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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第三話 罪人の町に響かせるは鎮魂歌
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不器用な男

 すぐ向かいにある店へとヘクターに連れられ、普段のわたしには縁遠い武器屋の扉をくぐる。

「うわあ……」

 カウンターまで続く剣の列。大小様々なタイプのソードが並んでいる。ソード専門店らしく、ショートソードぐらいの小振りなものからわたしの身長を越えるようなグレートソードまである。カウンターにはナイフも並んでいた。

「お、来たな。かわいいの連れて」

 店主らしき髭がかっこいいおじ様が奥から顔を出した。ヘクターの人柄のせいだろうか、二人は随分フランクに話しだす。まるでずっと知った仲のようだ。普段フロロやアルフレートに任せていて大人しいから気づかないけど、ヘクターの会話能力もかなり高いわよね。

「どうなった?」

 ヘクターの問いに店主のおじさんは頷くと彼のお馴染みの剣柄を持ち上げた。

「普段の手入れが良いみたいだな。綺麗だったよ」

 ぱちん、とソードが柄に仕舞われる音の後、ヘクターはそれを受け取った。

「ありがとう。また頼むよ」

「そうしてもらえると嬉しいね。腕のいい剣士は刀身見ただけで分かるもんだ……どうだい?新しい武器も検討してみたら」

「いつかね。まだそこまで余裕ないよ」

「そうかい?お前さんぐらいタッパがありゃ大剣なんて持ったら、そりゃあ映えるぜ」

 店主の言葉にわたしも思わず両手剣を持つヘクターを想像する。……うん、いいかも。

「お嬢ちゃんもいかが?この辺のなら非力な女性でも護身にピッタリだよ」

 そう言って綺麗な柄のショートソードを見せてくる。と、ヘクターが手で制した。

「彼女には……いらない」

 店主のおじさんは一瞬目を丸くすると大口で笑い出した。

「こりゃ失礼した。俺も馬鹿だね」

 そう言って尚も笑い続ける。わたしは珍しく強い口調のヘクターに少し驚いてしまった。いや、いらないけどね。剣なんぞ到底使いこなせないし。




 店を出るとヘクターが深い溜息をついた。彼にしては何か後悔するようなマイナスの空気を感じてわたしは尋ねる。

「……どうかした?」

「いや、……何でも無い」

「またそれ!良くないよ、その台詞」

 わたしの言葉にヘクターは目を丸くした後、ふっと笑う。

「また来たいな、と思っただけだよ、この町に」

 ヘクターの答えに納得はいかなかったが、それにはわたしも同感だ。

 暫く歩くと街の案内図が大きく描かれた看板が現れた。二人とも自然と足が止まる。

「何処か行きたい所ある?今度は俺が付き合うよ」

「うーん、じゃあお言葉に甘えて……ここ」

 わたしが指差すのはマジックショップ。買い物は出来そうにないが、品揃えなど見ておいた方がいいかもしれない。ヘクターの快諾を聞くと店の方向へ歩きだした。




「へー……すごい」

 ヘクターがマジックショップに入るなり声を漏らした。彼からしたら訳のわからない干からびた植物や動物の何かがやたらとぶら下がっていたり、怪しい色の液体を入れたガラス瓶が並んでいたり、何に使うのかもわからない道具に溢れかえっているように見えるのだろう。店に充満する、甘いような柑橘類の匂いにも似た、しかしながらスパイシーな感もあるお香も妖しい。

「……これ、何に使うの?」

 ヘクターが眉間にシワを寄せる。彼の目線の先を見ると、ポーション系に使う植物の種やモンスターの爪、角の粉末が小袋に入って売られている。うーん、新鮮な反応。「煎じて飲んだりするよ!」と言いそうになるが、彼の為を思って止めておく。

 商品を順に見ていると、トンガリ帽子にローブ姿の店員に声をかけられた。

「冒険者の方ですか?」

「……の卵です」

 この答え方が正しいのか分からないのでわたしはゆっくり答える。店員は笑顔のまま質問を続けてきた。

「学園の方?」

「はい、そうです」

「あら!じゃあ手続き取って頂ければ支給品が受け取れますよ。ローラス内の学園ならどこでも大丈夫!」

 思わぬ幸運にわたしは手を叩いた。このような学生限定でサービスを受けられるところはたまに見つかる。他の職業に比べて金銭的に負担が大きいソーサラーに国が援助してくれるのだ。

「二階のカウンターになります」

 店員の案内にヘクターの顔を見ると、彼は小さく頷き手を軽く上げた。

「じゃあ俺、ここで待ってるよ」

「ごめんね。じゃあ急いで済ませてくる!」

 わたしは小躍りしたい気持ちを押さえつつ、階上へと駆け出した。




 学生証を見せるなどの手続きを済ませ、貰う物貰ったわたしはホクホク顔で階段を下って行った。魔法陣を描く際に使うチョークなど、なかなか良い品揃えだった。もっとこういう店があちこちにあればいいのになあ。学園の売店よりデザインも可愛いんだもの。

 中程まで来た時、一階にいるヘクターとカウンターの店員が話しているのが見えた。何やら親しげ?というジェラシーを一瞬沸き上がらせそうになるが、二人が同時に振り向いたので慌てて平静を装う。

 軽く報告をした後、店を出る際に店員から掛けられた、

「頑張ってくださいね!うふっ」

という言葉に、ソーサラーであるわたしに向けられたと思いわたしは振り向き返事をする。

『アリガトウ!』

 ヘクターと声が重なる。少しびっくりするが、冒険者であるわたし達二人に掛けられた言葉だとすれば、何も不自然なことではないか。わたしはそのまま流そうとした。が、ふと見上げたヘクターの顔が真っ赤になっているのを見て、再びびっくりする。

「ど、どうしたの?」

 一瞬『そんなに店員の子が可愛かったのか!?』とも思ってヒヤリとしてしまう。ヘクターは口元を手で押さえながら、

「いや……、気にしないで」

と呟いた。そんなに気にする間違いじゃないよ!と声をかけるべきか迷ったが、言えば言う程ドツボにはまる予感がして、やめておいた。

 通りを進むとどこかの店から良い匂いがする。お昼の時間が近いているのだ。わたしとヘクターは皆と待ち合わせ場所に指定した食堂へ向かう。

 道中も祭の準備をする町民の姿をいくつも見かけた。ポスターを貼ったり、色紙で装飾されたランタンをロープで吊したりと楽しげだ。ただいずれも黄色と青で統一されていることからも、アルフレートが話していた町の景観を守るという法律をきちんと守っている姿勢が見える。それにあの管理委員だ。きっと口うるさく言ってくるのだろう。

「なんか楽しみになってきちゃったなー、お祭り」

 わたしが言うとヘクターが笑う。

「今までは楽しみじゃなかったの?」

「だって、一応ヤッキさんの護衛で来てるんだし……。モンスターの巣になってるかもしれない所に突っ込むのは、やっぱり怖いの半分っていうか……」

 そうごにょごにょと言いかけたところで、前を歩くローザを見つけた。フロロも一緒だ。わたしが指差すとヘクターが声を掛ける。

「おーい」

 二人が同時に振り向き、わたし達に向かって手を振った。




 四人揃って食堂の扉を潜る。お昼時だからか人々の話し声でごった返していて店内はかなり賑やかだ。フロロが店内を一周して戻ってくる。

「アルもイルヴァもまだいない」

「やっぱり遅いのはその二人か」

 ローザが大きく溜息をついた。わたし達はとりあえず席に着き、先に注文を済ませることにする。

「わたしイカフライとエビピラフ!……そういえばヤッキさんは?」

 エントリーの申し込みってそんなに時間かかるものなのか。わたしは疑問を口にした。

「あたしはグラタンと甘いものにしようかなー。……そういえば待ち合わせ場所も伝えてないんじゃなかった?」

 ローザがメニューをめくりつつ、眉根を寄せる。それってまずいんじゃない?と言おうとした時、食堂の入り口からヤッキさんが現れたではないか。イルヴァも一緒で二人で荷物を抱えながらやって来る。

「買い過ぎちゃいましたあ」

 イルヴァが荷物を床に置くなり言った言葉にわたしは頬を引き攣らせる。足元が埋まるほどの量のこれ、全部が新しい衣裳なんだろうか。持って帰ることを考えているのだろうか、この娘は。

「ヤッキさんに丁度良いところでお会いして、付き合ってもらってたんです」

「いやー、良い荷物持ちにされちゃいました」

 自分で言って頭を掻くヤッキさん。依頼人だということをここにいる誰もが忘れている、そんな気がする。

「あとはアルフレートだけか」

 ヘクターが一つ空いた席をちらりと見て呟いた。




「遅くない?」

 もう料理は半分以上片付いてきているというのに、今だ姿を見せないアルフレートを思ってわたしはぼやいた。

 参謀長である彼が戻ってから、とフロロからまだ何も聞いていない。せっかく昼食を取りながら話しを聞きつつ今後の展開を考えようとしていたのに、ヤッキさんのギターに関するあまり興味の無い話しを聞かされてイライラとしてきてしまった。

「アルにはもう一度話すからいいよ。どうせ大した話し聞けたわけじゃないし」

 フロロはそう言って不思議な色の炭酸飲料を飲み干した。

「あら珍しい。フロロが情報聞き逃すなんて」

 ローザも食後のお茶に入っている。

「誰に聞いても口が堅いんだ、これが。多分箝口令ひかれてる感じだね。まさかギルドの人間までそうとは思わなかったぜ」

「盗賊ギルドにまでって……そんなに徹底してるわけ?」

 わたしは少し驚いてしまった。

「テスト期間中以外に鉱山に入ろうとする奴がいたら、禁固刑なんだってさ。これだけは皆はりきって教えてくれた。牽制の意味が強いだろうけど。ギルドの奴らは面白がってる感じだったなー。ゲームに参加してるような……」

 フロロの言葉に皆顔を見合わせる。徹底しているというより、ここまでくるとおっかないではないか。

「で、これが唯一収穫出来た情報なんだけどさ」

 フロロは声をひそめる。メンバーはテーブル中央に顔を寄せ合った。いかにも地元の人間、という風体の若者二人組の話しを隠れて聞き耳立てて手に入れた情報だ、とフロロは前置きした。

「始めは『祭りの準備に男手ばっかり借り出されて疲れちまう』、とかの愚痴を言ってたんだけどさ、『しょうがないだろ、タージオ山を鎮める為だ』とか言い出したんでこりゃ聞き逃せないなって思ったんだよね。その二人も聞かれちゃマズい話しだからか大分小声だったけど」

「よく聞けましたねえ……。どんだけ近くに寄ってたんです?」

 ヤッキさんが感心気に聞いたのでわたしが答える。

「フロロはちょっと特殊な耳をしてるのよ」

「そ、俺に掛かったら陰口なんて……まあいいや。で、『早く解決してほしい』だとか『ギターなんかくれてやる』とか『昔の奴らも余計な事してくれるよな』とか言ってたね」

「さっぱりわかんないですう」

 イルヴァがイルヴァらしい台詞を言った。フロロはにやりと笑う。

「俺の解釈で申し訳ないけど、ようするに『タージオ山には呪いがかけられていて、そのままだと町に都合が悪いもんだからギターで釣れた冒険者にどうにかして欲しい』って話しみたいだよ?」

「な、な、な」

 ローザの顔が怒りに変わっていった。気持ちはわかるが「なるほどね」という思いの方が強いわたしはローザの肩を叩く。

「これで少し納得いったじゃない。ギターを掛けた競争なのになんで坑道に潜ってこなきゃ行けないのか、ってこと。よく考えると不自然だもの」

 わたしの言葉にローザは「確かにね……」と頷いた。ヤッキさんは流石にショックが大きかったらしく、呆然とした様子だ。暫くした後、口を開く。

「……で、でも、なんでわざわざそんなことを……。ちゃんと頼めばいいじゃないですかあ」

「悪いけどヤッキさんもそれは言えないんじゃない?」

 ローザが意地悪な目でちらりと見た。何だかわかっていなそうな彼にわたしが言葉を続ける。

「ようするに、こういうイベント事にしちゃえば、冒険者を雇うお金は掛かんないどころか祭りで盛り上がってお金入ってくるじゃない」

 ヤッキさんは話しが飲み込めたのかがっくりと肩を落とした。

「やっぱり依頼内容のこと怒ってるんすかあ?」

「当たり前でしょ!」

 眉を吊り上げるローザをヘクターが「まあまあ」と諌める。

しかしそうなると、ますますアルフレートの話しを聞いてみたい。彼ならまだ何かを知っているかもしれないし。わたしは未だ埋まらない空いた席を眺めた。

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