表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第一話 探せ!ぼくらのリーダー
20/274

待ち受けるは

 ぱちぱちと爆ぜる火の粉を見つめながら、わたしは赤くなった頬をさすった。隣りではヘクターがあくびを一つ。どうしよう、退屈なんだな。

 たき火の向こうでは残りのメンバーがいびきをかいている。皆が寝入るぐらいの時間経ったのに、まだ一言も喋っていない。再び熱を持った頬を手でさする。

 わたしは会話の糸口が見つからないことに焦っていた。男の子ってどういう話しがいいんだろう。クラスメイトのロレンツの『デーモンが出てこない話しだな』という言葉が蘇る。レッサーデーモンとハイデーモンの違いって口から火を吹くか吹かないかなんだって、というどうでもいい話ししか浮かばない。

「どうしたの?火が近いんじゃない?」

 ヘクターに顔を覗き込まれ、わたしは心臓が飛び跳ねる。

「いや!大丈夫!」

 そう答えて手を振るわたしを見て、ヘクターはふ、と笑った。

「やっぱり赤いよ。もう少し下がれば?」

 これは熱いわけじゃなくて……、と説明したいところだ。わたしが腰を浮かせ、少し火から離れた時だった。

「リジアはどうして学園に入ろうと思ったの?」

 急な質問に動揺するが、数年前の自分を回顧していく。改めて聞かれると一つに絞れないものだ。考えるわたしをヘクターはじっと待っている。

「……子供向けの本にね『勇者アキリーズの冒険』っていうのがあるの。それにイリーナって魔女が出てきて……子供の頃、すごく好きだったんだ」

 ヘクターは黙って頷いてくれる。わたしは続きを話す。

「勇者一行もかっこいいんだけど、それよりイリーナの方が大好きだったの。旅のヒントとかくれるんだけど、ちょっと意地悪で、でもすごい力を持ってて。……実は本自体はそこまで好きじゃないんだけど、イリーナだけは未だに好きなんだよね」

「そのイリーナみたいになりたくて?」

 ヘクターの問いに少し考える。そして首を捻った。

「うーん、きっかけはそうなんだけど、目標とは違うかな。イリーナってすらっと背が高くて黒髪で、胸の大きいイルヴァみたいな人だもん」

 言ってしまってからちょっとしまった、と思う。何だかずれた返答だ。しかしヘクターが「金髪の魔女も良いと思うよ」と言ってくれて、チビで胸の無いわたしは嬉しくなった。

「でも、何で?」

 何となく返した問いに、

「リジアは凄いな、って思ったから」

ヘクターが言った答えでひっくり返りそうになった。学園に入ってから、いや生まれて初めて言われたかもしれない。

「え?え?何が?」

「いや、同い年のはずなのに色んなこと知ってるんだなぁ、と思って」

「……もしかしてこれのこと?」

 そう言ってわたしはポゼウラスが詰まった袋を指差す。

「いや、それもあるけど明かり付けたり火を起こしたりする魔法も全部呪文を覚えてるんでしょう?」

 そう改めていわれると照れるが、ファイタークラスの人から見ればそんな簡単な魔法でも凄いと思うのかもしれない。

「うーん、ある程度理論を勉強すれば、暗記しなくても呪文が組み立てられるっていうか……そう『おしゃべり』する感じになるのね。あと全部覚えてるわけじゃなくって……実は魔術書持ち歩いてるし」

「ああ、いつも荷物多いもんね」

 その言葉でわたしは送ってもらった日の事を思い出す。「あああ!」と突然叫んだわたしの声にヘクターがびくん、となった。

「そう!そうだ!聞きたい!あの時!思ってた!」

「お、落ち着いて……リジア」

「わ、わたしの事、いついついつから知ってたの?」

 その質問に始めきょとんとしていたが、ヘクターはゆっくり答え出す。

「ああ、いつからだったか……。たまにバスで一緒になるから知ってたよ。毎日荷物多くて大変そうだったから」

 『知ってたよ』の言葉にジーンとしてしまう。

「あんまり関心なさそうな顔だったから、俺のこと知ってたのに驚いたけど」

 うわああああ、ち、違うんだ。ストーカー認定されるのが怖くて目が合いそうになるたびに、そっぽ向いてただけなんだ。しかし今更『実はがっつり見てました』などと言えるわけがない。

「魔術師クラスの人って……とくにソーサラークラスの人っていつも分厚い本を持ち歩いてるから大変だなー、って。……俺らのクラスなんかだと魔力そのものが無い奴がほとんどだし、魔法覚えるだけでもすごいなーって思うよ」

 そうなんだ……。毎日ファイタークラスの人を羨望の眼差しで見ていたわたしとしては嬉しいことだ。暫くの沈黙の後、ヘクターが突然笑い始めた。

「実はさ、前から話したかったんだ」

「え、え?え?ええ!なん、なんで?」

「君らの仲間になりたかったから、かな。今年になって演習が始まったら絶対組みたいって思ってた」

 ヘクターの言葉が嬉しすぎて頭がぼーっとする。が、ふいに湧く緊張のような感情。わたしはおずおずと尋ねることにした。

「聞いて良いかな?」

「何?」

「どうしてわたし達のパーティーに入りたいと思ったの?」

 学園のカフェテリアで教官がした質問をもう一度してみる。ヘクターは言葉を探している様子だったが、ふとわたしの顔を見る。

「旅をしてる自分の姿を考えた時、普通のパーティじゃ嫌だったんだ。……普通の旅で終ってしまう気がして」

 何故か胸がどきどきとする。飛び上がるような幸福感じゃないけど、嬉しくて仕方が無い。わたしは顔を見合わせたまま尋ねる。

「昼間、『難しいね』って言ってたでしょう?やっぱ失敗したー!とか……は思って欲しくないけど、何かあったら全部言ってね?」

「まさか、思わないよ。ありがとう」

 そう言って笑うヘクターの銀色の髪がたき火でオレンジ色に輝いて、わたしは見とれてしまっていた。



 ふ、と目が覚めるとひんやりした空気に頬が触れる。手足が冷え切っているが頭はすっきりしていた。薄いオレンジに空の下の方が染まっている。

 暫くじっとして朝日の暖かさに体を温めてから、わたしは毛布から抜け出すと伸びをした。野宿という状況に加え、昨日のヘクターとの会話に興奮してしまって眠れないかと思ったが、やはり疲れていたらしい。信じられないほど眠り込んでしまった。

 ふと周りを見ると、もう火の気が消えた焚き火の前でイルヴァとアルフレートが座ったまま眠り込んでいる。眠り……おい。

「ちょっと……」

 わたしは起き上がり、二人の肩を叩いた。ビクン、となったのち、目を明ける二人。

「……んあ、リジア……おはよーございますう」

 イルヴァが間抜けな声を出す。目が開いているのか開いていないのか分からない酷い顔だ。

「おはよー、じゃないわよ。なんで寝てんのよ!これじゃ見張りの意味ないじゃない」

「この二人に頼んだあたし達が間違ってたのよ」

 いつの間にやら起き出していたローザが後ろから不機嫌な声を響かせる。寝起きの悪さワースト2の揃い組ではやっぱり無理があったか。また静かな寝息に変わる二人にがっかりしてしまう。

「おーい、フロロ!起きなさ―い。ほら、リジアもそこのお兄さん起こしてよ」

 ローザに言われ、毛布に包まるヘクターを見る。木の幹に背を預けてるところをみると、当番の後も見張りを続けていたのかもしれない。今はすっかり寝息を立てているが、起こすのが可哀想になってしまう。暫く寝顔を眺めさせていただき、ヘクターの肩を叩いた。

「おはようございまーす……」

 はっと目を開けるヘクター。

「あ……おはよう」

 少し照れ臭そうな顔の後、のそりと起き上がると伸びをした。「もう朝かあ」と呟く声に、

「うん。早く村に戻ってご飯にしよう」

とわたしは答えた。すると後ろから悲鳴が聞こえてくる。

「助けて!」

 見るとフロロが寝ているイルヴァに押しつぶされている。その隣りではローザがアルフレートの襟を掴み、無言でビンタを続けていた。



「お腹空きました……」

「もう何回目?分かったからもうちょっと我慢してよ」

 イルヴァの弱々しい声にわたしはそう答えた。お腹空いてるのは皆一緒、と言いたいがふらふらのイルヴァを見るとちょっと心配になってくる。

「帰りは早いわね」

 ローザの呟きの通り、知った道を帰るのはスムーズに感じた。見覚えのある木の形に角を曲がると、チード村の入り口が現れる。自然と全員で万歳してしまった。

「これでバレットさんにサイン貰って帰れば、演習も終わりよー!試験合格よー!」

 既に涙目のローザを皆で笑う。イルヴァの「お腹」の声に急いで村の中に入ることにする。

 既に昼前の時間になっていたので商店は賑わいを見せていた。何人かの村人が「おや?」という顔ですれ違う。

「ご飯、バレットさんが用意してるわよね」

 少々ずうずうしい台詞だが全員頷いてくれた。タンタを始めとした猫達の顔を思い出して頬が緩んでくる。賑やかな通りを抜けると相変わらず外観は不気味なバレット邸が見えた。フロロが駆け出すとチャイムのボタンに飛びついた。

「……あれ?」

 フロロに追いついたわたしは首を傾げる。追いつくまで結構な時間があったと思ったが、扉から応答は無い。お互いの顔を見た後、ローザがもう一度チャイムを押した。

 大きな背荷物を持ち、ゆったりとした歩みの商人が後ろを通り過ぎて通りに入っていく。その間も屋敷からは何も動きがない。

「……出かけてる?」

 わたしが言うとローザは「全員が?」と眉間にしわ寄せた。確かに猫達含めて全員お出かけ、とは考えにくい。

「あ」

 フロロの声に全員が彼を見る。

「鍵掛かってるぜ」

 重そうな鉄格子の門に、フロロの言う通り大きな錠前がついていた。前日までは見なかったその姿に、ふっと不安に襲われてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ