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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第三話 罪人の町に響かせるは鎮魂歌
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報告会

「お先頂いてまーす」

 サラがわたし達に向かってグラスを掲げた。待ち合わせに指定した山賊料理店、店員に案内された部屋に入るとすでにサラとデイビスが待っていた。

「個室なんてあったんだね、ここ」

 わたしが席に座りながら言うとサラがメニューを配ってくれる。

「人数聞かれて『13人』って言ったら、ここしか無いってさ。でも丁度良かったよね」

 サラの言葉に皆が頷いた。かなり大きなダイニングテーブルにわたし達が座った時、続けてフロロとヴェラ、アルフレートとヤッキさんも入ってくる。珍しく不機嫌顔のフロロが気になる。何かあったな。わたしがフロロの顔を見ていると、気付いたのかわたしを見て意味深に首を振った。

「……どうしたの?」

「どうもこうもないよ。このねーちゃん、頭おかしいぜ!」

 わたしの小声の質問に、フロロは大声を張り上げた。ヴェラが身を小さくしつつメニューで顔を隠している。

「面白そうな展開だな」

 アルフレートがにやにやと笑った。こっちは上手くいったらしい。

「最悪だったことは間違いないね」

 フロロは舌打ちしつつメニューを捲っていく。わたしが聞いていいものか、と迷っていると店員と一緒に残りのメンバー、アントンとセリス、イリヤが入ってきた。セリスとイリヤが席に着くと、残る席がヘクターの隣りしか空いていない状況を見たのか、アントンは眉間の皺を深くする。が、サラとデイビスが無言で睨みつけるとどさっ、と乱暴に座った。




「じゃあ各自報告していこうか」

 全員の食事が揃ったところでデイビスが皆を見回した。

「じゃあ俺達からいくぜ?俺とサラはこの辺り、東ブロックを見て回ったんだが」

 デイビスの隣りでサラが頷いている。

「正直、どう動いていいものか分からなくてさ。というのも下手に音楽祭について嗅ぎ回ったら、今度は俺たちが目を付けられる可能性があるしな……。そんなわけで丁度東ブロックにある図書館に行ったんだよ。俺はこういうの苦手だったんだが、サラが色々調べてくれた」

 デイビスの後をサラが受け継ぐ。

「調べたのは主に新聞ね。タージオ山が廃坑になった経緯と、楽器職人ビョールトのことを調べてみたの」

 サラの話しはアルフレートが言っていた『砂漠の石』に始まったゴールドラッシュの話し、そして今はモンスターの巣窟になってしまったタージオ山の有様を嘆く新聞記事の話しだった。

「ビョールトの方は思ったより収穫無かったのよね……。バンダレンの町の新聞なのにあんまり記事が無かったのよ」

「砂漠の石の時代の方が新聞なんて無い時代じゃないの?」

 わたしが聞くとサラも首を傾げた。

「うん、回顧録じゃないけどそういう類いの記事はあったのよ。それなのに新聞がすでにある時代のはずのビョールトの方は全然。唯一『新鋭の楽器職人が選んだのは同じく新鋭の楽器ギターだった』とかいう当時の流行通信だけだったのよね」

「……当時はあんまり騒がれてなかったのかな?死んでから有名になるってやつ」

 イリヤがぽつりと言った言葉にヤッキさんが首を振る。

「おかしいっすねえ、ビョールトは生きてる当時から売れっ子だった、って話しだったはずですけど……」

「故意に消されたんじゃないか?」

 アルフレートがさらりと言った。皆押し黙ってしまう。なんだか調べれば調べる程、気味の悪い町に思えてくる。わたしがそんな事を考えていた時だった。

「じゃあ次は俺が言う」

 フロロが眉間に皺寄せつつ口を開いた。が、

「特に無し。以上。……あ、ついでにこの姉ちゃんも何も無いから」

そうきっぱり言って、ヴェラを指差す。

「何だよそれ」

 アントンがムッとしたように口を尖らせた。

「文句ならあんたの仲間に言えよ。俺は感謝して貰いたいぐらいだ」

 なんだか随分とやさぐれてしまったフロロにわたしは戸惑いつつもヴェラを見た。

「……だってしょうがないじゃないですか!学園じゃ聞き込みの仕方なんて教えて貰えなかったですし!」

 涙目で立ち上がるヴェラにフロロは舌打ちする。

「あんたはそれ以前の問題だよ。……バカみてーに本名言おうとするわ、事情をぺらぺら喋ろうとするわ……、あげくの果てにギルドに挨拶してないっつーじゃん。俺が止めてなかったらあんたらパーティーまとめて町追い出されてたんだぜ?あんた盗賊向いてねーよ」

 静まり返る室内。ヴェラは顔を真っ赤にしながら椅子に崩れ落ちた。

「……何か、よくわかんないけど、その、ごめん」

 サラが頭を下げる。

「じゃ、じゃああたしが次、報告させてもらうわ」

 気まずさを払うようにローザが手を上げた。

「あたしもはっきり言って、イルヴァが服屋だ食べ物屋だってうろちょろするもんだから大して調べられなかったんだけど」

 そう言ってイルヴァを睨む。イルヴァは素知らぬ顔で鶏の足にかぶりついているが。

「北ブロックにこの町の留置所があるのよ、知ってた?」

 その言葉にわたしとヘクターが「あ」と声を漏らした。ローザはにっ、と笑う。

「その様子じゃ聞いてきたみたいね。でもそこにフッキさんはいないわよ」

「どうしてわかったんだ?」

 デイビスが驚いたように顔を上げた。

「単純に中を見せてもらったからよ」

「見せて、って……簡単に見せてもらえるもんなの?」

 セリスがいぶかしげに尋ねる。

「所長がお父様の知り合いだったのよねー。赴任したばっかりでこの町のことはよく知らないみたいだったけど、『興味あるから見せて』って言ったら見学させてくれたのよ。檻の中全部見せてもらったけど、フッキさんはいなかったわ」

 流石ローザ。こういう人が仲間にいてくれたのは心強い。

「でもそれじゃおかしいわよ」

 セリスが再び詰め寄った。全員が彼女を見る。

「私達が聞いてきた話しと違うじゃない」

「セリス達は西ブロックに行ったんだよな?」

 デイビスが尋ねる。セリスとイリヤが頷いた。アントンはただ腕を組んでテーブルを睨んでいる。

「私達は酒場に行って、同じような冒険者から話し聞いてきたんだけど、その中でフッキさんっぽい人が連行されるの見たって人がいたのよ。『エントリーの申し込みに行ったら不正でもしようとしたのか、ドワーフみたいな親父が捕まってたぜ』って。どう考えてもフッキさんでしょ?警備団の制服着た人間が両脇抱えて連れていったんですってよ」

「何気なく制服の特徴聞いても間違いなかったよ。紺に白い線が入って背中に鷹のシンボル」

 イリヤが指を振って説明した。わたしも見掛けた町の警備団の特徴ときちんと合っている。

「ふ、フッキ先輩捕まっちゃったんすか……?」

 ヤッキさんが弱々しく呟いた。 「それからだって大変だったんだから」

 はあ、とセリスは息をつく。

「その冒険者が『ライバルが一人減った』とか余計な事言うから、アントンが絡み出すし……」

 セリスはそう言うと隣りのアントンの頭を叩いた。それがあるからむっつり黙っていたのか……。

「ちゃんと息の根止めてきたんだろうな」

 アルフレートの言葉にアントンとセリスの頬が引き攣る。この返しは予想外だったらしい。

「中途半端な事をするから目を付けられるんじゃないか」

「アル、それ以上言うと引かれるから止めとけって」

 フロロがフォローにならない台詞で止めた。わたし達全員が何か勘違いされそうで怖いので止めて欲しい。

「でも、それなら何処行っちゃったのよ、フッキさん。留置所にいなかったのは本当よ?」

 ローザが語気を強めた。わたしとヘクターは顔を合わせる。

「……次は俺らが言った方がいいな」

 ヘクターが口を開いた。わたしは彼に任せることにする。自分が喋ると余計な感情が入りそうだ。

「顔見知り、とまでいかないかもしれないけど知り合った店主に聞いてきた話しだ」

 そう前置きするとヘクターは先程聞いてきた武器屋のおじさんの話しをする。

 この町には『地元民』と『余所者』とされる二種類の人間がいること。音楽祭の主催側は地元民とされる人間で固まっていること。10年前の不気味な唸り声、町の混乱、店主が語った祭りの目的は『廃坑から帰れなくなる人間がいるということ自体にあるのではないか』という考察。そして、

「普通、連行された犯罪者は留置所に行って裁判を待つ。でも凶悪犯とされるような人間は廃坑に連れて行かれるっていう噂があるらしいんだ」

 誰かの息を飲む音が聞こえた。「わお、人柱だあ」というフロロの能天気な声が響く。

「それって……かなりまずいんじゃない?」

 ローザが乾いた声を上げる。

「まずい、だろ」

 デイビスも心配顔だ。彼らにとっては依頼人がいなくなったどころか、依頼人がいないと廃坑には入れないというのにその廃坑にフッキさんはいるかもしれないのだ。

「ぼ、僕が助けにいきます!明日、必ず先輩を助け出しますよ!」

 ヤッキさんが立ち上がり叫んだ。

「まあまだ廃坑にいると決まったわけじゃない」

 冷静に言うアルフレートにわたしは問いかけた。

「アルフレート達はどうだったのよ?」

「うん?じゃあ私が話しをするか。役場に行って来たんだがな、馬鹿正直に探りを入れるわけにもいかないんでクレーマーになってきたんだ」

 一同「はあ?」と声を出す。

「少々頭の痛い奴、という設定でとにかく喚き散らしてやった。そうすれば多少しつこくしても怪しまれはしないからな」

 なるほど、それでクレーマーか。

「明日は何時からなんだ、から始まって『食事は保証されるのか』『怪我を負ったら治療代はどうなる』『どのくらい危険か』『協力者の人数を書かされたが、最大何人まで許されるのか』『出身地を聞くなんて差別じゃないか』『物を取りに行くらしいがソレは何個あるんだ、複数人持ち帰ったらどうするんだ』他にも色々喚いてやったぞ。ネチネチと時間いっぱいな」

 うわあ、何か対応した人が気の毒になってきた……。

「そ、それで何かわかったの?」

 サラがおずおずと尋ねるとアルフレートはにやっ、と笑う。

「色々ね。まず明日の参加グループは8組。それが全部バラバラの入り口からスタートして廃坑の中を探索する。ゴールに行き着かないような入り口は無い、と言っていたがどうだか。……そして持ち帰るものは『砂漠の石』」

「そんな事までわかったの!?」

 わたしが驚くとアルフレートは指を振った。

「対応の奴も大分意識が朦朧としてたんで口滑らしたが『タージオ山に縁のある貴重なもの』っていったらそれしかないだろ。あと、これは私の推測でしかないが、3年前の唯一のテスト通過者、ギターを放棄した吟遊詩人だな。あれはやっぱり主催側には想定外の事だったようだ」

「合格出来ないようになってるってことかよ」

 デイビスが怒ったように身を乗り出した。

「そりゃそうだ。なぜならこの町にはもう『砂漠の石』は無いんだからな」

 アルフレートの言葉に室内がざわつく。

「あーもう!はっきりと言ってよ!」

 セリスが声を張り上げた。アルフレートのもったいぶりは今に始まったことではないが、馴れてない人間にとって苛つきは大きいに違いない。

「タージオ山で発見された砂漠の石は当時の領主の物になった。当時はまだそういう時代だ。そしてこの国にも貴族制廃止の波がやってくる。その混乱の中に無くなってしまったんだよ。疑うなよ?私が生き証人だ」

 セリスはアルフレートの耳をはっとした様子で見た。そう、彼は長寿の種族エルフなのだ。こう見えてアルフレートはわたし達より何倍も歳を重ねている。

「で、でも3年前のあの人は……」

 ヤッキさんが震える声で問いかける。

「偶然見つけたんだろうな、まだ廃坑に残っていたもう一個の『砂漠の石』を」

 イリヤが言うとアルフレートは頷いた。部屋の中は静まり返ってしまった。そりゃそうだ。明日から始まるはずだった音楽祭も、参加の意味があるのかわからなくなってしまったのだ。

「どうするの?ヤッキさん」

 ローザが静かに尋ねる。合格出来ないとわかりきったテストに、本当に参加するのか聞きたいのだろう。しかしヤッキさんは拳を握りしめるとテーブルに身を乗り出した。

「僕は参加しますよ!だって、まだ有るかもしれないっす!あの吟遊詩人が偶然見つけたんなら、きっとまだあるっすよ!それに、それにフッキ先輩を助けなきゃ!」

 わたしは勢いに押されながらもちょっぴり感動してしまった。そうだ、まだフッキさんを探すという目的もあるんだった。

「俺も参加するぜ」

 意外な所からの声に全員が振り向いた。アントンが腕を組み、テーブルを睨んだまま口を開く。

「俺も参加する。ギターなんかしらねえよ。……ただ、明日のテストには参加してやる」

 はっきりとそう告げると、アントンは立ち上がり隣りに座るヘクターを睨みつけた。一瞬の沈黙の後、踵を返すと部屋を出て行ってしまう。

「ちょっと……」

 セリスが慌てて後を追いかけて行った。残されたわたし達は、ただ扉を見つめるだけだった。

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