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タダシイ冒険の仕方【改訂版】  作者: イグコ
第一話 探せ!ぼくらのリーダー
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リーダー、最初の試練

 村を訪ねてきた時に使った道とは違う脇道に入り、半分獣道のような鬱蒼とした中を歩いていく。

「半日ぐらいって話だったわよねー。急げば昼ぐらいには着くかしら?」

 小枝を踏みしめるぱきぱきという音が鳴る中、ローザが口を開いた。

「順調に行けばいいけど、日帰りは無理だと思った方がいいかもね」

 あいかわらずフロロを肩車しっぱなしのヘクターが答える。それを聞いていたアルフレートがうんざりしたような声を出した。

「野宿ってことか?私は体力がないんだ。まいったな」

 えっと、エルフって本来『自然生活をする人』じゃなかったっけ?一日の野宿ごときでぶーたれる妖精って一体……。

 しかしそのアルフレート含めた四人に比べて、わたしとローザの歩き方は何だか覚束ない。同じような底のしっかりしたブーツを履いてきてはいるのだが、経験の差がでてしまっているようだ。体力が持つか早くも心配になってきた。

「それより気になってたんだけど」

 フロロが話題を変える。

「ポゼウラスの実ってどんなもんなの?聞いたことないけど」

 わたしとローザは顔を見合わせた。

「魔導をかじってる人間でもあんまり触れる機会が無いものだと思うわよ。マナの動きをほんの少しだけ鈍くするんじゃなかったかな」

「それだけ?」

 わたしの言葉にフロロが眉をひそめる。

「だけ。……話し聞く限りじゃ、かなり特殊な研究しているみたいだからね。バレットさんしか知らない効果があるのかもしれないけど」

「バレットさんがやってる研究って魔法の反対、みたいな事言ってたね」

 ヘクターの言葉に頷いたのはローザ。

「あたしも聞いたことないことばっかだったのよね。『魔導の力じゃない方法での照明』やらなんやらって」

 わたしも大きく頷いた。

 バレットさんが語ってくれた彼の研究内容とは、わたしの理解を超えたものだった。魔導の力を使わない照明器具、と彼は言っていたが、蝋燭や松明、はたまた光ゴケや精霊の力を借りるわけでもない『別の力』とは何なのか。わたしには分からなかった。

 今主流になっている照明器具といえば魔晶石を使った「ライト」だろう。

 魔晶石という魔法の力を封じたり、それを簡単なスペルで解放出来たりする恐ろしく便利なものが、古代文明の遺跡から見つかったのが数百年前になる。そのままだと強大すぎるそれを簡略化、大量生産にこぎ着けたのがわずか十数年前だ。そのプロトタイプに「ライト」等の簡単な魔法を封じてやると、あら便利。誰でも使える光源の出来上がりである。今ではデザインも増えて一般家庭にまで広がっている。それもこれも魔導の進歩の恩恵であると言えよう。

 バレットさん自身がそれに大きく貢献しているのであろうことは、彼の「オーブン」の話でも想像がつく。何しろ彼はエレメンツの中でも扱いにくい「火」のエレメンツを、スイッチ一つでコントロールすることができる魔晶石を発明する、という偉業を成し遂げているのだ。わたしも発明者の名前を知らなかったのだが、まさかこんな形で会うことになるとは思わなかった。その彼が魔導の力を否定する研究をしている。彼はこう言ったのだ。

「不可思議な力を『魔導』『魔法』というのだ。人間は日々、真相の解明に努力するべきなのじゃよ。マナという力に頼るなかれ。人間は魔法に頼りすぎる」

 その話しに魔術師を目指す自分を否定されたような気持ちにこそならなかったが、わたしにはその内容も、その研究の意味でさえ……分からなかった。

「噂と違って良い人ではあったけど、まあ変わり者よね」

 ローザの呟きにわたしは頷く。

「『良い人』になってたのは俺らにだけかもよ」

 フロロがけっけ、と笑った。わたしは「やめてよ」と返しつつ、ウェイトレスの女の子や酒飲みおやじの顔を思い出す。火の無いところに、じゃないけど単に引き篭もりなだけで人体実験の噂なんて立つものかしら。

「ただでさえ顔を合わせる面子が限られた人口の少ない村じゃ、あのじいさん浮きすぎてるからな。少々穿った見方されてもしょうがない」

 アルフレートがニヤリと笑う。

「引き篭もり、『科学者』なんて得体の知れない職業、それに謎の同居人達だ。なんせまるきり動物の猫の外見で、あんなに高知能な種族、私でも見た事ないぞ」

 わたし達より長い時を生きて来たアルフレートの経験したことは、わたし達より圧倒的に多いのだろう。その彼も知らないとは。

「でも、怪しいだけで悪人扱いは違うと思うよ」

 わたしはそう漏らす。その瞬間、足に鈍い衝撃。木の根に足を引っ掛けたらしい。転ぶ、と思って息を呑んだ。

「……大丈夫?」

 ふわりと体が浮いたような感触とヘクターの声。気がつくと腕を取られていた。呆気にとられるわたしに「気をつけてね」と言って彼はわたしの頭にポン、と手を乗せた。こ、これは。

「この道どっちに行けば良いですかー?」

 先頭を歩いていたイルヴァが大声を上げる。

「そんなにでかい声じゃなくても聞こえるわよ」

 ローザが呆れたように返した。と、アルフレートがわたしの顔を見て仰天する。

「うわっ、お前どうしたんだその顔!」

 わたしは顔から火を噴いている熱を感じながら呟いた。

「何でも無い……」

 何か言い争っているローザとイルヴァにフロロが声を掛ける。

「左の下りになってる方の道に進みな。右方向から獣の唸りが聞こえる」

 耳を微かに揺らしながら自信満々に言うフロロにヘクターが「へえ」と感心したような声を上げた。



 その後も「どっち?」と聞くたびにフロロが適切な道を教えてくれる。バレットさんが持たせてくれた地図を見ると少々迂回した形になったりもしていたが、すぐに元の道に戻ってくるのが不思議だ。

「モロロ族がこんなに耳良いって知らなかったよ」

 ヘクターが頭の上にいるフロロに言う。するとその彼の頭をぽんぽんと叩きながらフロロはにやりと笑った。

「俺と組むメリット、分かったかい?」

 肩車される分際で偉そうな、と脇から思う。

 徐々に道が広がってくるにつれ、頭の上を覆っていた木の葉や枝も開けていく。登りきった太陽から足元を照らす光と心地好い暖かさがもたらされていった。冒険というよりハイキングを楽しむのような気分になってくる。

 フロロが何も言わなくなったので、地図通りに歩き続けること暫し、

「朝早かったから眠くなってきちゃったわあ」

 ローザが欠伸する口を手で覆った。するとイルヴァが立ち止まる。「何?」と口を開こうとした時、耳に聞こえてくる音があった。

 ざざざ!と木の葉をかき分けてくるような足音だ。恐怖を感じた時には既に、黒い影が脇から飛び出してくる。

「コボルトだ」

 ヘクターがロングソードを抜き、フロロが飛び降りる。目の前に飛び出してきたのはわたし達よりも数の多い集団。犬のような顔をしているが二足歩行で、短く細い手足は人のそれよりも歪で不気味に見えた。フロロより少し大きいくらいしかないが目が爛々としていて怖い。

 実はモンスターと間近に対面するのは初めてというわたしは固まってしまった。彼らの手に持つ汚いナイフを見て喉を鳴らす。

「うわ!」

 ヘクターの驚いた声と同時に、ふ、と黒い物体が鼻先を掠める。遅れて襲ってくる風圧に、イルヴァがウォーハンマーを振り回したのだと気付いて腰を抜かす。コボルトの集団の中心に振り下ろされた ウォーハンマーが地面を揺らした。ぼごん!と鈍い音を立てて地面にクレーターを作る。

「いやああああ!」

 ローザの野太い悲鳴はコボルトに向けてではない。仲間の存在を忘れたかのようにハンマーを振り回すイルヴァから、コボルト達も含めて全員が離れていった。

「なんだあいつは!迷惑な奴だな」

 アルフレートが舌打ちしながら走り去る。わたしも出来るだけ遠くに離れたいのだが、足に力が入らない。だって!一歩間違えればわたしの頭がぼごん!って!

 腰を抜かしたままの体勢で後ずさる、という情けない動きをしていた時だった。

「ん?」

 手に何か柔らかいものが触れる。しゅるしゅる、という聞きなれない音と共に顔の前に現れたのは銀色の長いものだった。ちろり、と赤い舌がわたしの鼻をくすぐる。思考停止状態の中、嫌悪の感情だけ爆発した。

「ぎゃああああああ!」

 わたしの悲鳴に目の前の銀色の物体は動きを止めるが、「シャー!」と大きな口を開けてくる。蛇だ、大蛇だ、毒蛇だ!と、再び悲鳴を上げそうになるが、すぱん!と景気の良い音と共に蛇は倒れる。光るロングソードとヘクターの顔が見えて安堵の息を吐いた。

「平気?噛まれなかった?」

 ヘクターが心配そうな顔をしながら手を差し出してくる。それを戸惑いながら握り、立ち上がった。お礼を言おうとすると、ヘクターが何かを拾い上げる。

「ああ、大丈夫、こいつ毒無いよ」

 だらん、とした彼の手の中にある物の断面図が見えた瞬間、わたしの中で何かがはじけてしまった。

「やだああああああ!ファイアーボール!」

「ひえ!」

 わたしの手から放たれた赤い光の弾は、仰け反るヘクターのぎりぎりを掠めて空へ飛んでいく。山の連なる景色に走っていくと、ぼーん……と遠くから爆発音を響かせた。



「ちょっと落ち着いて話そう」

 ヘクターが神妙な顔で発言する。皆のお昼ご飯を食べようとする手が止まった。明るい野原のような場所に出たので時間も調度良い事だし、持たせてもらったお弁当にしよう、となったすぐである。

「やだあ、リーダーっぽいわよ!」

と手を叩くローザにヘクターは「……ありがとう」と頷いた。そして皆の顔を見回す。

「ちょっとパーティの役割みたいのがバラバラになってる気がするから、確認したいんだけど」

 そう言ってフロロを見る。

「さっきのコボルトの集団には事前に気付かなかった?」

「気付いてたよ」

 平然と答えるフロロにローザが険しい顔で身を乗り出した。

「ちょ、ちょっと何よ、それ。それまでみたいに教えてくれればよかったじゃない!」

「聞かれなかったから」

 そう言ってフロロは「うけけ」と笑う。面白くない。全然面白くない。

「……じゃあこれからは、フロロは『聞かれなくても』何か察知した時は教えてくれ」

 あくまでも口調は優しいヘクターを心底尊敬してしまった。フロロの頷きを見ると、次はイルヴァに向き直る。

「イルヴァの方はちょっと気持ちは分かるんだ。……今までファイタークラスのメンバーだけで遠征したりしてたから、さっきみたいな無鉄砲に突っ込むやり方でも何とかなってきた。回りも動ける奴ばっかりだから気も使わないしね」

 ヘクターのゆっくりと確認するような話しにイルヴァはうんうんと頷く。

「でもこれからはリジアとローザみたいに武器を持ってない人とも行動するんだ。二人を守るような形を取らなきゃいけない。まずは体勢を整えて、周りを見てから動いて欲しい」

「はい!」

 イルヴァが元気よく手を上げた。アルフレートが「私は?私は?」とうるさい。

「アルフレートは……逃げるのすっごい速かったよね」

「そうじゃない、私だって手ぶらだぞ?なんで守る対象がこの二人だけなんだ」

 ずるいー、を連呼するアルフレートの顔は完全に面白がっている。ヘクターが大きな溜息をついて肩を落とした。

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