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プロローグ(あるいは今のぼくのモノローグ)
序章・七年後の電車にて
いまでも通勤電車に揺られていると、
家族のことを鮮明に思い出す。
あの残酷な夏の日からの一年。
平凡でばらばらだったぼくたちが、
非凡でありながら本当の家族のかたちを手に入れた日々を。
誰かに言えば、それは幻想だったのだと、
失笑されるだろう。
だからぼくは、あの夏と秋と冬と春のことを
誰にも話していない。
いつかぼくに血のつながった家族を持てる日が来たならば、
そのときは話して聞かせよう。
ぼくの父親が、母親がどんなに強くて優しかったか。
妹が生意気なくせに、どれほどかわいかったか。
そういったことを、物語みたいに。
ぼくは話をするのが上手じゃないから、
理解してもらえるか心配だ。
それでもぼくの記憶を、
血のつながった、まだ見ぬキミに覚えていてほしいから、
寝物語に何度でも話して聞かせてあげる。
お伽噺と思ってくれてかまわない。
ぼくが年老いて、その物語を忘れそうになったら、
一緒に思い出してくれればそれでいい。
電車が駅に着いた。
今日も一日一生懸命に働こう。
あのころのオヤジみたいに。