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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第三話 罪人の町に響かせるは鎮魂歌
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動き出す

 わたしは再び一人になってバンダレンの町を歩いていた。アルフレートを探すことがまず第一だ、とみんなバラバラになって町を歩いてみることになったからだ。

 青と黄色の旗が並んで揺れる通りを歩く。先程の話し――冒険者を利用する祭りではないか、という内容を聞いた後だと祭りの準備に盛り上がる町をどうしてもどこか冷めた目で見てしまう部分もあるが、でもやっぱりお祭りは良いものだ。駆けていく子供達を見るとそう思う。楽しんでいる心は本当なのだから。

 さて、目的はアルフレートだ。彼の行きそうな所、といってもわたしにはなかなか思い浮かばない。楽器屋……とも考えたが、どうもしっくりこない。しかし覗いてみるだけ覗いてみることにした。




「やっぱりいないか」

 町で一番大きな店、と聞いて答えのあった店に来たのだが、目立つ風貌のはずのアルフレートの姿はなかった。様々な楽器の様々なデザインで彩り豊かな店内を後にしながらふう、と嘆息。期待は薄だったので落胆は無いものの、次の目的が浮かばない。こうなったらレビテーションの魔法かなにかで町を上空から見てみたいな、と考えたところで、ある建物が目についた。古い建物が多いこの町で唯一にょっきり頭を覗かせている建物。教会だろうか。近づきながら建物の様子を観察していると随分大きな教会だとわかった。

 壁に彫られたレリーフを見ても馴染みも覚えもない。ということは六大神ではない。もっとマイナーな神を祀る教会だ。それでこの規模は珍しい。

 教会も祭りの会場に使われるらしく、多くの人が出入りしている。わたしもその流れにのって中に入り、上に行ける階段は無いものかとうろつく。誰かに聞いた方がいいかな、と思ったところで奥に続くらしき廊下を見つけた。普段なら許可を取らないことには入りずらそうな雰囲気ではあるが、祭りの準備で騒がしい中、わたしに注目する人もいなかった。そのままお邪魔させてもらう。

「あ、これかな?」

 昔からある教会にありがちな狭くて急な作りの階段を見つけ、わたしは呟いた。かなり上まで行けそうな気配ではある。光の届いていない上部を見上げ、わたしは足を踏み出した。




「うわあ、きっつ……」

 階段をのぼり続けて太腿が張ってきたところでわたしは唸ってしまった。しかしゴールは近いようで頭上が明るくなってくる。気合いを入れ直し一気に上りきると小さな扉が目に入ってきた。少し様子を窺った後、扉を開けた。ふわっと風が体を押してくる。明るさに目を細めた。バルコニーや屋上のように開けた場所だ。

 鐘楼、っていうんだっけ。目の前にぶら下がる鐘を見て考える。今鐘の鳴る時間になったら少々マズいことになるわね、と思いつつ下を覗く為に柵の方へ足を進めた。胸のあたりまでくる高い柵から身を乗り出し、表を覗いた時だった。

「何かあったか?」

 よく知った声にわたしは思わず飛び上がる。

「うわわっ!びっくりしたあ!」

 柵の裏側、わずかな隙間に腰掛けていたアルフレートが立ち上がった。

「ちょっと、危ないわよ」

 わたしが言うとひょい、と柵を乗り越えてくる。

「もう、探したのよ?こんなところで何してたの?」

「……少し考え事をしていてな。そんな時間だったのか、気づかなかった」

 雲の流れにぼんやりと目をやりながらアルフレートは答える。なんだか珍しく神妙な空気にわたしは戸惑ってしまった。

 風が気持ち良い。でもそんな感想も言い難い空気の中、

「何かわかったのか?」

 アルフレートがようやくわたしの顔を見て聞いてきた。

「ちょっとね。アルフレートを探そう、ってことになった話しがあるのよ」

 わたしは先程のフロロの話しを聞かせる。冒険者を山の坑道に送り込むことで、何かさせようとしているのではないか、という内容を聞かせるとアルフレートはふう、と息を吐いた。

「なるほどね、まあ大体想像してた通りの展開ではあるな」

「やっぱり?」

 わたしも何となく疑ってはいた話しだ。あれこれ裏を嗅ぐアルフレートが考えないはずがないだろう。

「それでアルフレートなら昔、この町に起きた『何か』を知ってたりしないかって話してたのよ」

 わたしの話しに「ふーん」とあまり気乗りのしない返事をする。……何か変だな、アルフレート。

 わたしが疑うような顔をしているのに気づいたようで、アルフレートは首を振った。

「残念ながら知らないな」

 その様子が『知らない』という返事の意味合いよりも、ぼんやりする頭を振り払う様子に見えた。

「普通に考えれば精霊が怒っているのかもしれないな。山を散々掘り返して、そのまま放ったらかしにしたんだ」

「それで怒った精霊が町の人に危害を加えたりしているのかも……」

 わたしが言うとまた首を振る。

「……と思うだろ?残念ながら精霊だってそこまで暇じゃない。『馬鹿な人間どもだな』ぐらいにしか思わんさ。精霊の力が働かなくなった土地で、困るのは人間なんだから」

「じゃあなんでそんな話ししたのよ……」

 わたしの真っ当な突っ込みにアルフレートは肩をすくめた。

「とりあえずそれは無い、って言いたかったんだよ。そんな精霊の姿は見えていない」

 そうか、アルフレートは精霊の姿が見えるんだった。それなら町に入った時点で気づいているか。

「じゃあ他に何か事件があった、とか知らないの?関係ないようなものでも実は根っこで繋がっていたりするかもよ?その時代に書かれた本とかにヒントがあったりするかも」

「うーん……」

 唸るアルフレート。

「物語の類いは読まないもんでわからないが、知っている範囲では無いな。……ということは、結構小さい事件だったりするかもな。誰も目にとめないような……」

 誰も目にとめない小さないざこざ。それが膨れ上がってはじける。何かざわついたものがわたしの心に残った。

「とりあえず皆の所、戻ろうよ」

 わたしが言うとアルフレートは再び空に目線を移す。わたしは思わずそちらに目を向けた。……何も無い。ただ綺麗な雲が流れる景色が広がるだけだ。遠くにアルフォレント山脈が見える。その手前にあるのが廃坑のあるタージオ山だろうか。

 ピン、と不意に聞こえた弦のはじける音に驚いて、アルフレートを見る。彼が小さなハープを手にして弦をはじいていた。一瞬身構えてしまったが、歌うことはせずにただただ弦をはじいている。目を瞑り風に髪をなびかせながら奏でるアルフレートの音楽は、信じられない程美しい。彼の姿も含め、わたしは思わず魅入ってしまった。

「……エルフっぽいだろう?」

 にやりと笑うアルフレートに、わたしは苦笑する。

「そういうこと言わなければね」

「だから私らしいんだよ。……さ、行くか」




 教会を出たところで目に入った、通りにいる人物にわたしは「あ」と声を漏らす。白いローブ姿の少女が見るからに「困った」といった様子で辺りをきょろきょろと窺っていた。

「あれ、サラじゃない?」

「誰だ?」

 アルフレートの返事にわたしは呆れて溜息をつく。

「だから昨日会った学園のグループいたでしょ?その一人よ。ラシャのプリーストのサラっ」

「ふうん……」

「ふうんって何よ、もう……、サラ!」

 わたしが声を張り上げるとサラが振り向き、こちらに駆け寄ってきた。

「リジアー!悪いんだけどさ……、フッキさん見なかった?」

 サラの言葉にわたしは首を傾げる。

「フッキさんって、サラ達の依頼人の人でしょ?見てないけど……」

「そっかあ」

 サラは眉を下げて肩を落とした。わたしは深く聞いていいものか迷う。何しろ昨日の事があったばかりだ。サラに協力してあげたい気持ちはあるものの、そのせいでサラが仲間から怒られたりしたら悪い。

「いい大人がいなくなったぐらいで慌てなさんな」

 きっぱりと言うアルフレートにサラは目を丸くした。

「ま、まあそうなんですけど……」

「ちょっとアルフレート!ごめんね、サラ」

 謝るわたしにサラは手を振る。

「ううん、私こそごめん。いきなり説明も無しに聞いて。……実はね」

「サラ!」

 後ろから掛けられた声にサラはびくりと肩を震わせた。わたしはサラの背後に視線を走らせる。眉間に皺を寄せたアントンが立っていた。

「げ」

 思わずわたしは顔をしかめる。サラは困ったようにわたし達とアントンを見比べ、

「ごめんね」

そう呟くとアントンの方へと走っていった。アントンはわたしとアルフレートを睨みつけるとそのまま去っていく。その後を追いかけるサラを、わたしは掛ける言葉も無く見つめていた。

「不安定な二人だな」

 アルフレートが言った言葉の意味は二人の精神状態のことなのか、それとも「不安定な関係」だと言いたかったのか、よくはわからなかった。

「何かあったのかなあ……」

 わたしが言うとアルフレートはにやりと笑う。

「その内わかるさ」

ようやく彼らしい顔つきに戻った。頼もしいというべきか憎たらしいというべきか。




「あー、疲れた疲れた。誰かさんのせいで今日はしこたま歩いたわー」

 夕食の席に着くなり嫌味をまき散らしたのはローザ。ばらばらに宿に戻ってきたメンバーの中で一番最後に戻ってきたのが彼女だったのだ。何気に心配だったのかもしれない。

「なんだ、私も意外と人気者だったんだな」

 アルフレートはズレた感想を漏らしローザに睨まれる。

 各自注文を済ませて一息ついた時だった。アルフレートがヤッキさんに向き直る。

「エントリーは済ませてきたのか?」

「はい!ばっちりっすよ!」

「それは結構。さて、少し聞きたいことがあるのだが」

 アルフレートの威圧感にやられたのか、ヤッキさんがもじもじし始める。

「な、なんすかね。もう黙ってたことは無いっすよ!」

「別に尋問しようとしてるわけじゃない。今日あったことを一から話してくれればいいんだ。エントリーの受付はどこであったんだ?」

「町の中心にある役場っす。役人さんが……5人ぐらいいたっすかね?書類書かされて、楽器の演奏のスキルを簡単に聞かれて、これ貰ってきたっすよ!」

 ヤッキさんが差し出したのはピカピカと光るバッジ。丸に花が彫られたなかなか素敵な物だ。アルフレートは手に取ると両面をちらっと見てすぐにヤッキさんに返す。

「これがエントリー者の証ってわけだな」

「無くしたら大変っすよね!渡しておきましょうか?」

「……自分で持ってなさい。いい大人なんだから」

 アルフレートは呆れたように言いつつも、こめかみを引きつらせていた。

「これはテストが始まってから着けるの?」

 わたしが聞くとヤッキさんは首を振った。

「いや、今から着けろって言われたっす。申込みに来た時点で参加者なんだから~とか威圧されたっすよぉ」

「エントリー用紙があったと言ってたな?何を書かされた?」

 そう聞くアルフレートの目がきらりと光った、ように見えた。

「えっと、名前と職業と、協力者の人数と、あと出身地、……だったと思うっす」

 それを聞くと満足そうにアルフレートは手をこすり合わせ、椅子に深く座り直す。

「なるほどね、よく分かった」

 わたしは少し考えてから尋ねる。 「何が?」 「随分ねちっこい管理だな、と思っただけだよ」  確かに今からバッジを着けろとか出身地まで聞いてくるなんてねちっこい。考えるわたしをにやりと笑うアルフレートにもう少し意味を聞こうとした時、わたし達のテーブルに近寄ってくる人物に気がつき言葉を飲み込んだ。日に焼けた肌に刈り上げた金髪、鍛え上げられた体はつい魅入ってしまう。

「……デイビス」

 ヘクターが驚いたように声を掛けると、デイビスは昨日とは違って真剣な面持ちで軽く手をあげた。

「……ちょっと話せないか?」

 ヘクターは少し迷ったようにわたし達を見ると口を開いた。

「ここでなら」

 それを聞いてデイビスは一瞬困ったように眉根を寄せるが、深く頷く。

「わかった。隣り、いいかな?」

 そう言ってわたしの隣りの空席を指差した。わたしは「どうぞ」と席を引く。

「依頼人は見付かったのかね?」

 アルフレートが聞くとデイビスは面食らったように目を大きくした。

「知ってたのか!」

「実は……」

 わたしは昼間会ったサラの話しを言って聞かせる。アントンの下りは告げ口するようで気が引けたが、話しの腰を折られた理由を説明するために全て有りのまま話すことにした。聞き終わるとデイビスはふう、と溜息をつく。

「ったく、アントンはどうして……」

 頭を掻いてから愚痴を続けそうになるのをわたしの視線に気づいて止める。

「悪かったな、その……」

「ううん、いいよいいよ」

 この人から謝られても困るだけだ。わたしは慌てて手を振った。

「実はまだ見つかっていないんだ」

「えっ!」

わたしは暗くなった町を食堂の窓から眺め、声をあげてしまった。

「まだって……本格的にいなくなっちゃった、ってことじゃない?」

 わたしの言葉にデイビスはゆっくり頷いた。ステーキ肉を頬張りつつイルヴァが口を挟む。

「どこ行っちゃったんれふか?」

「エントリーの申し込みに行く、って朝出ていってそれきりなんだよ……」

 だから昼過ぎの時点で少し慌てていたのか。わたしは来たばかりのチーズフライに息を吹きかけながら顔をしかめた。

「ただの祭事参加だとは思わない方が良いな、とは思っていたんだが……」

 そのデイビスの呟きにわたし達は顔を見合わせる。

「にいちゃん、その話し続けたいなら俺らの部屋に来てくんないかな」

 フロロが言うとデイビスはきょとん、とした後、周りを見渡した。

「ああ……そうか、後でお前らの部屋に行くよ」

 そう言うと席を立つ。

「一緒に食べて行けばいいのに」

 わたしが言うと首を振るデイビス。色々あるんだろうけど、面倒だなあ。

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