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In paradise following forever.

 それから

 ポツリポツリ聞いた話


 天使が翼を捨てるのは

 それはそれは大変で


 神様も他の天使も

 大激怒だったらしい


 羽をちぎられるのは

 身が引き裂かれる痛さだし


 声を取られるのは

 喉を焼かれる思い


 言いたがらないけど

 他にも色々と

 罰を受けたらしい


「どうしていなくなったのか」とか

「どうして戻ってきたの」とかは


 聞かなかったし

 言わなかった


 だって今更

 そんな答え

 必要ないだろう?


 *


「セリア、もう行くよ。用意できたかい?」

 僕は玄関から声をかける。

「っ………」

 慌てた表情でやって来たセリアは黒いワンピースを着ていた。見ると、胸元のリボンが結べていなかった。

「……前はもっと、背中の開いたヒラヒラの真っ白いローブ着てたのに。わざわざ地味な服着なくてもいいじゃないか」

 僕はセリアにリボンを結んであげながら、大げさにため息を吐いて笑った。

 セリアは声を出さず、口をぱくぱくさせて反論しようとした。

「好きで着てたわけじゃないって? まったく、君は素直じゃないね」

 素直じゃないと言われたことがショックだったらしい。薄らと目に涙を浮かべたセリアはそっぽを向いてふて腐れてしまった。

「あー、ごめんごめん」僕は苦笑いをしてセリアの肩に手を置く。

「早く行こうよ」

 そのまま彼女の手を握って部屋を飛び出した。


 声を出しにくくなったセリアは、表情で感情を表すことが多くなった。

 だから、僕は一方的に話すばかりだけど、ちゃんと会話は成立している。

 大げさな表情を作る彼女は幼げで可愛かった。いつしか、僕はそんな彼女をみて思っていることを読みとれるようになっていた。


「いい天気だねー」

 暖かな春の日差しは気持ちよく、青空には大きな雲がぽっかりとのんびり漂っていた。

 セリアはそんな空を無情で見つめている。

 そんな彼女を見ながら、僕は人差し指で空を指した。

「戻りたい?」

 そういうや否や、彼女は勢い良く首をぶんぶんと横に振る。

「どんだけなんだい、君は」

 そう僕が苦笑の笑みを浮かべていたら、セリアが口を開いて声を出そうとしていた。

「……や……」

 ひゅーひゅー言いながら声を出す。

「ること……あ、る……から……死ん……で、も……戻らない」

 一生懸命に話す彼女の頬は薄らと赤くなっていた。

「……ふぅん」

 僕になら、それが分かる気がする。だけど、僕はわざといたずらに笑った。

「じゃあ君、生きてる(こっち)うちでよっぽど極悪なことしなきゃだね」

 地獄行きだ、とからかうと、彼女は口をあけて蒼ざめた。

「大丈夫!」

 僕は歯を見せて笑った。

「神様でも悪魔でも、ヒーローの僕が守ってあげるから!」

 セリアは立ち止まって僕を見つめた。

 そして、手を伸ばして僕の頭を撫でる。

 僕らは顔を見合わせて笑った。


 *


 今は天使じゃないけれど

 二度と天使に戻れないけど


 翼を捨てて

 決めたことふたつ


 モンシロチョウがルークの額に止まるのを見て思う。

 君が幸せに暮らせるように

 ずっとそばにいてあげる

『……なんてね』


 再び、けど晴れ晴れとした表情で空を見つめる君を見て思う。

 君を

 かなしませるもの

 すべてから守ってあげる

『……なんてね』


 そうして

 つばさを棄てた天使はふたり


「セリア!」

 ルークは腕を伸ばして川向うを指差した。

「あそこだ!」

 セリアはどこまでもどこまでも続く花畑と、青空を見上げた。



 地上で見つけた楽園で


 いつまでもいつまでも


 しあわせにくらしましたとさ。

                          END


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