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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第一話 探せ!ぼくらのリーダー
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科学者『B』

「で、面白い事ってえのは何なのかしら?」

 ローザがアルフレートに問い掛ける。放課後、彼のお望み通りカフェテリア内に集まったメンバーの前で、アルフレートは腕を組みふんぞり返っている。

「面白くなかったら即、帰っちゃいますよ」

 イルヴァの言葉にアルフレートは「お前らは私に冷た過ぎないか……?」とぼやきながらやや、胸の張りが緩くなってきた。

「だって今日、コスプレ仲間の会合があるんですもん」

と答えるイルヴァの本日の衣装は、全身真っ白のボディスーツだ。頭に着けている金属の飾りといい何処に売ってるの?

「連れてきたよー」

 その声と共に現れたのは、ヘクターに肩車されたフロロ。

「遅くなってごめん。もう話し始まってる?」

 ヘクターは律儀にフロロを椅子にストン、と座らせると自分も椅子に腰掛けた。

「これから。このエルフがもったいぶっちゃってて」

 わたしはアルフレートを指差す。アルフレートは「可愛くない奴らだ」とぶつくさ呟きながら足下に手を伸ばした。

「よっこらせっと」

 アルフレートが次々とテーブルに置き出したのは本の山。見るからに年代物の古めかしい本から、割と最近のものまであるように見える。

「……何?」

 わたしが尋ねるもアルフレートはまあまあ、と手で制してきた。愚民を前に演説を垂れる貴族様、という態度じゃないか。

「さて、全員揃ったところで話しを始めるとするか。……先日のチード村での事は全員記憶に新しいところではあるが、いくつか私も気になるところがあったんでな。調べてきたんだ」

「そんな事やってないで、早くレポート書いてよ」

 わたしの真っ当な突っ込みに、

「……私が気になった事というのは、だ」

アルフレートはそれを無視して話しを続ける。

「まず一個目がバレット邸にいたあの世話好きな猫達だ。かなり珍しい種族だろう、私も初めてみる種族だった」

「タンタ、可愛かったよな」

 ヘクターの言葉にわたしはポケットに入れていたタンタのぬいぐるみを出す。

「ねー!本当に可愛かった!」

「お前ら、人の話しの腰をそんなに折りたいなら、もう止めてもいいんだぞ?」

 アルフレートがこちらを睨んできた。わたしは慌ててぬいぐるみを仕舞う。

「ごめんごめん、実はわたしも気になってた」

 わたしの言葉にアルフレートは満足そうに頷いた。

「だろう?彼ららしき文献を探すのは骨が折れたぞ。……これだ」

 そう言って山から一冊抜き取ると、わたしの前に差し出す。わたしはそれを手に取るとパラパラと捲ってみた。

「……何よこれ、セクタ語?違うな……インジャル語じゃない?読めないわよ、こんなの」

 共にローラス共和国からすれば『果て』と呼ばれるような遠い国の言語だ。はっきりいってミミズがのたくっているようにしか見えない。ローラスとは大陸も違うし、情報も中々入ってこないような遠い異国だった。

「なんだ、情けないな。まあインジャル語だと判っただけでも褒めてやる」

 そう言うとアルフレートは本を読み上げ始めた。

「……『マーユ族』これだ。『マーユ族、ハイネカン地域に住む種族。猫のような外見だが二足歩行、知能も人間に近い。働くことに非常に喜びを覚える性格の為、とても献身的。喉頭が未発達なのか、語尾が猫の鳴き声のようになる個体が多い。戦闘における能力が低いことから他地域で見られることは稀』だそうだ。どうだ?多分これだろう。他にも外見的特徴も出ているぞ」

 えっへんといったアルフレートだが、正直「はあ、そうですか」としか言いようがない。何しろ本物に会っているのだから、今更種族の名前が分かっても……。わたしが気になっていたのも、彼らがどうしてバレットさんに知り合ったのか、というものだし。でも考えてみればそんな事調べようがないものね。

 わたし達の反応が薄いことに気が付いたのか、アルフレートは眉間に皺寄せ言った。

「それだけ?」

 いや、こっちこそそう返したい。

「……で?終わり?どうすんのよ、イルヴァ、寝ちゃってるけど」

 ローザが呆れ顔でイルヴァを指差す。見るとすぴすぴと寝息を立てるイルヴァの姿。……いや、確かにどうでもいい内容の話しではあったが、この短時間に寝る方が難しいだろうに。アルフレートはこめかみを引き攣らせつつ、喚く。

「だから嫌なんだ、この単細胞生物め……、おい!話しはこれで終わりじゃないぞ!メインはこっからだ!」

「いいよイルヴァは……。ササッと次の話ししてよ」

 わたしはアルフレートに先を促す。

「むう……、まあいい。私のことを馬鹿にしてると後悔するぞ。……さて、もう一つの話しに移るとするか。」

 アルフレートはまたも本の山に手を突っ込むと、比較的新しい本を出してきた。学術書にみえるそれは分厚く重そうだ。

「これだこれだ。よし、今度こそリジア、お前にも読めるぞ」

「失礼ね!大体インジャル語なんて読めるの、この学園の教官の中でも一人二人いるかどうかって……え?何よ、ここ読めばいいの?」

 アルフレートが開いてとんとん、と叩くページを眺める。普通の共通語だ。見出しは『科学の可能性』と。太字になっている見出しの横に学者名が書いてある。

「『バレット・T・ヘスカル』……って、これバレットさんの事じゃないの!」

 下にずらずらと続く記事の内容も『機械』だの『生活空間』だのといった単語が出てくることから間違いないようだ。わたしは本の表紙を見る。タイトルは『近代科学者』。前説を見る限り最近の偉い研究者の功績をまとめた本のようだ。

「思ってたよりすごい人だったみたいね……」

 わたしの横から本を覗きこんで、ローザが呟いた。

「偉い人ほど暇なんだなあー」

 ヘクターの素直な感想。確かに、何やってんだあのじいさん。

「彼がどういう人物か、大体わかったかね?さてさて本題だ」

 アルフレートは机にある本を、今度は片っ端から開いていった。

「次にこれを読んでみろ」

 アルフレートに示された本の中身をわたしは読み上げる。少し古めかしい本だが共通語だ。

「『……私は面白い人物と知り合えたことを幸運に思う。彼は全く私を飽きさせないのだ。今日見せてもらった不思議なカラクリは犬を模した玩具で、なんと鳴いたり跳ねたりする。【もっと見た目も本物に近づけたいんだ。それこそみんなが本物と見間違えて干し肉を投げ与えたりするぐらいにね】そう言ってバレットは自慢の白髭をさするのだった』」

 わたしは思わず本を手放す。ローザがその本を自分の手元に引き寄せると、表側を見回した。

「『パエルニスタ国回顧録』アダム・クラウザー、ですって」

「彼は五十年ほど前のパエルニスタの貴族だ。……そして彼の若かりし頃の回顧録にバレットという変わり者の発明家が出てくる。その頃にはすでに白髭だったようだな」

 一瞬、場が静まり返る。わたしもアルフレートの言いたい事を何となく理解しつつも言葉が出てこなかった。

「すごい長生き?」

 フロロが尻尾を揺らす。

「バレットが人間じゃないなら有り得るかもな」

 長寿の種族、エルフであるアルフレートが答える。暗に否定しているような響きだ。人間より長寿の種族などたくさんいるし、何世紀にも渡って歴史に登場するエルフもいる。

 ただ、バレットさんは人間にしか見えなかった。少なくとも外見的には。

「もしかして……これ全部?」

 わたしはテーブルの上に散らばる書物を見渡した。アルフレートは一冊ずつ手に取り、わたしの疑問を肯定するように説明を続ける。

「私の仮定論も入っているから何とも言えないな。全部鵜呑みにして聞くなよ?一番新しいものは一昨年発行された科学研究論文集。これは他の研究家の論文に少し余談で入っている程度。一番古いものは……これだ。友人に無理言って借りて来たものだから乱暴に扱うなよ」

 そう言ってかろうじて巻物の形になっている、というような状態のボロボロの紙を出してくる。

「中はかろうじて現代の共通語だから古代文明時代じゃない。しかし『アガディア帝国』やら『メスト大陸』やら出てくるから六百年は昔だな。名前もその頃の名前らしい名前だがね。『錬金術師バレスタ』として登場している。これが彼のことなら私より長生きになるんだなぁ」

とアルフレートは笑った。

「ど、どういうこと?」

 わたしは乾いた声しか出なかった。

「さあね。半世紀、1世紀ごとぐらいに『変わり者の発明家』が登場している、って話しさ。名前はバレット、バレスタ、バラド、ブラッド、ブランド、……ここまでくると私のこじつけになるかな?ただ出現する地域も見事にバラバラだ。イーストエンドからウエストエンドまで……」

「一つ気になるのはさ、なんで有名になっていないんだ?」

 ヘクターが赤い革張りの本を眺めながら尋ねる。

「同業者の間じゃ有名なのかもしれない。『ああ、またBが出た』なんてな。私が推したい仮説はこうだな。彼はもう何百年も前にいなくなっている。それ以降の『彼』は、彼の発明品……つまりロボットに他ならない。なんてな、どうかね?」



「どう思った?」

 帰りのバスの中、隣りに座るヘクターが語りかけてきた。

「うーん……、アルフレートの話しは面白がって脚色している部分が大きいと思う。わたしは単に、大昔の偉大な先輩にあやかって同じような名前を継いでる研究者が多いだけなんだと思うな」

 言ってから我ながらつまらない事言っちゃったな、と思ったが、これが正直な感想だ。

「でも、本に載るようなすごい人に会えたっていうのは本当だもんね。フローラちゃんみたいなすごいものまで貰っちゃったし」

 わたしが言うとヘクターは頷いた。

 イグアナ『フローラちゃん』は話し合った結果、ローザの家にお世話になっている。彼女の家が一番学園に近い(というかすぐ裏)ので皆が集まりやすい。その上お金持ちなので家が広いからだ。

「俺も考えついたんだけどさ」

 思わぬ言葉にわたしは「え?」と聞き返す。ヘクターは一度小さく頷いた。

「バレットさんは本当はずーーーっと未来から来た人、っていうのはどう?未来からタイムマシーンに乗って、色んな時代で遊んでるんだよ」

 わたしはヘクターの口から意外な単語が出てきた事に思わず笑ってしまう。『タイムマシーン』とは随分前に爆発的に売れた空想小説に出てくる発明品の名前だった。確かに小説に出てくる発明家もバレットさんのような変わり者だった。

 それから二人で暫く「バレットさんのタイムマシーン紀行」の空想話しで盛り上がる。考えたところで本当の事など分からないのだ。だったら勝手に想像して話しのネタにした方がおもしろい。

 ヘクターは退屈しのぎに話題を振ってくれたのかもしれないけれど、誰にも邪魔されない空間にわたしはこのままこの時間がずっと続いてくれないか、そればかりを考えていた。

 また明日から学園での馬鹿騒ぎを楽しむ。その輪には新しい仲間が追加されたのだ。

 わたし達を救ってくれたリーダーは、眺めているだけの時には見られなかった笑顔をわたしに向けていた。



一話、探せ!ぼくらのリーダー、完

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