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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第一話 探せ!ぼくらのリーダー
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口開ける魔物の巣

「いや~ん、おいしそうだわあ!」

 お弁当の中身を見て、ローザが身をよじらせた。タンタ達が持たせてくれたお弁当は朝食べたパンで作ったサンドイッチだった。中身はツナやたまご、ローストビーフと野菜サンドもある。一生懸命作っている姿も可愛かったんだろうな、と思ってしまった。

「なつかしいなー」

 ヘクターがタコさんウインナーをしげしげ眺め、妙に嬉しそうに口に運ぶ。こういう姿を見れるのも同じパーティという立場の特権だなあ、と頬が緩んだ。そんな風に油断していたからか、気がつくとわたしのお弁当箱にフロロが野菜を移動させている。

「ちょと!好き嫌いしないでこれくらい食べなさいよ!」

「肉が多いな……」

 騒ぐわたしの横でアルフレートがぼやく。イルヴァがすかさずフォークを出した。

「じゃあ食べてあげます。そのかわり口付けないでくださいね。付けたのは食べられませんから」

「だから私はばい菌か?」

 アルフレートが睨みつけているにも関わらず、イルヴァは彼のお弁当から肉類を奪っていった。それを見て思いつく。

「アルフレートが野菜を食べて、フロロが肉を食べればいいじゃない!」

 真っ当な意見を言ったと思うのだが、二人は揃って首を振り「つまらない奴」と言ってくる。イライラするな。

「仲良いねー」

 ヘクターがしみじみと呟いた。ローザがそんな彼の言葉に溜息つく。

「いや、こんな低レベルなやり取りにほのぼのしないでいいから。……と、そうだリジア、あんた洞窟に着いても、中で魔法使わないでよ?」

 厳しい顔のローザにわたしは「は?」と返すが、隣りでアルフレートも頷いている。

「な、何でよ」

「何でって……言わなくてもわかるでしょうが」

 呆れた口調のローザの後をアルフレートが引き継いだ。

「みんな、死ぬぞ」

 ごくり……。その言葉に全員が唾を飲み込んだ。

 わたしの魔法への不信感が、先程のファイアーボールでダメ押しになってしまったようだ。山の一部が黒煙上げてへこんでいたら無理もない。

「で、でも何もしないわけにもいかないでしょう?」

 わたしの辛うじての反抗にイルヴァがいつもの真顔のまま答える。

「リジアは何もしなくて大丈夫ですよー。モンスターが出てきたとしてもイルヴァがやっつけてあげます」

「さっきはわたしの頭を『やっつけ』そうになったくせに、よく言うわね……」

 わたしは鼻を掠めたウォーハンマーを思い出して身震いした。

「まあ、良いように言えば、モンスター相手にも臆することないって頼もしいじゃないの」

 ローザの言葉にイルヴァとヘクターは顔を見合わせる。

「授業ではモンスター相手にするなんて毎日のことですから」

 そう答えるイルヴァにヘクターも大きく頷いた。

「俺達の授業じゃゴブリンやらコボルトやらの巣穴に突っ込まされるんだよ。それこそローラスの隅から隅まで被害を調べて遠征させられるわけ」

 二人は眉間に皺寄せ、苦悶の表情を浮かべる。何やら辛い思い出らしい。

「トロールの集落に崖から蹴落とす教官もいますからねー」

 そう言ってイルヴァはなぜかピースサインをする。

「な、なにそれ……」

 ローザが呻いた。

 そういやファイタークラスってしょっちゅう校外授業という事でいない時多いっけ。泊り込みの遠征も多いみたいだし、魔術師科の授業に比べて随分ハードだ。

「あんた達は大丈夫そう?」

 ローザが黙ったまま食事をする妖精二人に問いかける。するとフロロは手を振った。

「モロロ族の逃げ足を舐めるなよ。……それに旅は慣れてるしね」

 なるほど。モロロ族は本来、定住生活をしない種族だ。旅から旅の生活ではそういうこともあるのだろう。彼が学園に留まっているのも不思議な事だし。

 アルフレートの方はといえば、くだらない質問を、とばかりに返事もしない。

 なんだか急に不安になってくる。わたしはモンスターに会うのも初めてだったし、魔法禁止令も出されてしまって、このメンバーの中ですら足手まといになりそうな気配がしてきた。

 皆が食べ終わった昼食を片付け始めたことにはっとする。わたしもサンドイッチが包んであったクロスを畳むと立ち上がる。横で腰を伸ばす仕草をしているヘクターにそっと近づいた。

「あのー、さっきごめんね」

 わたしの言葉にヘクターは目を大きくして瞬く。何の事か考えているようだったが、ふっと笑顔になった。

「ああ、気にしなくていいよ。俺も無神経だったなと思ったから」

「……蛇のこと?」

 わたしの小声の問いかけにヘクターは「そう、それ」と言って笑う。わたしの謝罪も何の事か分かってくれたようだ。

「蛇見せただけで魔法ぶっ放されても許すんだ?にいちゃん優しいな」

 フロロが早速、ヘクターの肩によじ登る。そのずうずうしさにむっとしていると、ヘクターがふ、と苦笑した。

「何ていうか、難しいね」

 それを聞いてわたしは固まってしまう。

「さー、もう洞窟まで近いはずだから、さっさと行きましょう!」

 ローザの張り切った声にイルヴァが拳を上げた。その二人に続くヘクターの後姿を見て思う。

 どういう意味だったんだろう?じわじわと湧く不安は先程までの物より粘っこい。

 どうしよう、呆れられたんだとしたら。

「やっぱこのパーティに入ったこと後悔してたらどうしよう……」

「『もう逃げられないぞ』って脅せばいいんじゃないか」

「……独り言に返事しないで、アルフレート」

 わたしはいつの間にか横にいた、にやにや笑うアルフレートを睨みつけた。



 バレットさんの手書きの地図を頼りに、この辺かと思われる場所を隈なく探していく。地図と周りの景色を忙しくなく見る動作に目が回ってきた。

 始めはハイキング気分でいい気持ち、などと思っていたのだが早くも町の景色が恋しい。土踏まず辺りに違和感を感じてきた時だった。

「あ!あれじゃない?」

 わたしが指差すのは山の斜面にいきなりぽっかりと開いた横穴だ。直前までの緑いっぱいの景色と違い、この辺りは灰色の岩で覆われている。洞窟の入り口は巨大な岩のお化けが大口を開けているように見えた。大きさはトロール一頭分ぐらいだろうか。中は暗く、入り口付近の様子しか伺えない。

 入り口の前に来ると、

「ちょっと待った」

フロロがすっと音無くヘクターの肩から飛び降りる。そのまま地面に這いつくばり、猟犬よろしく付近を調べ始める。続いて洞窟の入り口辺りの壁を見ると満足げに声を漏らす。

「ふんふん……」

「何かわかった?」

 ヘクターの問いかけにフロロはしたり顔で振り向く。

「ゴブリンの巣になってるみたいだね。見張りはいないみたいだけど、中から声も聞こえるぜ」

 わたしも耳に手をあて音を拾おうとするが、もちろん何も聞こえない。

 知能レベルは低いとはいえ、一応集団生活を営み道具の使用の知識もあるゴブリン。通常はこういった住処の前には見張り役なんかを置いてる場合が多いのだという。人間を見れば襲い掛かるような彼等は、彼等からすれば人間が敵だからだ。わたしは本でみた赤黒い肌の悪鬼を思い出し、ぶるりとする。

「縄張りの跡もあるな」

 アルフレートが一本の木を見て言うのを、ローザは後ろから覗きこみ露骨に嫌な顔をした。わたしも近づき覗き見る。

「サイヴァの紋章ね」

 黒十字を丸で囲んだ紋章。歪だが力強く、木の表面に刻み込まれている。この世の混沌を司ると言われる邪神のシンボルである。サイヴァは邪神の中でも一番メジャーな存在である女神だが、人間社会では信仰を法律で禁止する国が大半だ。此処ローラスでもそう。神殿や集会場の建設はもちろん、信仰自体も厳しく国の法で禁止されている。

 しかしゴブリンのようなモンスターの間ではなかなか人気の神様ということで、このように自分たちの巣穴に、表札のようにシンボルを掲げることが多いらしい。

「ポゼウラスが生える洞窟、っていうのもここで合ってるのよね?」

「だと思うよ」

 ローザの問いにわたしは地図を睨みつつ答えた。

「じゃあ……入るしかないわね」

 ローザの声は少し不安そうだ。後ろを向けば日差しが木々を照し、光がきらきらと輝く何ともきれいな景色だというのに、この真っ暗闇に入り込まなきゃいけないのか。

 アルフレートが無言でフロロに指を振る。フロロは「はいはい」と言いながら洞窟内に足を踏み出していった。そのすぐ後をアルフレートが続く。アルフレートが光の精霊を呼ぶ声が聞こえ、闇の中にふわりと光が浮かび上がった。

 それを見たイルヴァが続こうとすると、

「や、やあだあ、置いてかないでよ……」

 ローザが引っ付いていく。

 も、もうちょっと心の準備とか欲しかったなあ。せめて「オッケー?」とか聞いて欲しかった。

 そんな事を考えながら踏み出すのを躊躇していると、ぽん、と肩をたたかれる。ぎくりとして振り返る。するとヘクターがいつものように微笑んだ顔をわたしに向けていた。

「俺が最後尾になるから、リジアはその前にいてもらえる?」

「え、ああああ……う、うん」

「あと、後ろにも明かりが欲しいな。何かないかな?」

 明かり、と言われて一瞬頭が真っ白になるが、先程のアルフレートの詠唱する声を思い出す。するすると紐が解けるように『ライト』の呪文が頭の中で完成していった。一呼吸してから精霊を呼び起こす呪文を実際に口にする。

「ライト」

 一つの光の球がわたしの頭上に輝いた。ヘクターが「おお」と感嘆の声を上げる。やってて良かった、毎晩の詠唱練習。

「リジア、まだー?」

 すでに洞窟内を歩いているローザから声がかかる。

「さ、行こう」

「うん!」

 ヘクターに返事をし、わたしは緊張が大分解れていることに気が付いた。きっと不安が顔に出ていたのだろう。それに気付いて解すきっかけを与えてくれたのだ。

 すごい、と素直に思う。わたしは色恋など関係無しに、ヘクターのことを尊敬してしまった。

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