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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第三話 罪人の町に響かせるは鎮魂歌
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授業開始

 実は今、わたし達は『クエスト待ち』の状況にある。別に依頼を選ばないのであれば常時受諾可能なものはいっぱいある。しかし、わたし達は話し合いで『どうせなら行きたい所に行く方がいいよね』となり、次の目的地は音楽の都バンダレンにしようと決めていたのだ。バンダレンはウェリスペルトからそう遠くないし、バンダレン行きの依頼もちょくちょくある。そんなもんだから教官に『バンダレン行きの話しが着たら優先的によろしく』と一言伝えておけば済む話しだった。

 それをうっかり忘れたのがわたしなのだ。オッケーオッケー、なんて安請け合いした割にころっと忘れちゃったのである。気づいた時にはすでに他のパーティーが旅立った後だった。首都行きぐらいレアな話しなら他で妥協しているところだが、バンダレン行きはそんなに無い話しじゃないし、アルフレートの強い希望もあって暫くは学園通いに決めたところだった。

「……まあ暇なときに簡単に教えるぐらいでいいなら」

 わたしが渋々言うと、ミーナの顔がぱっと明るくなった。

「ありがとう、お姉さん!」

 そんな風に言われると悪い気分ではない。

「いいのよ、大したことじゃないわ」

 わたしはミーナの頭を撫でる。

「明らかに最初はめんどくさがってましたよね」

「だよな」

 イルヴァとフロロの言葉は聞き流すことにする。

「早く魔法を習いたい、って気持ちはわかるけど、どうしてリジアに弟子入りなんて考えたの?」

 ローザはあくまで不思議そうだ。ミーナは手に持っていたスプーンを置いた。

「リジアお姉さんには『本をたくさん読むといい』って言われてたんだけど、……本が欲しいってお父さんとお母さんには悪くて言えなくて。フェンズリーには図書館があったのにこっちに来たら遠いところにしかないし、魔術書が置いてあるようなところには入れて貰えなかったし……」

 学園にも図書館はあるが、あくまで学生のためのもので部外者は入れない。常時門が開けっ放しのプラティニ学園だが、一般の方が用のある受付など以外は基本立ち入り禁止。意外とオープンな環境ではなかったりする。そして不法侵入は難しいとのことだ。なんでも感知系魔法に強い教官が常にセンサーを張り巡らせている、との話しだが……。少々疑わしい。

 他に魔術書がある場所といえば魔術師ギルドがあるが、ギルドは学園より貴重な書物が多いので部外者、ましてや子供が入るなんて以っての外だ。

 それよりも新しく出来た両親には要望は伝え難いというミーナの気持ちに、わたしは切なくなってしまった。良い人だからこそ我が儘が言いにくい、そんな気持ちなのかもしれないが、やっぱり普通の家庭の子供とは感覚が違うのだろう。いい子過ぎて泣けてくる。

「図書館が遠いって言ってたわよね。ミーナの家はどの辺なの?」

 わたしはミーナに尋ねる。

「ここから近いよ」

 ミーナが通りの名前を言うとアルフレートの肩がぴくりと動いた。……まさかご近所さんだったりする?

「うちと学園挟んで反対側ね。近いじゃない。……ってことは確かに図書館は遠いわね」

 ローザが顎に手を当て言った。図書館は町の西側だ。子供の足では遠いだろう。

「いいわ、あたしが場所を提供してあげる。この家に通えばいいわよ。リジアもどうせ毎日来るんだし」

 ローザの提案にミーナは目を見開いた。

「いいの?」

「ローザに遠慮は要らないのよ」

 わたしが代わりに返事する。勝手な受け答えではない。事実なのだ。

「そのかわり、あんた達は邪魔しないのよ」

 ローザは残りのメンバーを指差した。




 次の日の午後、さっそく、わたしはミーナに授業を開始する。場所はローザのお宅の司書室。今は特に誰も使っていないらしい部屋なのだが、広いし本はやたら並んでるし机も豪華だし、金持ちの考えることはどうもわからない。なぜ使ってない部屋がこんなに綺麗なのか。まあ、使ってない部屋がある時点で普通じゃないけど。

 わたしは可愛らしいピンクのワンピース姿のミーナを見て、思わず顔がにやける。新しい母親がミーナの『先生に魔法を習いに行く』という言葉を聞いて、着せてくれたのだと言った。別におめかしされる程こっちは大した存在ではないのだが、ミーナの母となった人の優しさが垣間見れて嬉しかった。

「さあ、ミーナ!授業を始めるわよ」

「はいっ、お姉さん!」

 わたしと向かい合わせに座るミーナが背筋をぴんっと伸ばした。

「その前に、わたしへの呼び方を変えてもらうわ」

「はいっ!おね……」

 ミーナは慌てて口を手で抑える。

「そう、そのお姉さんってやつね。それだと少しやりずらいものがあるから……。『リジア』でいいわ」

「えっ、でも……」

「わたしがやりやすいのがそういう呼ばれ方なの。わかった?」

 わたしが言うと、ミーナは嬉しそうに微笑んだ。

「はいっ!リジア」  照れたような嬉しそうな顔を見てわたしもくすぐったい気分になってしまった。軌道修正しつつ話しを続けることにする。

「じゃあ簡単にだけど、わたしが出来る範囲でミーナに『魔法とは?』ってことを教えていくわ。……ああ、あと確認しておくけどミーナは学園に入ったらどのクラスを目指すつもりなの?」

 ミーナは間髪入れずに答える。

「リジアと同じ、ソーサラークラスっ」

 手はあげなくてよろしい、と言うとミーナは頬を赤くしながら手を膝に戻した。

「そう、でも念のために学園でのクラス分けを教えておいてあげる。大きく分けて三つから成ってるのよ」

 わたしは指を折っていく。

「まずはわたしが所属しているソーサラークラスが含まれる『魔術師系クラス』に、ヘクターとかイルヴァがいる『戦士系クラス』。あともう一つが『技術師系』」

「技術師?」

 ミーナの問いにわたしは頷いた。

「一番人数が多いのがシーフね。盗賊って特殊技能をいっぱい身につけてるイメージあるでしょ?そういう非戦闘能力を扱う人たちが集まるクラスよ。ただ今でも盗賊ギルドなんかは力が強いから、学園には入学しないシーフは多いみたい。うちに来てるシーフの人達も『学びに来てる』っていうより『遊び半分、情報収集半分』って感じみたいね」

 へー、っとミーナは感心気に呟いた。

「他のクラスの話しはこのくらいにしておいて、魔術師系クラスはソーサラーもプリーストも全部、三年間はひとまとめになってるのよ。三年間は『魔術師クラス』として一緒くたに授業を受けるわけ。その間に自分には何が向いているかを判断しても良いしね。ようするに始めの三年間は広く浅く魔法について教わっていくのよ」

「なんだか大変そう」

 ミーナが不安げに呟いた。

「興味ない分野は触れたくない、ってタイプにはね。考えようによっては楽しい期間よ。どの分野も『へー、面白いな』って思える丁度良い範囲だけつまみ食いさせてくれるから」

「じゃあリジアもプリーストとかシスターたちが使うような魔法も使えるのね!」

 マザーターニアの仕事を見てきたからか、ミーナは目を輝かせて聞いてきた。……痛いところを突いてくれる。自慢じゃないがわたしは回復系の魔法はからきし駄目だ。教官から「ここまで攻撃系に特化したタイプもめずらしい」と言われたほどだ。

「ま、まあ実際はローザちゃんみたいな本職がいれば、ね。クラス分けは4期生からになるんだけど、ここで問題なのが『魔法が使える戦士』や『前衛で戦える神官』なんて万能タイプを目指したい場合なのよ」

「魔法剣士とかのことね?本でなんかはいっぱい出てくるわ」

「そういう物語の勇者さまに憧れてとにかく万能な力を目指す、って人もいるし、ただ単にゆくゆくは一人旅がしたいから、って人もいるしね。そういう場合に重要になってくるのが『選択授業』なのよ」

 ミーナのためにわかりやすく例をあげていく。

「ソーサラー系の魔法を使える戦士ならソーサラークラスに入って、選択授業で肉弾戦の指導を受けるとか、逆に入学から3年間はファイタークラスでがんばって4期から選択で魔法の授業受ける、とかね。そういう場合はとにかく大変だけど」

 そもそもプラティニ学園の教育理念が『天才』を作り出すのではなく、数多くの冒険者を生み出すことに重きをおいている。教官からもその道の専門家を目指すように勧められるし、実際、両刀使いのタイプにならわたしも魔法の部門では負けない自信がある。例え一年先輩だとしても、だ。

「普通は選択授業にはソーサラーだったら『もうちょっと深く精霊魔法が学びたい』とか『防御系に特化したいから白魔法を取ろう』とかいう使い方するんだけどね」

「リジアはどうしてるの?」

「わたし?今は『古代語魔法』と『世界史』取ってるわよ」

「せ、世界史?どういう風に役立つの?」

 ぎくり、とわたしは肩を震わせる。なかなか鋭いところを突いてくる子だ。正直言っちゃえば趣味だから、なだけだし。知識を披露しようにも本当に『生き字引』なアルフレートがいるしなあ。

「世界に関する知識を身につけるのも魔法使いには重要なのよ」

 きりり、と言うとミーナは納得したようだ。

「じゃあ学園の話しはこのくらいにしておいて、本題に入ろうか。ミーナは魔法ってどのくらい種類があるか知ってる?」

 ミーナは「えっと」と言いながら指を折っていく。

「黒魔術白魔術、古代語魔法、精霊魔法……あ、あと神聖魔法だ。五種類?」

「惜しいっ。六種類が大体基本になってるわ。今のにプラスして召喚魔法を覚えてね」

 ミーナは熱心に持参したノートに書き込んでいった。

「じゃあ次は各魔法の説明をします」

「はいっ」

「さっき挙げた六種類の魔法を更に大きく二つに分けることが出来るんだけど、どんな理由で分けるのでしょうか?」

 うーん、と唸るミーナ。

「回復魔法と攻撃魔法?」

「その分け方も間違ってないわよ。でもそれだと精霊魔法には回復魔法もあるし攻撃魔法もあるわね。さっき挙げた六種類をきっちり分けられるものよ」

 わたしがあげた問いにミーナの頭から湯気が出そうな様子を見て、答えを出してやる。

「正解は『マナの力を使うもの』と『他者の力を使うもの』よ」

 わたしはミーナの前で両手を広げた。

「今、この空間にも無数に漂っているのがマナ。古代人が『万物の力』と呼んだ力の粒子よ。これを利用するのが黒魔術白魔術、古代語魔法」

「マナって何なの?精霊?」

 ミーナの質問に一瞬わたしは言葉に詰まる。

「……それは今でもわからないことなの。古代人も紐解けなかった謎ね。だから『魔法』、未知なる力、なのよ」

 ミーナは「ふーん」と言いながらも首を傾げた。

「他者の力を借りる魔法はわかりやすいわね。精霊魔法なら精霊の力を借りるし、神聖魔法なら神々の力を借りて行使するわけ。召喚魔法は厳密にいうとそれらと被るんだけど、この世のもの成らざるものを……」

 わたしが言いかけた時だった。

「お茶にしない?」

 ローザが扉から顔を覗かせる。ミーナは名残惜しげにノートを摩ったが、わたしの顔を見て頷いた。

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