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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第一話 探せ!ぼくらのリーダー
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フローラちゃん

「こ、これは……」

 テーブルに置かれたそれを目の前に、わたし達は息を飲む。

 バレットさんがそっと差し出した緑色の小さな生き物。全体の半分以上を占める尻尾を入れてもわたしの腕ぐらいしか無い。

「……とかげ?」

「イグアナ!」

 わたしの言葉をバレットさんが厳しく訂正する。どっちでもいい。

「いや……これ貰っても困るんですけど」

 わたしが遠慮なしに言うとバレットさんはちっちっちと指を振った。

「これはイグアナ型ロボットでな。わしは今人口知能の研究をしとるんだが、これが第1弾。この世に二つとない大発明じゃぞ?」

 それを聞いても眉を上げるしか出来ない。何しろあの巨大ロボットの暴走を見たばかりだ。

「ガーシュライザーのような一定のプログラムをこなすタイプのロボットとは違うぞい!学習機能を搭載、感情に近い反応も見せるという凄いロボット!わし天才!」

 いやー、そう言われても、ペットを押し付けられても困るんですよ。

 そう目で訴えるわたしの顔を見て、バレットさんは手を振り遮る。

「まあまあ、まだあるぞい。誰かこのイグアナのココに触れてみなさい」

 バレットさんが指差すのはイグアナの頭頂部にある小さな赤い宝石のようなもの。誰もが無言で躊躇する中、フロロが一歩踏み出すとそのままイグアナの頭へ手を伸ばす。その瞬間、何の音も振動も無く、フロロの姿が消えてしまったではないか。

「きゃああー!!ちょっと!フロロ!」

 思わずわたしは悲鳴を上げた。わたしは反射的に老科学者の襟を掴まみがくがくと揺らす。

「何したのよ!」

 しかしバレットさんは自信たっぷりな顔のままだ。

「大丈夫大丈夫。フロロくん、中にも同じようなボタンがあるだろう。それにまた触れてみなさい」

 次の瞬間、わたし達の前にフロロが現れた。またしても一瞬の出来事に皆が息を飲む中、フロロは目をぱちぱちさせ、飛び跳ねる。

「すごいーすごいー!ごいすーごいすー!」

 部屋を踊りながら回る彼を捕まえるとわたしは尋ねる。

「何!?何が起きたの!?」

「リジアもやってみなよ。新しい世界が開けるよ」

 も、もうちょっと解りやすい説明を……。わたしには彼が透明人間になったかと思えば、また姿を現したようにしか見えなかった。

 わたしが文句を言おうと口を開くと、

「あ」

ローザの声が後ろから聞こえる。振り向くとイグアナを囲む人数が減っているではないか。いないのは……ヘクター。

「ど、どこ行っちゃったの!?」

 バレットさんは黙ってテーブルを指差す。すなわち、イグアナを。残ったわたし達はお互いの顔を見る。

「イ、イグアナの中に居るってこと?」

 ローザが眉間に皺寄せながら尋ねるも、バレットさんはにこにこしているだけで答えない。もう!とわたしは鼻息荒くする。

 堪らなく不安だが、どうなっているのか知りたい欲求の方が大きくなってきた。

 ええい、ままよ!

 深呼吸すると、わたしはそっとイグアナに手を伸ばした。

 耳鳴りになる一歩手前の感覚。一瞬のふらつきはあったものの、何が起きたか解らない。ぼんやりするわたしの前に見知らぬ部屋の光景がある。何もない部屋。そこにわたしはいた。

 わたしのそんなに広くない自室より狭く、広めの物置といったところか。光源がどこなのかわからないが不快でない程度に明るい。

 左手に一つドアがある。一つ深く息をするとわたしはドアの方へと足を進めた。その時、そこからヘクターの顔がひょいと現れるではないか。わたしが安堵の息を吐くと彼の方もこちらを見て微笑む。

「こっち来てみなよ」

 わたしがそちらへ向かおうと足を踏み出すと、後ろにフロロが現れた。また移動してきたらしい。わたしは彼に尋ねる。

「皆は?」

「外でじゃんけんしてる」

「あっそ……」

 わたし達三人がいなくなっているというのに薄情な奴らだ。

 ふと視線をフロロが出現した方向にやると、壁に拳ほどの赤いものが張り付いているのが見える。うっすら魔力を帯びる宝石。魔晶石だ。なるほど、これが『こちら側』からのスイッチらしい。転送装置になる魔晶石、こういうのを見せられるとやっぱりバレットさんはただ者じゃないと思わされる。

 ヘクターとフロロが入っていったドアの方へ行き、中を覗くとわたしは一瞬言葉を失った。

 その部屋はおよそわたしが見たことのない世界であった。部屋の上半分は窓で覆われ、下の方は見たことが無い機械のようなもので埋め尽くされている。その前には角ばった大きな椅子が二脚。操縦席、というやつだろうか?窓の外の光景はというと、

「何これ、イグアナからの目線ってこと?」

 まるで自分がピクシーにでもなったかのように、先程までわたしがいたバレット邸の食堂が引き延ばされた大きさで見える。ビールを飲むバレットさんも、その周りにいる猫達もドラゴンのように大きいのだ。イルヴァとアルフレートがじゃんけんをしている姿も見える。

 それを見て、わたしはふと思い立ち、先ほどの部屋へと戻る。部屋の中には呆然と立ち尽くすローザの姿があった。



「さて、どんなものか大体解って貰えたかね?」

 バレットさんは未だ茫然とするわたし達を見て満足そうに笑った。全員あの部屋に入った後、暫く観察して再び外へと戻ってきたのだが、ぶっ飛びすぎた未知の経験に感動も上手く沸いてこない。

「仕組みはさっぱりですけど……ようするにこの子の中に入れるんですね?」

 この子という言葉に反応したのか、イグアナがつぶらな瞳をわたしに向けて首を傾げる。こういう仕草を見ると可愛い気もする。

「そう、このイグアナ型ロボット『フローラ』ちゃんは」

 ぶおっ!アルフレートがレモンソーダを吹き出した。バレットさんは気にも留めずに続ける。

「移動式コンパクト邸宅なのじゃ」

 聞いた事ないネーミングだが、言いたい事は大体わかる。センスはどうかと思うが。

「邸宅……って様子じゃないわねえ。あの狭さじゃ」

 ローザが首を傾げた。その言葉にもバレットさんは鼻で笑って答える。

「このフローラちゃんはこれで終わりじゃないぞい。……なんとな、成長するんじゃよ。イグアナの成長速度は知っているかな?ものすごく大きくなるんじゃぞ」

 胸を張って説明されるが疑問は解決していない。

「……あの、これってロボットですよね?」

 わたしの言葉にバレットさんは大きく頷く。

「そうとも。しかしこれがバレット流発明品のすんごいところ」

「自分で言っちゃったよ」とフロロ。

「イグアナの生体を研究して組み立てたんでな。まさに本物と同じようなペースで成長するぞい。しかもそれに合わせて中も拡張を続ける。一年も立てばこの中で揃って暮らせるようになるかもしれんの」

「おお!それってすごいことじゃない!」

 ローザが歓声を上げた。わたし達六人が冒険の旅に出るに当たって、寝泊りの心配が無くなったわけだ。今は当てに出来そうにないが、雑魚寝出来る様になるだけでも嬉しいかも。

 ふと湧いたいかがわしい考えに顔が赤くなる。

「……何考えたか当ててやろうか?」

「やめて」

 アルフレートにわたしは全力で首を振った。

「二つあった部屋の片方、あれって操縦室?」

 フロロがワクワク顔で聞くが、返ってきた答えは理不尽なものだった。

「操縦というか……お願いできるぞい。フローラちゃんに」

 気まずそうなバレットさんに「何じゃそれは」と全員の声が重なった。

 料理が冷めますにゃ、という猫の小言を受けてテーブルに向き直る。ご褒美はやっぱり空腹を満たすご飯だ、とばかりにがっつくわたし達を見ながら、バレットさんは満足そうだった。

 とんとん、と背中を叩かれて振り返る。白猫タンタがわたしの顔を見てもじもじしたかと思うとにー、と笑う。

「途中でぬいぐるみ拾わなかったかにゃ?」

「あ、……これ?」

 わたしはフロロから貰ったぬいぐるみをポケットから取り出す。宝箱で見つけた猫のぬいぐるみは、箱を開けた本人から「やるよ」と言われてわたしが持っていたのだ。

 タンタは「それにゃ」と言うと腕を絡ませてくねくねし出した。

「それ、タンタが作ったにゃ」

「あ!やっぱり?似てると思ったんだよね」

 ぬいぐるみの猫は全身真っ白だが、手足の先だけ黒い布になっている。ちょうどタンタの毛色だもの。

「大事にして欲しいにゃ。壊れたら持ってきて欲しいにゃ」

 また来るよ、と言おうとして思い出す。わたしはバレットさんの方へ向いた。

「ちょっと気になってたんだけど、タンタ達はこの村から出られないの?」

 わたしの質問にバレットさんは少し目を大きくした後、頬をぽりぽりとかいた。

「んー、人懐っこくて疑う事を知らなくて、献身的で力が無い。どう思う?」

 わたしは眉を寄せるが、最後の『力が無い』を聞いて彼の言いたい事が何となく掴める。

「皆に可愛がってもらいたいけどね。不幸な子も出したくないわけ。わしの我侭かもしれんね」

 バレットさんはにこにことしていたが、初めて彼の真剣な顔を見た気がした。皆が黙る中、

「あんたはどうやって騙して連れて来たの?」

そう尋ねるアルフレートにバレットさんは、

「アンタはアレだ、エルフらしくない奴じゃのー」

と目をくりくりとさせた。仮にも依頼人、というバレットさんにする態度ではない、と冷や冷やするが本人は気にも留めていないようで良かった。

「まあわしもまた遊びたいの」

とビールを飲む科学者にローザが「それは約束出来ないわね」と返した。

「学園側にも報告する義務があるから。最初から最後まで、きっちりね」

 何やら匂わせる言い方のローザにバレットさんは、

「また出禁かのー」

と肩を落とした。

 彼には身から出た錆、という言葉を送りたいと思う。

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