。電話もらって慌ててとんできたのよう」
と、号泣している。喪服からはナフタリンのにおいがした。慌てて来たわりには髪の毛がしっかりセットされている。関係ないけど。
「リョウスケもこんな不幸なことになってしまって」
なんだかヘタクソな芝居を見せられているようで心の一番奥が冷めてしまっている。
おばさんはひとしきり親父とヤヨイの不幸を嘆いた。
でもぜったいにお袋のことを可哀想だとは言わない。
たぶん腹の中では自業自得だとか悪態をついているに違いない。
こういう場だから口を慎んでいるけれど、妙子おばさんのお袋バッシングは強烈だ。
「さげまん」という言葉もそれで覚えたくらいだ。
でもどんなにお袋の悪口を聞いても、お袋と結婚したせいで親父が勘当されたと聞いても、
お袋はぼくにとって救世主だった。
小さかったぼくと親父が住む家にお袋が来た時、ぼくはすごく嬉しかった。
モノトーンだったラフスケッチに絵の具を一筆加えたときのように、
さっと一瞬にして場面が鮮やかになった印象だった。
母の日。
幼稚園で折り紙のカーネーションを作りながら、得意げにお袋の自慢をした覚えがある。
「ぼくのおかあさんは、すっげえ美人なんだぞ。いいにおいの香水をつけているし、髪の毛だってくるっとカールしていて、テレビに出てくるひとみたいなんだぞ」
小学校に入ると、
「こいつのおかあさん、本当のおかあさんじゃないんだってさ」
「お前、橋の下でひろわれたんだろう」
と、いじめられたこともあったけれど、確かにあの幼稚園時代のぼくは、世界一の幸せものだと感じていた。
どこの家族でもそうであるように、うちの家族は幸せな家族と断言できるほど完璧ではない。
かといって不幸な家庭というわけでもない。
標準的家庭ってことか。
家族の会話もそんなにないし、朝だって、朝食はバラバラに食べて、バタバタとそれぞれの会社や学校に行く。帰ってくるのも、まちまちの時間帯だから、家族全員で飯を食うなんて二週間に一度ってところだろうか。それも近所の焼肉屋の割引デー。
例えば誰かの誕生日だからって、
「みんな今日は早く帰って来ましょうね」
なんて言われることは無い。
だいたい当の本人は友達と誕生日パーティだ。
親父が帰るのを待ってバースデーケーキを食べていたのはヤヨイの十二歳の誕生日までだっただろうか。
家族なんて空気みたいなもので、そんなに特別に思わなくても、家に帰ればいつだって同じ顔があるのが当たり前。親父やお袋の説教なんて、毎日聞いていれば、暗唱できるくらいに同じことの繰り返し。
家族に神経使うよりも、どうやったらナミエともっと接近できるかとか、カズは別として、ほかの、まあどうでもいい友達との距離を、つかず離れず上手にコントロールするほうによっぽど気力を使った。
こんなにバッサリと断ち切られてしまうなんて、思ってもいなかった。
しかも、ぼくひとりだけ残して。
お経の言葉はどういう意味なのか正直よくわからない。
観世在菩薩とか、南無とか全部漢字で書かれた言葉がお坊さんの口から糸のようにつらつらと流れ出ている。斎場の中は、むせるような線香の匂いで白く煙っている。妙子おばさんがぼくの隣に座って次々にお焼香にくる弔問客に頭を下げていた。
ぼくもひとりひとりに頭を下げていたけれど、誰が誰だかよくわからなかった。
親父の会社のひと。お袋の仕事場のひと。ヤヨイの友達・・・。
ぼくは顔をあげなかった。
誰の目もみないで、相手の膝に乗せられた数珠を持った手に向かって挨拶を繰り返した。淡々と。
時おり妙子おばさんが鼻をすすりあげていたけれど、ぼくはこの場所で泣く気にはなれなかった。
どうしてだろう。
「気を落とさないで」
と、口々にお悔やみを言って、ぼくへの励ましの言葉をかけてくれる人たちには、心から頭を下げた。でも、頭のどこかで、張り詰めているものがあって、ぼくの涙を律していた。
最後のほうにぼくの見慣れた手が、握りこぶしを作って、ぼくと同じ制服のズボンを掴んでいた。
カズだ。
ぼくはとっさに顔をあげた。カズの目は真っ赤になっていたけれど、涙は流していなかった。ぼくと一緒にこらえてくれているんだなと思ったら、ぼくの目もじんわり熱くなった。
カズは、うん、うん、と二回頷いた。
ぼくは一回だけ、うん、と頷いた。
通夜が終わったら葬式。
おとき。
精進落とし、
初七日。
人間が死んだらこんなにいろいろなセレモニーがあるのだと改めて知った。
それも宗派によってやり方が違うのだ。
「宗派はどちらですか」
と尋ねられたときには、正直困った。キリスト教じゃないことは確かだけれど。
家紋は何ですかと尋ねられても全然わからない。
模様は羽でしたか、矢でしたかと聞かれても、見たことないのだから、思い出しようもない。
ぼくって日本人だったのだなあ、と実感した。
伝統とか、家の歴史とか全く考えることなく生きていた。今はそれでいいのだと思っていたから。
葬式は無事に終わりそうだ。しびれた足先が限界を超える前に、出棺となった。
黒い車に乗り込むと、長いクラクションを鳴らして、車はゆっくりと走りだした。
どっと疲れがでて、遺影を抱えたまま座席の背もたれに体を預けた。
焼き場には妙子おばさんと会社の上司にあたるひとがついて来てくれた。
焼き場なんてはじめてだったけれど、案外きれいな建物で、人もたくさんいた。
順番待ち。
そうか、毎日誰かが死んでいるんだもんな、とつぶやいた。
受付で書類を提出した。
「三番待合室をご使用ください」
と、落ち着いた声の女性が、右手の部屋を示した。
簡単なソファとテーブルの向こうに畳敷きの小あがりがある部屋だ。
畳の上の低いテーブルには、メニューが置いてあった。
こんなところに?
違和感があった。
でもとなりの部屋からは大勢の人間の気配がして、食べたり飲んだりしている様子だ。
一歩廊下に出てうかがっていると、親戚中が集まって思い出話をしている。
小さな男の子が部屋から走り出て、きゃっきゃと笑った。
若い母親にたしなめられて、唇をとがらせて拗ねている。
「まあ、いいじゃないか。坊主、大きくなったなあ」
と、年輩のおじさんが、ひょいと男の子を抱き上げる。
亡くなったのは、おじいさんか、おばあさんだろう。
順番通りのお迎えで天国に逝って、みんなから、いいひとだったねえと送られる。
大往生だったのだろうか。病院で治療の末亡くなったのだろうか。
「介護、大変でしたねえ、本当にお疲れ様でした」
「おじいちゃんもさぞ満足だったことでしょう」
と、声を掛け合っているのだろうか。
そうやって送ることで、残された人間もきちんと気持の整理がついていくのだろう。
ぼくは、どうする?
ひとりで何を語る?
部屋の中では妙子おばさんが、会社の上司にコーヒーをすすめている。
これから、ぼくはどうなる?
どうなる?
急に不安がこみ上げてきて、ぼくは部屋をあとにした。
廊下のつきあたりまでゆっくりと歩いていくと、大きな窓があった。
ガラス越しに山が見えた。緑が繁っていて、いつもの通りそこにある。
昨日も去年も、同じ形であったように、あたりまえにそこにそびえている。
だから、明日も同じようにそこにあると、誰だって思うじゃないか!
大雨も降っていないのに、明日大きな土砂崩れがあって山が無くなってしまうなんて、誰も予測しないじゃないか!
ぼくはこぶしに力をいれた。包帯が邪魔をしてきつくは握れない。
ぐうっと喉の奥がなって、心臓がどくんどくん脈打っている。
両手のこぶしと、額をガラスに押し当てた。
「また、怪我するよ」
突然そういわれて、振り返った。
誰もいない。
でも、今のは、ヤヨイの声だ。いや、でもそんなはずはない。
「ガラス殴ったって何にもならないんだからね」
「ヤヨイ?!」
「お兄ちゃん、すっごいびっくりした声出している」
ヤヨイのくすくす笑いが聞こえた。
どこから・・・?
頭の中だ!
「あたしねえ、なんだかわからないけど、お兄ちゃんの頭の中にいるみたい」
ぼくは髪の毛をひっぱってみた。耳を強く押さえ込んでみた。声は頭の中に響いている。
「どうして?ヤヨイ、どうなっているんだよ」
「わかんないよ、あたしだって。死んだの初めてだし。でも幽霊とかそういうのとはちょっと違うみたいね」
あたりを見回してみた。誰もいない。
頭をぶんぶん振ってみた。
「そうだ、親父は?お袋は?」
「さあ、わかんない。でもたぶんもうすぐ来ると思うよ。そんな気がする」
「来るって・・・どこへ」
ヤヨイがふふっと笑った。
「お兄ちゃんの中に、だよ」
ぼくは耳を澄ませた。ちがうな、自分の中をじっと探ってみた。
「ケンジ」
お袋の声だ。
「ケン」
親父の声だ。
「親父、お袋、大丈夫?・・じゃないだろうけれど、えっと、大丈夫?」
ははは、と親父の乾いた笑い声がした。
「心配かけてすまんな。ひとりにして、すまん」
「いま、どこにいるの?」
「さてなあ。お前の中なのかなあ。白いミルクみたいな霧の立ち込めた部屋だ。お前の声は部屋全体から聞こえてくる」
「みんな一緒にいるの?」
「みんな?カナコとヤヨイのことか?」
「そう」
親父はしばらく黙っていた。
もしかしたら、死んだのは自分だけだと思っていたのかもしれない。
親父たち同士の声は聞こえていないってことか。
「いや、ここには私ひとりだ」
「ヤヨイ、ヤヨイはどこにいるの?」
「あたしは綿菓子みたいなふわふわの詰まったピンク色の部屋にいるけど」
「お袋は?どんな部屋にいるの?」
「部屋?え~と、なんかミラーボールみたいな光がちらちらしているわ」
「カラオケかよ」
「マイクはないわよ」
みんな別々の部屋にいるんだ。顔は見えないけれど、ぼくと会話ができる。
別々の部屋で違うことをしているけれど、ぼくという家の中に存在している。
いままでの家族がそうであったように。
ドア越しに、
「お風呂入っちゃってよ」
「あともうちょっとしてから」
なんて声だけでコミュニケーションしているみたいじゃないか。
いままでだって、リビングでそろってトランプをしたり、同じテレビを四人並んで見ながら意見を言い合ったりした経験なんてなかったじゃないか。
いままでと変わらないさ。
ぼくは自分にそう言いきかせた。
言いきかせようとした。
涙がぽろぽろあふれてきて、止まらなかった。
緊張が解けた安堵と、自分をなぐさめている自分へのいとおしさの涙。
制服のポケットを探ったら、ハンカチがあった。目をごしごし拭いた。
こんなヨレヨレの姿をみられたくない。(誰に?)
負けるわけにはいかない。(誰にだろう)
ハンカチのにおいが、お袋のたたんだ洗濯物を思い出させた。
「お母さんっていい匂い。洗濯していた匂いでしょ」
忘れていた幼稚園の頃の歌が、うかんできた。
だめだ。やっぱり、不安がこみ上げてくる。
喪失感はブラックホールのようにぼくを飲み込もうと、足元で口をあけて待っている。
叫んで倒れて眠ったら、全部無かった事にならないだろうか。
う~んと伸びをして、悪い夢をみちゃったなあ、と目覚ましを止めてベッドから起き上がって。
「人生はリセットできないんだぞ」
担任教師の口癖がよぎる。
わかっているよ。でもこんなのリセットなしでどうやって続けていけばいい?
「人生はゲームじゃないんだからな」
わかっているよ。わかっている。
髪の毛をむしるようにして頭を抱える。
瞼のうらにはじけるような光の模様が見える。
「ケン、大丈夫だから」
三人が口々にぼくに語りかけてきた。
「心配しなくていいから。きっとなんとかなるから」
「お兄ちゃん。お兄ちゃん」
ふう、ふうとおなかにたまったものを吐き出す。
ちりぢりに千切れた気持がゆっくりとかたちを整えていく。
手のひらで凍えた小鳥を温めるような、そんな優しい響きの言葉だった。
「大丈夫」
「大丈夫だから」
ぼくは深呼吸した。そうだった。これから親父たちの骨を拾わなければいけない。
骨はこれまでみんなの魂を住まわせてくれた家の大切な柱だ。
家がどんな形になっても、きっと魂の形はかわらない。
もうすぐ、
「三番待合室のアイザワ様」
と、しめやかなアナウンスが流れるだろう。
やらなければならないことはたくさんある。
妙子おばさんにまかせっぱなしじゃいられない。
「行ってくる」
そう言うと、ぼくの中でみんなが微笑んだ気がした。
ひとりでもちゃんとやっていけるかな。
とにかく泣いてなんかいられない。
「ケン、これからはいつだってずっと一緒だから」
親父の手のぬくもりが左の肩に触れたような気がした。
でもきっとそれは気のせいだ。
だって親父たちは幽霊じゃない。
ぼくの頭の中に引っ越してきたのだから。
ぼくたちファミリーは、新しいキズナでスタートするんだ。