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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第一話 探せ!ぼくらのリーダー
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またここで、集まりましょう

「分からないか?」

 そう言うとアルフレートは歩き出す。ワーウルフ達がやって来た廊下の角へ向かって行く彼の後を、わたし達もついて行く。

「モンスターもどきについては生命の精霊が全く存在しないもんだから、すぐ気づいた。死体……といって良いか分からんが、調べたら限りなく生物に似せているが機械仕掛けのように見えたな」

 そう言いながらある地点で立ち止まると、一歩前の床をダンッ、と強めに踏み込む。すると廊下の右手の壁から何かが飛び出してきた。

「ひぃ!」

 アルフレートの頭に突き刺さった一本の矢を見て、わたしとヘクターの悲鳴が重なる。しかし何事も無かったようにアルフレートは振り向くと、面倒くさそうな顔で刺さった矢を引き抜いた。

「……な、なんだ、オモチャじゃないの」

 わたしはアルフレートが見せてきた矢の鏃部分を見てほっと息をつく。吸盤になっていてどこにでも張り付くようになっている玩具だ。

「至る所にある害を及ばさない罠、これは何の為だ?」

 もう一度アルフレートからの問い掛けがくる。

「怪我したら困るから?」

 そこまで口にしてからはっとする。何で怪我したら困るんだ?それは本気じゃないから。お遊びだから。そしてモンスターそっくりな人形達を思い出す。

「バレットさんの発明品……!」

 わたしは思わず掠れた声に出す。アルフレートは頷くと溜息をついた。

「だろうな。問題はなんでこんな面倒くさいことするのかってことだ」

「暇な老人の遊びに付き合わされたってことだろ」

 フロロはそう言うと大きな欠伸をする。なるほど、それで「命の心配はない」というわけか。

 何ともくだらない結末が垣間見えてしまい、わたしは脱力する。遊びでこの規模のダンジョンを造り上げるって、やっぱり相当な変わり者だわ。

「ねぇ、まさかこれ無駄になんないわよね」

 わたしはポゼウラスの入った革袋を持ち上げた。それをちらりと見てフロロが、

「いいじゃん、楽しかったんだし」

とあっけらかんとして言うが、わたしは眉を寄せる。

「わたしは嫌よ!あんなに苦労したんだから」

「苦労したか?順調極まりなかったと思うが……」

 アルフレートの言葉にわたしはちっちっと指を振った。

「沢山歩いたわ」

 それを聞き、はぁー、と息を吐くアルフレート。まるでゴミを見るような目つきは何だ。

「まあそうだよね。いきなり一日がかりの旅はきついもんだよ」

 ヘクターからの優しい言葉にアルフレートは舌打ちする。

「おい、あんまり甘やかすなよ?この細い足で頑張ってる私に比べれば、お前はただの甘えだ」

「……エルフって皆こんな感じなの?」

 ヘクターが小声で耳打ちしてきた。違う、と思いたいがわたしもエルフの知り合いなんて彼しかいない。小説なんかで読んだエルフはもっと高尚だが浮世離れした物腰で、嫌味っぽくはなかったんだが。

「騒ぐのは後にしろよ。作り物だろうがこっちに襲い掛かってくるモンスター共がうろうろしてるんだし、あと二人回収しなきゃ」

 フロロからの最もまともな意見にわたしもアルフレートも黙る。確かにはぐれてる二人は不安なままだろうし、急いで見つけてあげなきゃならない。

 とりあえず進みますか、という雰囲気で足を進めていると前方に左に入る入口が見えてきた。

 入り口の前までくるとぐるり、と室内を見回す。廊下と同じ無機質な壁に囲まれた小さな部屋にちょこん、と箱があった。一方が蝶番で固定されて開くタイプの、見るからに宝箱です、といっているような箱だ。

「ね、ねえ……」

 わたしが呟くとフロロが引き攣りながら答える。

「お、おう……あれは引っ掛かると思って設置してあるのかね?」

 宝箱のある真上の天井に、フロロと同じぐらいの大きさの岩が吊してあるのだ。あんなでかい岩を天井に吊す努力は買うが、普通に視界に入る位置にあっては意味がない。

 フロロが「それ!」という掛け声と共に小型ナイフを投げつけた。カンッ、と宝箱の留め具に当たると「ぽすっ」となんとも気の抜ける軽い音と共に岩が落ちてきた。

「かーーーあっ!本物の岩でもないんじゃない!」

 イライラの頂点に達したわたしは張りぼての岩を蹴り飛ばした。ごろり、と哀愁を漂わせて転がる岩は置いておき、フロロが小箱を開ける。

「……何だこれ?」

 中にあったのは小さな猫のぬいぐるみ。タンタ達を小さくしたような姿に、もしかしたら彼らが作ったものかもしれないな、と思う。

「さあ、次行こうぜ」

 はあ、と息つきながら部屋を出ようとしたフロロの足が止まる。また敵?と思ったが、わたしの耳にも唸りのような音が聞こえ始めた。

「……これだけは相変わらず不気味なのよね」

 鋼の軋むような音と獣の咆哮を混ぜたような響きに、わたしは無意識に身を震わせていた。



 すぽーん!とワーウルフの腕が飛ぶ。獣の腕を切り飛ばしたヘクターの剣が、そのまま腹部の中心部を突き刺すとあっという間に動かなくなった。抜け殻になったようにごろりと床に転がる。

 こうやってみると生き物の動きとしては少し不自然かも。簡単に動くことを止める様子はスイッチのオンオフを見ているようだ。

「すごいすごい!」

 わたしは転がる三体の人形を避けながらヘクターに駆け寄る。ぱちん、とソードを仕舞うとヘクターはわたしを見て笑った。ああ、かっこいい。

 ふと後ろを見るとなぜかじゃんけんをしている妖精二人がいる。完全に何もする気無し、という事を表明しているようだ。「早く行くわよ」と声を掛けると優雅な歩みでついてくる。

「ローザとイルヴァは大丈夫かな。パニックになってなきゃいいけど」

 少し広くなってきた通路を歩きながらヘクターが呟いた。すると、

「欠落人間二人か。まあ正直、欠けても被害は少ないよな」

アルフレートがさらりと答え、ヘクターの頬がやや引きつる。が、気を取り直したように前を向いた。

「早く合流したいけど、これだけ広いと上手く鉢合わせるか分からないな」

 そうなのだ。このまま考え無しに歩き続けているだけでいいのだろうか……。そろそろお腹も空いてきたし、喉が渇いてしょうがない。洞窟のような場所に入るわけではなかったので、準備もしてこなかったのだ。

「何か印でも書きながら進んだ方が良いかな?」

 わたしがそう言って皆の顔を見るとフロロが顔をしかめ、耳を動かす。

「何か変な声しなかった?」

 変な、とはさっきから何度も聞いたあの不快音だろうか。わたしの顔に出ていたのか、フロロが首を振る。

「違う違う、『アレ』じゃなくて……」

 その時、

『きゃあああああああ!!』

どこからか耳をつんざくような野太い悲鳴が聞こえ、わたし達は凍り付いた。あの不快音に負けないくらいのおぞましさだが、こちらは聞き覚えがある。

「ローザよ!」

 わたしが叫ぶとフロロは頭上を指差す。

「上からだ」

 わたし達四人はフロロを先頭に走りだした。角を曲がるとすぐに上にいく階段が見える。そのまま駆け上がるわたし達。

 普段からちょこまかと素早いフロロは当然のように早い。しかしわたしも走るのはさほど苦手ではないと思うのだが、残り二人ともみるみるうちに距離がひらいていく。ちょっとは女の子のこと考えなさいよ!

 そんなわたしの心の声が聞こえたのか、ヘクターがスピードを緩めていく。

「大丈夫?」

「大丈夫!それより今のって……」

 わたしが言いかけた時、「おおおおおおお!?」という奇妙な叫びが再びする。階段をとうに上り終えて前から見えなくなっていたアルフレートの声だ。

 嫌な展開にわたしとヘクターは顔を見合わせる。息を切らしながらも長い階段を上り終えると、直ぐ先にポッカリと床にぽっかりと開いた穴があった。

 長方形の穴を屈んで覗き込む。すると見えた光景に息が止まってしまった。

 巨大な剣山のような、密集したとげとげが上に向かって突き伸びている。典型的な落とし穴トラップ、に見えた。その針の中にのびているアルフレート、さらにはローザとイルヴァの姿があった。

 が、よく見るとゴムのような柔らかい素材で出来ているのか、針は三人の体重でぐにゃりと頼りなくまがっている。なんだ、あせった……。

 ふと前を見ると、わたし達が覗き込む反対側でフロロがピースサインをしている。穴を飛び越えたらしい。さすがはモロロ族といったところか。

「ぽかんとしてないで助けろ」

 下からアルフレートが憎たらしい声を上げる。

「突っ走るあんたが悪いんでしょう!それが人に物を頼む態度なの?」

 こちらを睨む顔にわたしは思わずむっとして言い返した。

「まあまあ、リジア、ここで言い争っても無意味ですから、ちゃちゃっと引き上げて下さいよ」

「アンタが言わないでよ、イルヴァ……」

 わたしのこめかみに浮き上がる一筋が見えたのか、ヘクターが「まあまあ……」となだめてくる。

 しかし助けようにも、どうしよう。無論、ロープ何ていう道具も無ければ、はしごもない。ふと頭に『エンチャントロープ』という便利魔法が浮かんだりするが、あれは話にならない。魔法で出来た紐を精神コントロールで操る、というわたしの最も苦手とする類の魔法だ。

「ちょっと待ってて」

 悩むわたしに救いの声は反対側から聞こえた。見るとフロロが何やら懐をがさがさとまさぐり、ぽん、とロープの束を出すではないか。どうやってもあの小さな体に隠せるもんじゃない気がするんだけど。色々つっこみたいところであるが、とりあえず三人を救い出すことを優先してもらうことにする。

「ほい、つかまって」

 フロロが下へロープを垂らすと、すかさずローザが「ありがと!」と言いながら手を伸ばす。その光景を見てわたしは何か違和感を覚えた。えっと多分、それって……。

 ぽひっ

 真っ逆さまにローザの上に落ちるフロロ。

「あー、やっぱしそうなるよねー」

「ちょっと何納得してんのよ、リジア!!早くこのグダグダ何とかしてよ!」

 頷くわたしの耳をローザの悲鳴が襲ってきた。

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