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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第二話 願う人、沈黙の魔人
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慌てん坊のお父様

 『夕飯には戻って下さいね』という、なんとものんびりしたメイドさんの言葉を受け取ってから、わたし達は再びフェンズリーの町へと出た。アンナを探す為である。町の中を探しても意味がない。町に着いているならアンナは無事なはずなのだから。なので一旦町の外へ出ることにした。

 途中フロロが、

「ちょっと抜けるよ」

と言って路地裏に消えていく。

「まだ何か調べなきゃいけないんですか?」

 イルヴァがフロロが消えていった薄暗い道を見つつ首を傾げた。

「必要なさそうか?」

 アルフレートがイルヴァの顔を覗き込む。

「だって……結局、不慮の事故だったみたいじゃないですか。あの悪魔の行方追った方がいいと思いますけど」

 わたしは首を振った。

「忘れないで。アンナは『自分からいなくなった』のよ。その理由がまだわかってない。何もなければそれで良し、何かあったのなら」

「あったのなら?」

 そう聞くイルヴァの大きな瞳にわたしは言った。

「アンナが口封じに消される可能性だってあるんじゃない?」

 わたし達がやらなきゃいけないのはいち早くアンナを見つけること。そう、バクスター家の二人より早く。ふんわりとした雰囲気のエディスさんに町の実力者然としたマルコムを疑うのは悪いと思うが、とにかくアンナが消えた原因がわからない以上は警戒するべきだ。

「大体、さっきの反応も変じゃなかった?」

 わたしはみんなの顔を見る。

「アンナが消えたのよ?直前まではわたし達より先行してたはずなのに、屋敷に来てない。それを父親のレイノルズ氏に連絡するのは一週間後でいい、って随分悠長よね」

「それを言ったのはマルコムだったわね」

 ローザの顔が厳しくなる。

「エディスさんも反対しなかった」

 わたしは二人の様子を思い出しながら首を振った。マルコムの言うことは絶対、という空気はなかった。何度か夫を嗜めるような会話もあったからだ。エディスに反論のタイミングは十分あった。なのに同調したのだ。彼女も同意見だったとみていい。

 理由は一つしかない。レイノルズ氏への連絡はなるべく遅らせたい。もしくはしないでおきたいのだ。

「屋敷には来ていて、嘘つかれてた可能性は?」

 ローザの意見は『どこかに幽閉されてないか』ということだろう。しばし考え、わたしは口を開いた。

「それなら一週間後なんて言わずに適当なこと言って追い出されてたと思う。振りだとしても協力を仰ぐ意味がないし、わたし達は邪魔なだけよ」

 そうあれこれ考えていた時、空から一羽の鳥がわたし達の元に降りてきた。クルクルとわたし達の間を飛び回ったかと思うと、アルフレートの肩に止まる。アルフレートはその鳥が首元に付けている小さな筒を取ると、短く何かを唱えた。すると鳥はアルフレートの肩から再び飛び立っていく。アルフレートは鳥から取った筒をいじくると、小さな紙切れを取り出した。

「……ほら、面白いことになってきた」

 にやりと笑い、紙切れをわたし達の方へと向けてくる。


『カホウ ハ ヤシキノ チカニ イマモ アンチ サレテイル シキュウ アンナ ヲ コチラニ カエスヨウ オネガイシタイ』


「家宝は、屋敷の地下に、今も安置されている。至急、アンナをこちらに帰すようお願いしたい……でいいのかしら?」

 ローザが眉間に皺寄せながら読み上げ、アルフレートの顔を見た。

「これって……まさか」

「ウェリスペルトのレイノルズ氏からのお返事だ。首都から電報を送っておいたんでね。ようやく返事が返ってきた。ああ、人間の発明品は不便だなあ」

「ちょっとふざけないでちゃんと説明してよ、アルフレート」

 わたしは少し苛立ちながら尋ねる。

「レイノルズ氏の疑いを晴らしてやらないと可哀想かな、と思ったんで、ちょっと質問を送ってみたんだよ」

 アルフレートは指で紙片を挟み、こちらに振ってくる。

「なんて、……なんて聞いてみた答えなの?これは」

「お嬢さんが来る途中で大事な家宝を無くしたんだが、どうすりゃいい?って聞いたのさ」

 予想を超える展開に一瞬頭がぐらぐらとする。

「……レイノルズ氏は、家宝を送るって話し自体知らなかったってことね?」

「そういうことだろうな。レイノルズの屋敷で一度もそういう話しが出ていなかったのが気になっていた」

「あ……」

 わたしは言葉を失う。確かに出発前、レイノルズ氏からは一言もその話しには触れられていないのだ。言われてみれば不自然だ。そんな大事なものを運ぶのなら、しつこいほど注意を重ねるのが普通ではないか。それに加えて先程のマルコムの言葉、『そもそもそんな物送ってくるなんて聞いてない』と言っていたのだ。マルコムにはレイノルズ氏から連絡が行っていたのだから、娘に何を持たせたのかぐらいはぼかしてでも伝えるのが普通だろう。

「ごめん、話しが飲み込めないんだけど」

 ローザの声にわたしは我に返った。わたしはローザの顔を見ると説明を始める。

「『家宝を無くしたんだけどどうすればいいか?』って質問に、レイノルズ氏は『地下にあるよ。アンナを帰してくれ』ってトンチンカンな返事を寄越してるのよ。……始めから家宝を送る手筈なら『地下にあるよ』なんて返事しないんじゃない?」

 『ワスレテイル』『ジュンビフソク』『テチガイ』……こんな単語が列ぶんじゃないだろうか。少なくとも家宝を安置する場所を教える訳がない。では何故そんな軽率なことをしたのか、といえば恐らくはアルフレートの便りを受け取ったレイノルズ氏は「家宝」の文字を見て慌てて実際のレイノルズ家の家宝を見に行ったのだ。地下に安置されているそれを見て、「なんだあるじゃないか」となった後、「じゃあアンナは何を勝手に持って行ったんだ!」となり、アンナを至急家に帰してくれ、と思い至ったんだろう。わたし達全員でなく、アンナだけに焦点を絞っているのも勝手なことをした娘に対しての怒りを感じる。

「これで魔封瓶を欲しがった人間は絞られるだろう?初めから目星をつけていたエディスか、はたまたその裏で旦那であるマルコムが指示していたのか。あとはアンナ自身とも考えられるな」

「な、なんでそうなるのよ」

 アルフレートに慌てて反論するわたし。

「なぜ?アンナは言っていたじゃないか。姉が結婚した時、『悲しかった』と。今は応援する素振りを見せていて、実は姉を実家に帰したいと願っていたら?フェンズリーをめちゃくちゃにした後、姉を取り戻そうとしていたのかもしれないじゃないか」

「それならアンナは初めからイェトリコの魔封瓶の中身があのどでかい悪魔だってわかってたはずじゃない。そうだとしたらわたし達に魔封瓶自体をほいほい見せたりしないわよ」

 わたしは辺りを見回しながら言った。アルフレートは「面白いと思って言ったのに」と言いながら肩をすくめた。だから面白がるなっつーの。

 夕闇にフェンズリーの町が染まって行くのが、ここからだとよく見える。もう少し暗くなればモンスターたちも活動を始めるかもしれない。そうなると厄介だな、そう思ったときだった。

「誰が犯人だろうといいじゃないか」

 低いうなり声のようなしゃがれた声にわたし達は一斉に振り向く。視界で黒衣の男を捕らえると同時に背中が泡立っていく。

「君達はここで死ぬというのに」

 呪いをぶつけるような悪感情むき出しの声が、耳に響いていった。

 わたし達に一斉に緊張感が走る。街道脇の茂みにひっそりと佇む男はローブのフードをかぶり顔が見えない。唯一見える口元が微かに震えたように見えた。

「ウィル・オ・ウィスプ!」

 ローザの声に反応して、無数の光の球が現れる。ローザの指の動きに従い、光は男に向かって飛んで行く。ジジジ!と熱い油に水を注いだような音がし、男の周りに漂っていた何かを打ち消した。

「良い反応をするじゃないか!」

 黒いローブに覆われた顔はよく見えないが、口元を見るに細身の男だ。

「ふっ!」

 気合いと共にイルヴァ、ヘクターが突っ込んで行く。二人が同時に武器を振り下ろした時、ガツ!と嫌な音がする。見えない魔障壁でも張られているのだろう。黒衣の男に届く前にはじかれた。二人共、衝撃で後ろに飛ばされる。

「何者よ!」

 わたしが叫ぶと男が笑った、ように見えた。

「哀れな魔術師め。過ぎた力を持っているばかりに余計な詮索をするはめになったな」

 男は真っ直ぐわたしに向けて言った。わたしに……言っている?何のこと?と考える間もなく、男の手元から一筋の光の束が伸びてきた。

「リジア!」

 わたしの身体はその光の束に絡めとられる。ホールド・ウィップの呪文だ。魔法のロープで縛られた身体は痛みはないものの動かない。

 が、この魔法にはわたしは思い当たることがあった。

「こおんなもの、きくかあああ!」

 わたしの気合と共に音こそ立たないが、ぶちぶちと面白いように切れていく魔法の一筋。何て事は無い。男の魔力を私の魔力が上回った結果だ。何となく見た目が乙女としては恥ずかしい。

「なんと!」

 男は感嘆の声を出すと笑い出した。

「面白い、実に興味深い!」

 笑っている隙が命取り。アルフレートの呪文が完成する。

「アンチ・プロテクティブ」

 男を中心にして巨大な白い光のサークルが現れた。マナの暴走によって起きる暴風があたりを巻き込む。わたしはふらりとする体を丸め、足を踏ん張った。

 これで男のシールドは消えたはずだ。それに気づいたのか、男が慌てて呪文を唱え出した。が、

「がっ……」

 男の口から血飛沫が飛んだ。脇腹をヘクターの剣が、太ももをイルヴァのウォーハンマーが薙いでいる。ほっとした息を漏らしたのもつかの間、

「ええ!!」

 わたしは男を指差す。

「消えた……」

 ヘクターが呟くと、ハッとしたように手に持つ剣を見る。

「血は付いてますね」

 イルヴァも自分のウォーハンマーの先端をしげしげと眺めた。

 今の今まで男が立っていた場所を全員でただ眺める。そこには風でなびく野草があるだけだった。

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