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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第一話 探せ!ぼくらのリーダー
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猫の企み

 とりあえず昼食にしよう、と提案するとイルヴァは、

「お弁当取りに行っていいですか?」

と窓から別の校舎を指差す。頷くもののわたしはどきりとしてしまった。彼女が指差すのは、当たり前だが彼女の所属するファイタークラスの校舎。馴染みの無い校舎に入るというのは緊張するものだし、この時間だともしかしたら『彼』がいるかもしれない。ファイタークラスは人数が多いので二クラスあり、イルヴァとは別のクラスなのは知っているが教室は隣りのはずだった。

「イルヴァ今日ねえ、五段弁当なんですよ」

 すらっとしているが大食漢であるイルヴァがわくわくした声を上げる。

「ふうん、わたしはパンか何か買わなきゃ……」

 そう答えながらもそわそわしてしまった。

 グラウンドを抜けて戦士達の集まる校舎に入る。ファイタークラスはやっぱり男の子が多いので校舎の雰囲気からして違う気がしてしまう。騒がしくてちょっと汚い、かな。

 二階だという五期生の教室のあるフロアに上がると、直ぐに視線が集まるのを感じた。「早速メンバー集めかな」というような好奇の目もあるが、視線が合いそうになると露骨に逸らす人もいる。イルヴァとわたしの顔を交互に見て、露骨にぎょっとする人にはさすがにムッとしてしまう。

 そちらに気を取られていると、イルヴァが景気いい声を上げる。

「おべんとー!」

 謎の掛け声と共に教室の扉を勢いよく開け放った。中にいた集団が呆気に取られた顔でこちらを見ている。机の上に座りパンなどを齧っているところを見ると彼らも昼食中だったらしい。目を丸くしたまま固まっている男の子達の中、銀髪に端正な顔をした一人を見つけてわたしは飛び上がった。

「あ、間違えちゃいました。こっちです、こっち」

 思考停止寸前のわたしの腕をイルヴァが引っ張る。先程開け放った扉の教室とは別の隣りの教室に入ると、イルヴァは室内後ろにあるロッカーを開ける。中から巨大な弁当袋を取り出して頬ずりした。

「……ねえ、ねえねえねえ!」

 我に返ったわたしはイルヴァに詰め寄る。

「こうなったらさ、イルヴァと上手くやっていこうと思ってるよ!?でもさ、もうちょっと落ち着いた行動取れない!?とりあえず扉は静かに開けようよ!」

 『彼』を含めた集団に一気に注目を浴びた恥ずかしさから、涙目になる。が、イルヴァは唇に指を当てて暢気に答えた。

「んー、イルヴァ扉に入る前から意識が中に飛んじゃうんです。扉があった瞬間からイルヴァは中にいるんですよ」

 すーっと引いていく自分が分かる。この娘をコントロールしようとした自分が馬鹿なのだ。

 溜息と共に廊下に出る。恥の上塗りをする前に急いで校舎を出よう、と思った時だった。

「イルヴァと組んだの?唯でさえ問題児だってのに、どこ目指してるのかわかんない人だね、アンタ」

 生意気な声に顔を上げると又してもモロロ族四人が窓辺に腰掛け、こちらをにやにやと見ている。二階だというのに身軽な彼らには関係ないらしい。始めは睨みつけていたわたしだが、今の発言をしたフロロの顔を見て思いつく。

「そうだ、フロロもわたしと組まない?」

「いいぜ」

 思わぬ即答に聞いた自分がびっくりする。フロロは生意気でムカつくことも多いが、シーフクラスでは成績優秀のエリートだったからだ。

 フロロは軽い身のこなしで廊下に降り立つと、わたしとイルヴァに不敵な笑みを見せる。子供のような顔のくせに何ともイケメンな態度だが、フロロの茶の髪と栗色の瞳、クリーム色の耳と尻尾というのはモロロ族の中でも『一番モテる色合い』だそうだ。現に他のモロロ族三人は黒髪や赤茶髪をしており、尚且つフロロをリーダーとして崇めているようだった。

「俺だって単に友情なんて絆で組むんじゃないぜ?俺には匂ってくるものがあるんだな」

 フロロの言葉にイルヴァは自分の腕の匂いを嗅ぎ、わたしはフロロと出会った日の事を思い出していた。



 フロロとわたしが仲良くなったのは、今思えばほんの偶然だった。

 図書室で居残り勉強をしている時、わたしは粗方片付いたレポートを前に大きく背伸びをした。ふと前を見ると、向かいのテーブルで何やら分厚い本と妙な金属片を交互に睨めっこしている人物がいる。それがフロロだった。

 何をしているのかさっぱりだったが、妙に気になり見ていると、どうやら本を参考に金属片を分解しているようだ。頭をかいたり汗を拭ったり、ため息をついたり忙しい彼をおもしろく思い、近づいて一言、

「そのでっぱり押しながらそこ引っ張ってみたら?」

なんてことを適当に言ってみた。

 すると彼の顔がみるみる険しくなり、わたしはやばい、と思ったのだが、次の瞬間、かちっと何かが外れる音がした。

「外れた…」

 惚けたように彼は呟くと、がばっ、とわたしの手を取り、

「アラームのレベル10を外すことが出来たぜ!ありがとう!」

 意味のわからないわたしの手をぶんぶんと振り回したのだった。それからというもの、

「リジアといると奇跡が降ってくる気がする」

なんてことを言いながらわたしの周りをうろちょろとしているのだった。



 フロロとイルヴァに挟まれながら移動し、いつも昼食を取っている中庭に着く。噴水が中央にある芝生の上に数組の生徒達がいた。その中の一つ、異様な雰囲気を出す二人組みに近づいていく。

「……どうしたの?」

 わたしがそう声を掛けたのは白地に金の刺繍が入った美しいローブを着るプリースト、ローザ。綺麗な顔を歪めてメソメソと泣いている。その彼女が寄りかかっている人物は、露骨に嫌な顔をしてこちらを見た。

「早く何とかしろ」

 偉そうな口調でエルフのアルフレートはわたし達三人を睨んできた。

「慰めろって?曲芸でも見せりゃいいのかい?」

 その場に飛び跳ねるフロロにアルフレートは舌打ちする。

「その減らず口を慰める方向に役立てろよ、フロロ」

「アルの方こそ嫌味ばっかりで、人の慰め方はわかんないんだろー?」

 言い合う二人の異種族の横でイルヴァがローザの頭を撫でた。

「どうしました、ローザさん?オカマが原因でいじめられました?」

「その遠慮が少しも無い言い様がムカつくけど、そうかもしれないわあ……」

 そう零しながら漸く顔を上げたローザの話しを聞いていく。

 プリーストクラスもわたし達と同じ時間に、教官から『演習』の説明を受けていたらしい。一通り終わった後、教室を出ると知り合いのソーサラーがいたので話し掛けたのだが、何も言わずに物凄い勢いで逃げていったのだという。

「あたし、自分で言うのもなんだけど司祭としての腕前はちゃんとしてると思うし、避けられる要素としては『このキャラ』しか考えられなくて」

 めそめそするローザの話しを聞いて、数年前もこんな事があったっけな、と思い出す。

 入学して直ぐは今のプリーストクラスとソーサラークラス、一緒の『魔術師クラス』として編成されていたので、わたしとローザは同じクラスだった。その魔術師クラスの一番初めの授業、自己紹介の時間の事だ。一人一人が恥ずかしそうに自分の名前等を発言していく中、

「ローザでええす!」

と言い放ったのがヴィクトル・アズナヴール、この人であった。未知のキャラに純情な少年少女は戸惑い、悲しいかな孤立寸前になってしまったローザに話しかけたのがわたしだったのだ。

 実は単に興味があってオカマに触れたかっただけなのだが、ローザ本人はすごく嬉しかったのだという。「マイペースな友人にあたしは救われたのよ」と言われた時はなんだか恥ずかしかった。一人話し掛ければ不思議なもので、ローザはすっかりクラスに馴染んでいた。と思っていたらこの状況というわけか。

 薔薇の刺繍の入ったハンカチで涙を拭うローザに、フロロが口を開く。

「別に生まれ持った個性を変えろとは言わないけどさ、自分が『変人』ってことは理解しろよ。これから学園出て、自分達で依頼を取ってくる機会も出てくるんだ。仲間にオカマがいたら変な目で見られるかも、って考えは別の見方したら『プロフェッショナル』なんだよ。俺は嫌いじゃないぜ」

 フロロの辛辣な言葉に再びローザの顔が歪んだ、と思ったのだが、ぐっと堪えるようにハンカチを握り締める。

「……分かってるわ。でもね、あたしが腹立つのは、その子にちょっっっとでも『パーティ組まない』なんて話しは出してないことなのよ。勝手に勘違いして、しかも逃げていくって。それって凄い失礼じゃない!?」

 野太い雄叫びと共に立ち上がるローザにアルフレートが溜息をついた。

「怒りに変わったんならもう大丈夫だな。……めんどくさい奴だ」

 いつの間にかお弁当を食べ始めていたイルヴァが手を止め、アルフレートとローザを見る。

「じゃあ二人ともメンバー組み終わってないんですね?」

 それを聞いてローザが肩を竦めた。

「まだよ。というか話し聞いたの、さっきだもの」

「じゃあこのメンバーで組めばいいじゃないですか。仲良しなんですもん」

 イルヴァの発言にわたし達は顔を見合わせる。フロロがにやっと笑った。

「……結局『いつものメンバー』じゃん。ま、いいんでないの?」

 そう、この五人がいつもお昼やらなんやらでつるんでいるメンバーなのだ。一人一人ちょっと問題はあるが、わたしが一番落ち着く人達でもある。

 済んでみれば当たり前の結果に終わってしまった。問題の解決である。

 そもそもこれだけクラスが均等に分かれているのに、何故かこのメンバーのパーティは思いつかなかったのだから、わたしもちょっと薄情かもしれない。しかし何より自分があぶれなくて良かったな、とほっとした溜息をついた。

 買って来たサンドイッチの包み紙を解いて顔を上げると、上に見える渡り廊下の窓の奥に見える光景が目に留まる。

 『彼』だ。後ろ姿なので顔は見えないものの、ずっと見てきた人だ。仕草や雰囲気で間違いないと分かる。その彼の前にいるのは見覚えのある顔なのでプリーストクラスの子だろうか。他にも人影は見えるがよく窺えない。

 メンバー入りの相談かな、と思う。本決まりのメンバーなのか違うのか、どちらが誘う側なのかは分からないけど、目立つ人だもの。きっと色々なところから打診があるに違いない。

「演習ねえ、面倒だなあ」

 アルフレートの声に我に返る。欠伸を一つした後、わたしの視線に気付いたのか、

「何だ」

 そう言い放つエルフは人の顔を睨みながら林檎に齧り付いた。

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