再会
恋心を抱いていることに気付いたのは、いつのことだっただろう。
不良にからまれているところを助けてもらった、とか、運命的な出会いをした、とかでもなく、あなたはただの「隣のクラスの男子」だった。
同じクラスになったのも、高三の一年間だけ。
クラスがやけに少ない学校だったから、顔は見たことがあったし、割とうるさいグループの男子だったから、なんとなく名前も知っていた。
一年のころは廊下で見かけるだけで、二年になって彼は私のいる隣のクラスにしょっちゅう遊びに来るようになっていた。
その時の印象は、活発で、笑い声が特徴的で、無邪気で子どもみたいな、かわいい人。
おそらく元からではなく染めたであろう茶色の髪が、やわらかそうでとても似合っていた。
男子にも女子にも仲が良い友人がいるようで、常に誰かが
「ヒロくん、ヒロくん」
と呼ぶ声がしていた気がする。
男友達が特におらず、彼と仲の良い女子とは特に関わりがなかった私は、彼と仲良くなるキッカケもなく、それ以前に彼にさほど興味もなかった…と思う。
高三になって同じクラスになって、なぜかちょっとだけ嬉しかったのを覚えている。
今思うと、好き、ではなくとも少なからず好意を持っていたし、仲良くなりたい、話してみたいと思っていたのかもしれない。
いつしか彼を目で追うようになり、春から制服を夏服に衣替えする季節には、わたしはすっかり片想いをしていたはずだ。
見慣れない彼の半袖姿にドキドキして、あぁ、わたし彼に恋してるのか、と思った。
バカみたいなくだらないことを言って、ぎゃあぎゃあ楽しそうに騒いでいた、高校生の彼。
―――人生はいつどこでなにが起きるかわからない、その通りだと思う。
私がかつての片思いの相手、山内宏生と、約3年ぶりに再会したのは、二か月前のこと。
専門学校を卒業し、入った会社の同僚、近田に、たまたま誘われた飲み会の席に、彼はいた。
「もしかして上田さんって、上田恵利華?!」
彼がそう言ってきたのが先だった。
「山内……宏生くん?」
私は店に入った時からとっくに気づいていて、こんなこと尋ねなくても
確信を持っていたのだけど、変に思われたくなかったので、完璧な
”そういえば同じクラスだったよね”
という空気を作った。
「うわ久しぶり!やっぱ2年も経つと雰囲気変わるね。専門学校だったんだっけ?」
「そう。山内君はすぐ就職してたっけ」
私は密かに、彼が私の名前をフルネームで覚えていたこと、私の高校卒業後の進路まで覚えていたことに、感激していた。
あの時の柔らかそうな茶髪は、短髪黒髪になっていて、以前とは違った彼を演出していた。
「うん。学生楽しそうだったけど、勉強したくなかったし。高校出てすぐ入った会社は、すぐやめちゃったんだけど」
もったいなかったかなー、と笑いながら話す彼は、あの頃と全く変わっていなかった。
「そうだったんだ!嫌な上司がいたとか?」
「んー、なんか会社が合わなかった」
確か彼は高三の冬休み、足しげく学校に通い、就職面接の練習をしていたはずだ。
私はその頃はとっくに専門学校への進学が決まり、毎日遊び呆けていたので、
冬休み明け、担任が何気なく話したそのことに、私はひどく感心してしまった。
それを考えると、なんだかもったいない気もして、私はわけが知りたくなった。
「どこに就職したんだっけ?どのくらいで辞めたの?」
「すごい興味津々」
ぶっと噴き出した彼に私はずいっと近寄る。
「ね、社会人の先輩として、話聞かせてよ。だめ?」
彼はどうしようかなー、と悪戯っぽい表情を浮かべた後、言った。
「じゃ今度改めて、ってことにしよう。連絡先教えてよ」
そうして私は、かつての想い人の連絡先を、いともたやすく手に入れることとなった。