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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第三話 罪人の町に響かせるは鎮魂歌
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待ち続けた男

「ここ数年間、ずっとビョールトのギターの為に祭に参加してた俺は、同じように二年前も参加してこの山に来ていた。前の年には初めて合格者が出ていたからな。かなり焦りもあったよ」

 謎の辞退をした吟遊詩人のことだ。彼だって本当は『合格なんて出来るわけがない』状態だったのだが、奇跡的に未発見の砂漠の石を手に入れたことで初の合格者となったのだ。

「その年は二人組の冒険者を雇っていた。剣士と魔術師。学園の出身とか言ってたな。良い奴らだった」

 フッキさんは思い出すように目をつぶる。

「テストが始まって、この山に入った俺達は何度かモンスターに襲われたが、剣士の方が腕の良い奴でよ、得に苦労は無かった。でも……」

 忌ま忌ましい記憶なのかフッキさんは目を開け、首を振った。

「あの声が響いて来たんだ。前年までも山に入ると聞こえてくる声で、不気味だし耳に痛てぇがこれといって問題は起きなかったんで歩き続けたんだ。何度目かの声で魔術師が倒れるまではな」

 わたしはフッキさんが『声』と断言したことにヘクターの顔を見る。二人で頷いた。

「意識が朦朧としてるのにほっとくわけにもいかねえ。山を出ることにした。剣士の方は謝ってたが、どうせ俺だけ残っても何も出来やしないんだ。早く帰ろう、って元来た道を戻って……さあ出口だ、って時だった」

 フッキさんがわたし達の顔を見る。

「出口にいたのは祭の運営委員の奴らだった。知っているか?青い制服の奴らだ」

 わたしは頷く。青地に黄色が入った制服はバンダレンで何度も見ている。あの煩いヨーゼフが立ちはだかる姿を想像してしまった。

「俺は躊躇無く声を掛けた。『棄権する』ってな。確かに焦りはあったが、どうせ何年も挑戦してたんだ。今年駄目なら諦め時かもしれない、そんなこと考えながらな。遠目だが、明らかに委員の奴らの顔がぎょっとしたんだ。次の瞬間、剣士の奴が『走れ!』って叫ぶんだよ。理由はすぐわかった。大岩が出口を塞ごうとしていたんだからな」

 フッキさんの拳が力を入れている為か、指が白くなっていくのがわかる。

「意味が分からなかった。あんな大岩、どうやって動かしてるんだ?とかどうでもいい事考えながら走ってたな。間一髪、間に合わなかった。目の前で塞がれる出口に怒りも沸いて来やしない。唖然とするだけだ。結局、魔術師が意識失いながら精霊魔法、っていうのか?それで開けてくれた。……二人には悪い事をしたよ。魔術師はトラウマになっちまったらしくて傭兵業を引退。剣士の方も合わせる形で辞めちまって、今は田舎に帰って結婚したそうだ。めでたい話しだけど、そうじゃないよな?」

 わたしはどう答えて良いものか迷う。冒険者の仕事はそういう危険を負うものだからだ。二人がそこで引退を選んだのはフッキさんのせいではない。でも彼は罪の意識を強く持っているのが分かった。

「俺も山を出てからは怒り狂いそうだったからな……。祭の後もしつこく詰め寄ったよ。返ってくる答えは『テストとしての試練の一つ』ばっかりだったけどな。じゃあなんで俺らを見てぎょっとしたんだよ。……それから一年、俺は毎日考えていた。なんで奴らが俺らを殺そうとするんだ?不合格にしたいなら二次試験の演奏でどうにでもなる。そこで俺はようやく毎年のテストの後で参加者の減りが異常に多いことに気が付いたんだ」

「大体半分ぐらいになる、って聞いてきました」

 わたしが答えるとフッキさんは頷く。あの武器屋のおじさんもいぶかしんでいた話しだ。

「おかしいだろ?たとえ貴重な町の宝を賭けたものでも、いくらなんでも異常な危険度だ。危険を喚起する声が上がって試験の変更があってもおかしくない。大体が伝説の剣だとか、武器を賭けたものならわかる。欲しがるのは冒険者、傭兵だ。でもギターなんて欲しがるのは音楽家なんだ。家に籠って練習の日々か、人の多い通りに出て弾き語りするような奴らに力なんて無いんだ」

「確かに……国から捜査が入るか中止がかかってもおかしくない話しですよね」

 わたしは今更ながら強い矛盾を感じて言った。

「一年考えて、時にはバンダレンまで出向いて話しを聞き回って……。思ったより大変な作業だったけどな。気味悪いぐらい口の堅い奴ばっかりなんだ、あの町は。……次の年の祭りまでに出た答えがこれだ。『タージオ山に魔力を集めるのが、祭りの真の目的だ』これしか無いと思った」

 ヘクターがわたしの腕を掴む。わたしはびっくりして隣りを見た。彼にしては険しい顔つきに見える。フッキさんはそれを見てから話しを続けた。

「こんなモンスターだらけの山に突っ込ませるのは、本当は冒険者を集めたいからだ。力ない音楽家は冒険者を求める。冒険者には必ず魔術師がいる。彼らの魔力が狙いなんだよ。どういう仕組みか知らねえが、魔力を吸い取られるのは魔法を使える奴だけだからな」

 最近になって説かれるようになったことだが、全ての生き物には大小はあっても魔力そのものは保有している、というのがある。じゃあ何故、魔法の使用の可能不可能が分かれるのかというと、魔力を体から放出する技術の有無なんじゃないか、という話しだ。魔法の使用が出来ない人間は体から魔力を放出出来ないのだから、吸い取られることも無い。 「バンダレンの人間はタージオ山を極端に畏れている奴が多い。不気味な唸りが響いてくるからだ、とかの噂も聞いたし、祭りの目的の為に協力している奴も多いのが問題だ。自分達の評判を落としてまでそうする理由はな、……これは町の子供を騙すようにして聞いた話しなんであんまり大声じゃ言えねえが、『タージオ山に人を集めないと、町の人が死んじゃう』んだとよ。これはたぶん唸り声のせいだな。一年に一回、試験と称して冒険者を放り込む。この時は唸り声は山の周辺までしか響かない。だがそうしないとバンダレンまで届くような大きなものに声の大きさが変わるんだ。それで町の中でも魔法の技術を持ってる奴が魔力を吸い取られるんだろう」

 フッキさんの話しは武器屋のおじさんの話しを肯定している。だが新たな疑問が沸き上がってきた。

「……その呪い、というか力は何者がやっているんです?それを打ち破ろうとする動きは、バンダレンの人達には無いんですか?」

 フッキさんに言ってもしょうがない事だが、どうも納得いかない。自分達の町が危機にあっているのに根本から解決しようとは思わないのだろうか。

「それが去年の祭り中に俺が調べたことになるな……。ここまで調べた俺は一人でこの町まで来た。音楽祭に沸く町に来て、祭りには参加せずに、な。エントリーが終って冒険者達が山に移動して……、暫くすると俺は山に踏み込んだ。一時的に実行委員の奴らも撤退するから、警備ががら空きになるんだ。声を聞きたくないからだろう」

 わたしは不思議な生物学者、ボンに出会ったことを思い出した。彼も『見張りがいない』とか言ってたな。

「どうにかして謎を解きたかった俺はがむしゃらに歩き続けて、モンスターからは逃げ続け、どうにか生き延びて奥に進んだ。そうしたら、変なトラップに引っかかったんだ。足下の魔法陣が光って、瞬間移動したんだろう。『これは終った』と思いきや、これが良い方に転がった。……今、良い方、と言ったがよく考えると良いとは言えないかもしれねえな。……とにかく俺は全ての疑問が解けたような気がしたよ。そう思ったのは……」

 話し続けるフッキさんを突然ヘクターが突き飛ばす。わたしも立ち上がり後ろへと飛び退いた。

「あははははははは、ばれちゃったのか」

 先程の影を纏う男が現れ、今までわたし達のいた場所に黒い矢が刺さっている。その矢はぱちぱちと花火のような音を出した後、空に消えた。何で出来ているのかなど知りたいとも思わない。

「ファイア・ブレード!」

 わたしはヘクターのロングソードに魔法の炎を纏わせる。こうすれば霊体にも効くはず。わたしがフッキさんの方へ走る横でヘクターが男に向かっていった。

「大丈夫!?」

 転がっているフッキさんを起こすと次の呪文を唱え始める。男がこちらに向かってこないとは限らない。

「すげえな、あの兄ちゃん」

 フッキさんが目をくりくりとさせながら感嘆の声を上げる。見るとヘクターが赤く変わった刀身で男を追い込んでいた。黒い何かが空ではじけているのが男の攻撃だろう。それを華麗に避けながら攻撃を返している。男もやはり魔力付加のされた剣は食らいたくないらしい。しかしヘクターの剣が男の体を捕らえた、と思いきや、ふわりと体を消したりと倒すまでには至らない。わたしが背後から撃つべきなのかもしれないが、そんな器用なことが出来るならとっくにやっている。

「あはぁ……」

 男が唐突に見せた笑い顔にわたしはぞくりとした。次の瞬間、男の姿が消える。また逃げた!?と思った時、わたしの目の前へ現れた顔に心臓が止まりそうになった。

 光の無い真っ黒な瞳、土色の皮膚、まるで木の表面のようになった鼻を見て恐怖で固まる。なぜか水の流れる音がよく聞こえた。

「あんた、美味そうだなあ……」

 こういう言葉の意味は一瞬で理解出来てしまう。自分の魔力の大きさには自覚がある。それをこの男は『美味そう』と言ったのだ。

「リジア!」

 ヘクターの叫びと同時だった。フッキさんが横からわたしを突き飛ばす。

「危ない!」

 わたしは叫んでいた。無意識に出た言葉だったが、フッキさんがわたしを庇ったのかと思ったのだ。急いで振り返る。

 振り返った先にあった光景は、何かを男に向けて突き出すフッキさんの姿と動きを止めた男の姿。フッキさんの持つ、あれは……ギター?

「はは……」

 力無い笑い声を最後に男の姿は再び掻き消える。今度はどこに現れる?と周りを見渡すが、男が姿を見せることは無かった。

「ふー……」

 ヘクターの息をつく声が聞こえる。何となく三人とも姿を確認し合った。

「それ、まさか……」

 わたしはフッキさんの抱えるものを指差す。フッキさんはゆっくりと首を振った。

「ビョールトの名器じゃねえよ。俺の物だ」

 そう言うと立ち上がり、わたし達の顔を交互に見る。

「さっきの話しの続きだ。答えは直接、自分達の目で確かめた方がいいだろう」

 フッキさんはぽんぽん、と体の土を払うと廃坑内を見知っているかのように歩き出した。

 どんどん進んでいくフッキさんの背中をわたし達は追い掛ける。道幅が狭くなってきて妙な形に曲がりくねるようになって来た時、歩く速度はそのままフッキさんが話し出した。

「あんた達が現れるまで、俺の心の中は諦めしか無かった」

 それであんな風に無気力だったのか。わたしは後ろから来るヘクターと顔を見合わせた。

「自分にがっかりした気分だった。ここまで調べてきて、結局俺は何も出来なかった。これから何をしていいかもわからなくなった。何の為にこの二年、動き回っていたのかわからなくなっていた。……でもな」

 振り返り、わたしの顔を見るフッキさん。こう言っちゃ失礼だが目付きといい顔の汚れ具合といい、恐いです……。

「さっき、やっぱり何とかしてやらないといけない、と強く思った」

 そう言うと再び早い速度で歩き出す。『何とか』とは……?しかしそれよりもわたしには気になることがあった。

「……フッキさん、道覚えてるんですか?」

 疑っている訳ではなく単純に感心してわたしは聞いた。フッキさんは懐から何かをガサガサ言わせながら取り出す。わたしは無言で渡された一枚の紙を見て驚いた。

「廃坑の地図ね?」

「穴だらけだけどな」

 フッキさんはそう言うが少なくともあの魔獣犬のいた部屋から先は埋まっているようだ。これなら帰ることは出来るはずだ。しかしごちゃごちゃと書き込まれていてイマイチ見にくい。わたしは見方をフッキさんに尋ねようと、前を歩く彼に声を掛けようとする。が、先にフッキさんが振り返った。

「着いたぜ」

 先を親指を傾け指し示される。妙な所だ。また広い場所に出たのだな、ということは音の反響具合で分かった。

「牢屋だ……」

 ヘクターが呟く通り明かりを向けた先に見えたのは鉄格子。随分と古いようで金属なのに光を反射しなくなっている。扉は、開いていた。

 フッキさんに無言で促されわたし達は中に入る。牢屋、というには広い中を数歩歩いた時、わたしの目にある物が写った。茶色いブーツの先っぽ。きちんと二つ揃っている。ブーツが転がっているにしては不自然な状態で両足とも踵部分を地面に付けている。そう、人が履いたまま座り、足を伸ばせばこんな状態になるだろう。わたしはごくり、と息を飲むと明かりを先に向けた。

「ひゃうわ!!」

 思わず悲鳴を上げるとヘクターの腕にしがみついた。そして恥ずかしさから慌てて手を離す。フッキさんの「忙しい奴だな」という声が聞こえた。

 ヘクターがゆっくりとわたしが悲鳴を上げた元凶に近づいて行く。土壁にもたれかかる一人の男性と思われるもの。服装からそう判断しただけで顔はすでにわからない。なぜなら彼には体の肉という肉が残っていないからだ。完全なる白骨と化した姿は神々しささえ感じる。

「あいつの体だ……」

 ヘクターがしゃがみ込み躯の服装を見て呟いた。わたしも後ろから覗き込む。茶色のツイードの上着。闇に体を包んだあの男の唯一見えた部分だ。ヘクターが後ろを見るがフッキさんの返事は無い。

「やだ!」

 わたしは思わず悲鳴をあげてしまった。ヘクターが男の上着を開け放ったからだ。上着の裏地部分を見てヘクターが息を飲むのがわかる。わたしは黒い裏地に刺繍糸で書かれた文字を見て、思考が止まってしまった。そして鳥肌が立つのがわかる。

 緑色の刺繍糸が象るのは『ビョールト』の文字。

「……殺されていたんだ……」

 ヘクターが窪んだ頭蓋骨の右側頭部を指でなぞった。

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