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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第一話 探せ!ぼくらのリーダー
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勇者達、翻弄する

 両手を広げ「ぐおおお!」と勇ましく吼えるロボットに腰が抜ける。

「な、なんで操縦者がいないのに動いてるの!?」

 ローザの悲鳴にわたしは首を振った。

「それより確実に凶暴になってるわよ!」

 そう叫ぶ間にもズシン、ズシンと音を立ててロボットは歩き回る。振動でフロロが転げまくるが、こっちもそれどころじゃない。立っているだけで精一杯だが、近づく巨体から必死で逃げる。

 大木のような腕をぐるぐると振り回したかと思うと、ロボットは体全体を倒しながら壁を殴りつけた。

「きゃー!」

 飛び散る破片とわたし達の悲鳴。操縦者であるバレットさんがいた時には考えられない滑らかさで次々に腕を振るう。気がつくとバレットさん達が逃げ込んだ小さな扉は瓦礫で埋まっていた。

「全然効きませーん!」

 ロボットの足にウォーハンマーを振るうイルヴァが叫ぶ。ヘクターが壁を殴るロボットの腕目掛けてソードを振るが、何もダメージが無い様子に舌打ちした。

「ど、どうする!?一回逃げる?」

 わたしは入ってきた扉を指差し尋ねる。声が震えているのはロボットが巻き起こす揺れのせいなのか、恐怖の為なのか。その時、ロープを引き千切るような『ブツッ』という不思議な音がする。

『ひょんな事から操縦不能に陥ってしまった最新兵器ガーシュライザー!哀れなる老科学者には止める術がなかった……』

 くぐもってはいるがどう聞いてもバレットさんの声だ。わたしは部屋を見渡す。が、姿は見えない。

『最早手は残されていないのか!いや!そこに現れたのは六人の勇者達!行け!勇者達よ!狂気の世界に堕ちてしまったロボットを止めるのだ!バレット邸を救う……いや世界を救うのは君達だ!』

「な、何言ってんの?」

 この場にいない相手に思わず返すと、意外にも返事がくる。

『お願い!何とかして!わしの家、壊れちゃう!』

 必死な声に頭のどこかがぷっつり切れそうな気がする。何とかしたいのはこっちだ、と怒鳴り返したい。だがまた『プツッ』という音が鳴ったかと思うと、バレットさんの声は聞こえなくなってしまった。

 強烈なパンチを食らい続けている壁だけでなく、天井まで崩れてきたらしい。ぱらぱらと石屑が舞い降り、血の気が引いてきた。

 突然ロボットの動きがぴたりと止まる。が、すぐに両腕をぶるん、と振るとそのままの遠心力で全身を回転し始めた。

「ひええ、床に穴でも開けそうだぜ」

 フロロが瓦礫の隙間から顔を覗かせる。摩擦の為かロボットの足元からは煙りが上がっていた。イルヴァ、ヘクターも慌てて退避している。足元に纏わりつく人間がいなくなったのが満足だったのか、ロボットはがちゃがちゃと体を揺らした。笑っているらしい。

「む、むかつくわね」

 そう漏らすわたしの背後からアルフレートがのん気な声を響かせる。

「何とも間抜けな戦いだなあ」

 それを聞いてむっとした様子でローザが詰め寄る。

「文句言うならあんたも何か参加しなさいよ」

「いいのか?私が手を出せば実につまらない事になるぞ?」

 聞き覚えのある台詞にわたしも口を出す。

「またそれ?いいからそのつまらないのを見せてみなさいよ」

 アルフレートは肩をすくめると、呪文を唱え出した。歌とは違って美しい彼の詠唱に、やおら精霊達が集まり出す。

 その間に瓦礫によじ昇ったヘクターがロボットの背中に飛び付いていた。そのまま肩を掴み這い上がる。一度仕舞っていたソードを抜き、首と頭を繋ぐ部分の割れ目に切りつけた。

 これは堪らん、とばかりにロボットが暴れ出す。わたしは思わず叫んだ。

「振り落とされちゃう!早く早く!」

 そう言ってアルフレートの襟を掴み、がくがくと振るが、聞こえてきた呪文の断片に目を見開く。

「だ、駄目よ!」

「アークボルト」

 アルフレートが静かに言い放った瞬間、

 バシッ!!

 巨人の足下から頭上に電流と思われる光の筋が走った。巨人は動きを止め、そのままフラリと傾く。

「うわ!あぶね!」

 ヘクターがロボットの肩から落下する。ズズズン……と巨人が粉塵を立てながら沈んでいったのを見て、わたしは悲鳴を上げた。

 目を覆うわたしの肩を誰かが叩く。アルフレートだ。彼の指差す先、光る円形のシールドの中でヘクターが呆然と座り込んでいた。そのシールドは今も落ちてくる瓦礫を弾き飛ばしている。

「……最後の最後で手間掛けさせないでよ」

 そう呟くローザが手を振るとヘクターの周りに輝いていたシールドも消える。フロロを皮切りにわたし達はイルヴァとヘクターの方へと駆け寄った。

「感電しなかった?」

 フロロが聞くとヘクターは立ち上がりながら頷く。

「咄嗟に剣は離した、っていうのと……あとはこれのお陰かな」

 そう言って足の裏を見せる。ブーツの分厚い底が微かに煙を上げていた。

「殴っていいわよ」

 ローザがそう言ってヘクターの前にアルフレートを突き出す。

「なんで倒した立役者が殴られなきゃいけないんだ」

 アルフレートは納得がいかない、といった様子でむっとして答えた。



「いやー、楽しかったよ」

 バレットさんはビールを片手に朗らかに笑った。あの後どういう仕組みなのかは分からないが、あの大部屋に突入した時の入り口から脱出すると、上に上がる階段が出現していたのだ。上ると何事もなかったかのような元のバレット邸があったのだから気が抜けてしまった。

 疲れきってテーブルに突っ伏すわたし達の間を猫達は忙しそうに走り回る。飲み物から始まり、いつから用意していたのか豪華な料理を運んでくる。

「楽しくないわよ、全然楽しくない」

 シャワーを借りて綺麗になったローザが不機嫌そうにグラスの中身を傾ける。

「まあ俺は楽しかったからいいけど」

というフロロに、

「俺も楽しかったから良いかな」

一番割り食った役だったはずのヘクターが笑う。ローザが小声で「良いんだ……?」と呟いた。わたしはというと疲れた!というのが本音だが、フロロ達に同調する部分もある。皆無事だったんだしね。

アルフレートとイルヴァはいつもと変わらない顔で飲み物を口にしている。マイペースな二人には「事が終わればどうでもいい」ということだろうか。

「さて、と……、何だってこんな真似を?」

 わたしはテーブルに身を乗り出す。バレットさんは悪びれる様子も無く答えた。

「わしの趣味。わしの専門分野は生活に関わる器具、ってなってるけど実際はロボットの方が好きなのよ」

「しゅ、趣味って……!」

 ローザが怒り篭った口調で何やら言いかけるが、直ぐに馬鹿馬鹿しくなったのか溜息に変わる。

「兵器として目をつけられやすい分野だから内緒なんだけどね。でもたまにこうやって弾けたくなっちゃう」

「要するにわたし達の反応を楽しむ為だけにやったんですね?あの入り口の血だとか……」

 わたしの質問にバレットさんは嬉しそうに髭をさすった。

「ああいう状況を見せれば、中に入るしかあるまい?」

 反論しようとしたが言葉に詰まる。冒険家を目指すものがあんな依頼人に危害があったようにも見える状況で逃げ帰ったら、それこそ末代までの恥だ。

「いつもこんなことしてるんですか?」

 フルーツジュースを飲みつつわたしが聞くと、

「何度か」

としれっと答えた。

「あれ?でも学園に依頼するの初めてって言ってたわよね?」

 ローザが聞くとバレットさんは頭をかく。

「ここに越してからは、ね。前に住んでた国では何度かその国の学園から学生呼んでたんだけど、何度もこういう事やってたら受けてくれなくなっちゃった」

 そう言ってビールをぐびり。

「しかしどっからバレちゃってたの?まだまだ罠はいっぱいあったのになー。もっと時間掛かるかと思ったのに」

 バレットさんがぐちぐち言い出した。最終場である大部屋に踏み込んだ時のわたし達の反応からだろう。

「あんだけバレバレの罠なら誰でも気づきますよ。危害加える気ゼロなんだもん」

 わたしはバレットさんを睨む。すると横にいた白猫タンタが口を開いた。

「でもおねーさんがプールに落ちた時はひやりとしましたにゃー。気を失っててもおかしくにゃい高さだったからにゃ」

「ああ、そん時は魚人型ロボットに救助させる予定だったから大丈夫」

 バレットさんが手を振り答える。助けてくれたのがヘクターで良かった、と心底思う。

「あのプールだけやけに大掛かりだけど、用意した罠の一つなんですか?」

 ヘクターの質問にバレットさんは首を振る。

「今回、罠に活用したけど本来はガーシュライザーを冷やすプールなんだよ」

 その答えにわたしはあのロボットがお風呂に入るようにプールに浸かる光景を想像する。というかそんなところに入りたくなかった。その時、肝心な事を思い出したわたしは手を叩く。

「そうそう、バレットさん、行方不明事件の犯人では無かったにしろ、村の人からは疑われたままなのよ?いいの?」

 わたしの言葉が終わる前にバレットさんは猫達に指で合図する。茶虎猫が持ってきた何かを受け取ると、わたし達に見せる。

「手紙?」

 二つの別々の封筒を見てわたしは尋ねた。

「北の方に越して、一からやり直してる一家と、隣国サントリナに渡って結婚した二人の近況報告。これ見せれば良いんだろうけど、見せちゃまずいでしょ?お金もちょっとづつ返して貰ってるから、隠しておいてあげたいしね」

「あ……夜逃げと駆け落ちなんだっけ」

 わたしが呻くとフロロが「そりゃマズイよな」と付け加える。

「にしても君らには迷惑かけちゃったね。まさかコントロールが壊れて、自動操縦モードになっちゃうなんて予定外だったから」

 バレットさんは一人うんうんと頷く。迷惑を掛けたポイントの最大はそこだとしても、そもそもの企画が迷惑なんだけどな。と伝えようとするが、

「そこで、だ。君達に私から贈り物をしたい」

 その言葉にわたし達六人の目が輝いた。現金なものである。

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