今日、私の婚約者は病弱な妹と結婚式を挙げた。
今日、私の婚約者は私の妹と結婚式を挙げた。
教会の鐘が、青空の下に高らかに響いていた。
純白のドレスに身を包んだ妹は、美しく化粧を施されていた。頬には鮮やかな薔薇色の頬紅が差され、その姿は息を呑むほど美しかった。
その隣には、穏やかな笑みを浮かべた男がいる。
私の婚約者である、エドワードだ。
いつも優しく、誰に対しても誠実な彼は、今、花嫁だけを見つめていた。
二人が並んで歩くたび、参列者たちは祝福の言葉を投げかける。
お父様も、お母様も、涙を流して二人を見送っていた。
幸せなよくある結婚式だ。
新郎が私の婚約者で、新婦が私の妹でなければ。
私はそれを見て、泣きそうになりながらも泣いてたまるものか、と無理やり笑顔を作った。
◇
そもそもの話をしよう。
私、アデライド・フォン・ローゼンベルクには、婚約者がいる。
名をエドワード・アシュフォード。
公爵家の嫡男で、容姿端麗、頭脳明晰、性格も温厚。おまけに剣術まで得意という、物語の中から飛び出してきたような男である。
当然、社交界では大変な人気を誇っている。
そんな彼と私の婚約が決まったのは、私が十六歳のときだった。
政略的な意味合いもあったが、私たちは互いに好意を持っていた。
それから二年。私は十八歳になり、結婚の日を心待ちにしていた。
彼は私の話をよく聞いてくれた。
私が読んだ本の感想を語れば、最後まで付き合ってくれたし、私が馬術の練習で転べば、泥だらけの手を取って笑ってくれた。
彼の隣にいる未来は、きっと穏やかで幸せなものになる。そう信じている。
ならば、なぜ私の婚約者が、私の妹と結婚式を挙げることになったのか。
疑問に思うだろう。
話は数か月前にさかのぼる。
◇
その日、私はウェディングヴェールを眺めていた。
この国では、花嫁が身に着けるヴェールに、家紋の刺繍を施すしきたりがある。
母に教わりながら刺繍を進め、親しい親族が祝福を込めて最後の一針を刺すことで、ヴェールは完成するのだ。
親族全員の刺繍が終わり、私は最後の確認をしていた。
「お姉様」
扉の向こうから聞こえた声に顔を上げると、侍女に手を引かれた妹が立っていた。
淡い金色の髪に、薄紫色の瞳。
生まれつき色素の薄いその顔は、今日も血の気がなく、唇にはほんのりと紫が差している。
私の妹、リリアーヌである。
「どうしたの、リリー。今日は部屋で休んでいるように言われたでしょう?」
「うん。でも、お姉様に会いたくて来ちゃった」
そう言って、リリアーヌはいたずらっ子のように笑った。
リリアーヌは、今年で五歳になった。
母がリリアーヌを産んだのは、私が十三歳のときだった。
妹のリリアーヌは生まれた時からとても可愛らしい。
両親はリリアーヌが生まれた時は天使が生まれたと思ったと言って憚らない。
両親に甘やかされ、少し我が儘なところがある。
ただ、私も両親のことを言えないくらいに、歳の離れた妹を可愛がって甘やかしてしまう。
妹は生まれつき心臓が弱かった。
少し歩いただけで息が切れ、熱を出せば何日も寝込む。医師の指示で外出も制限され、同じ年頃の子どもたちが庭を駆け回っているあいだも、妹は窓辺からそれを眺めていた。
そして、半年前。
王都から招いた医師は、両親に告げた。
十歳になることさえ難しいかもしれない、と。
私はその話を、扉の向こうで聞いてしまった。
母の泣き声も、父が何度も医師に問い返す声も、今でも忘れられない。
妹本人には、詳しいことを伝えていない。
ただ、幼い彼女も、自分の身体がほかの子と違うことには気づいていた。
どうしてお外で遊んではいけないの?
どうして私は、みんなと同じお勉強ができないの?
どうしてお医者様は、私のお部屋に来るたび悲しそうなお顔をするの?
そんな問いに、私たちはいつも曖昧に答えてきた。
ただ賢いあの子は少し経つと自分が長く生きれないことを察していたように思う。
なぜなら、我が儘なはずのあの子はいつだって未来に関するお願いはしなかったのだから。
だから私は、妹の願いはできるだけすべて叶えてあげるつもりでいた。
「それで、お願いってなあに?」
私が尋ねると、リリアーヌは少しだけ頬を赤くした。
「私ね、お姉様の花嫁のヴェールを、ちょっとだけ被ってみたいの」
私は妹の可愛い我が儘に、できたばかりのヴェールを被せてやった。
リリアーヌは宝物に触れるように、ヴェールの刺繍を指でなぞった。
「いいなぁ。私もエドお兄様と結婚式がしたいなぁ」
「リリー。エドワードはお姉様の婚約者なのよ?」
「うん」
「あなたとは、結婚できないのよ?」
「うん。わかってる」
あまりにもあっさりとした返事に、私は目を瞬いた。
「……わかっているの?」
「だって、私、まだ小さいし……でも、エドお兄様は私の初恋?ってやつだもの」
リリアーヌは自分の手を見つめた。
小さな、小さな手だった。
私はしばらく、何も言えなかった。
五歳の初恋。
それはきっと、恋という言葉の意味をまだ正確には知らないまま、誰かを特別に思う気持ちなのだろう。
大好きなお姉様が大好きな人。
いつも優しく笑いかけてくれる人。
その人と結婚式という素敵なことをできたら、きっと幸せなのだと思ったのだろう。
「お姉様と同じくらい大きくなったら、エドお兄様みたいに素敵な人と結婚できるんでしょう?」
「そうね。大きくなったらね」
「……そっか」
妹は、少しだけ笑った。
その笑顔があまりに寂しそうで、私は思わず妹の手を握った。
「でもね、リリー。大きくなるまで待たなくても、結婚式を挙げることはできるわ」
「本当?」
「ええ。花嫁衣装を着て、お花を飾って、みんなにお祝いしてもらうの。そういう結婚式なら、できるかもしれない」
私は、何気なくそう言った。
妹を慰めるためだった。
妹がする初めての未来を望む願い。
いつか大人になったら、素敵な人と結婚して幸せになれる。
そんな未来を信じてほしかった。
けれど。
「本当に?」
リリアーヌの目が、ぱっと輝いた。
「私も、できるの?」
「ええ、もちろん」
「お姉様みたいな、真っ白なドレス?」
「そうね」
「お花も、いっぱい?」
「ええ」
「お兄様も、一緒にいてくれる?」
私は一瞬、言葉に詰まった。
エドワード様は、妹をたいそう可愛がっている。
彼女が体調を崩して会えなくなった日には、見舞いの花を届けてくれるほどだ。
お願いすれば、きっと協力してくれるだろう。
「……聞いてみましょうか」
「やったあ!」
リリアーヌは両手を挙げようとして、すぐに胸を押さえた。
侍女が慌てて椅子を持ってくる。
私は妹の背中をさすりながら、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
この子は、いつまで笑っていられるのだろう。
いつまで、こうして私の名前を呼んでくれるのだろう。
考えたくなかった。
考えたくないのに、医師の言葉が頭から離れなかった。
十歳になることさえ、難しいかもしれない。
ならば、せめて。
この子が夢見た一日くらい、叶えてあげたい。
そう思った。
◇
「……というわけなの」
事情を説明し終えると、エドワードはしばらく黙り込んだ。
私たちは屋敷の庭園にいた。
妹は侍女とともに、部屋で休んでいる。
「つまり、リリアーヌは君の花嫁姿に憧れている、と」
「そうね」
「そして、私と結婚式を挙げたい、と」
「そういうことになるわね」
「……君は、それでいいのか?」
エドワードの表情は真剣だった。
「私が君の婚約者であることを、リリアーヌは理解しているのだろう?」
「ええ。だから、結婚式だけよ。お芝居のようなものだと思ってちょうだい」
「君は?」
「私?」
「君は、本当にそれでいいのかと聞いているんだ」
彼の目が、まっすぐに私を見つめた。
私は少しだけ困って笑った。
「……私の大切な妹なの」
それが答えだった。
「リリアーヌが生まれてから、私はずっと、あの子に幸せになってほしいと思ってきたわ」
妹が初めて歩いた日のことを覚えている。息が上がってしまい、母に抱き上げられた妹は、それでも嬉しそうに笑っていた。
初めて自分の名前を書けた日も覚えている。
熱を出して三日間寝込んだあと、私の顔を見て「お姉様」と呼んでくれた日のことも。
あの子が生きている。
それだけで、私は何度も神に感謝してきた。
だから。
「リリーが望むことなら、叶えてあげたいの」
エドワードは、目を伏せた。
それから長い沈黙のあと、静かに言った。
「わかった」
「……いいの?」
「もちろんだ。ただし、条件がある」
「条件?」
「私も、君に協力してほしい」
彼は少しだけ笑った。
「その日は、花嫁の姉として誰よりも美しく着飾り、妹を祝福してくれ」
私は、目を丸くした。
「……それだけ?」
「それだけだ」
「もっと、こう……妹と結婚式なんて変だとか、私に対して気まずいとか、そういうのはないの?」
「あるに決まっているだろう」
彼は苦笑した。
「だが、君が妹を大切にしていることを、私は知っている。それに、私だってあの子には幸せになってほしい」
そう言って、彼は私の手を取った。
「君が望むなら、喜んで花婿役を務めよう」
私は、彼の手を握り返した。
「ありがとう、エドワード」
「礼を言うのは、まだ早い」
「どうして?」
「五歳の花嫁殿は、きっと注文が多いぞ」
エドワードがおどけた様に言うものだから
私は思わず、吹き出した。
妹の命が、残り少ないかもしれないこと。
私たちが、妹の未来をどこまで願っていいのかわからないこと。
願っても、何も解決しない。
それでも。
今度の結婚式が、妹の心に残る幸せな一日になるのなら。
私は何だってするつもりだった。
◇
そして、今日。
リリアーヌは、花嫁になった。
母が大切に保管していた純白のドレスを、妹の身体に合わせて仕立て直した。
裾は長すぎないように。
胸元は苦しくないように。
締めつけるコルセットは使わず、何度でも座って休めるように。
靴は、いつも履いているものと同じくらい柔らかい素材にした。
結婚式のために、妹の身体に無理をさせるわけにはいかなかった。
教会の飾りつけは、リリアーヌが選んだ白と薄紫の花で統一した。
招待客は両親と親しい親族、それから、私たちの事情を理解してくれる友人たちだけ。
この式が正式な婚姻ではなく、妹の願いを叶えるためのものだと、皆が知っていた。
妹は、朝からずっと上機嫌だった。
「お姉様、見て!」
鏡の前で、くるりと回る。
ふわりと広がるスカート。
髪に飾られた小さな花。
薄く差した頬紅。
「私、綺麗?」
「ええ。世界で一番綺麗よ」
「本当?」
「本当」
「じゃあ、エドお兄様も、綺麗って言ってくれるかな?」
「きっと言ってくださるわ」
そう答えると、妹は恥ずかしそうに笑った。
私はその笑顔を、忘れないように心に刻んだ。
結婚式が始まる直前、リリアーヌは私のドレスの裾を引いた。
「お姉様」
「なあに?」
「今日は、私がお姉様の代わりに、お兄様と結婚するの?」
私は膝をついて、妹と目線を合わせた。
「そうね。今日は、あなたが花嫁さんよ」
「……そっか」
妹は少し考えてから、首を横に振った。
「でもね、私、お姉様の代わりにはなりたくないの」
私は息を呑んだ。
「私、お姉様が大好きだもの」
リリアーヌは、私の頬に小さな手を添えた。
「お姉様がお兄様と結婚するの、楽しみにしてるの。だから、今日は私が先に結婚式をしてみるの」
そして、いたずらっぽく笑った。
「お姉様の練習!」
私は、笑おうとした。
けれど、うまく笑えなかった。
五歳の妹は、私よりずっと小さくて、私よりずっと弱い。
それなのに、時折、私よりもずっと強い言葉を口にする。
私は妹を抱きしめた。
「……そうね。お姉様の練習ね」
「うん!」
「じゃあ、今日の花嫁さんは、世界一幸せでいなくちゃね」
「うん!」
妹は元気よく返事をした。
その声が、いつまでも耳に残った。
◇
式は、滞りなく進んだ。
エドワードは妹の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いた。
途中で疲れてしまった妹を、彼が抱き上げる場面もあった。
妹は最初こそ驚いたものの、すぐに彼の首に腕を回して、嬉しそうに頬を寄せた。
「お兄様、大好き!」
「ああ。私もリリーのことが大好きだよ」
彼は、妹の額にそっと口づけた。
それは、兄が幼い妹にするような、優しい口づけだった。
参列者たちから、温かな笑い声が上がった。
私はその様子を見つめながら、何度も何度も瞬きをした。
泣いてはいけない。
今日は、幸せな日なのだから。
やがて、二人は祭壇の前に並んだ。
本物の結婚式のような誓いの言葉はない。
代わりに、エドワードは妹の前に片膝をついた。
「リリアーヌ」
「はい!」
「今日、君が世界で一番幸せな花嫁になれたなら、私も嬉しい」
妹は、ぱちぱちと瞬きをした。
「……エドお兄様」
「どうか、これからもたくさん笑っていてほしい」
彼は、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「君が笑ってくれることは、私たちにとって、何よりの幸せだから」
妹はしばらく彼を見つめていた。
そして。
「……うん!」
満面の笑みを浮かべた。
その瞬間、私は知った。
この日のために準備したものは、ドレスでも、花でも、教会でもなかったのだ。
私たちが妹に贈りたかったもの。
それは、彼女がこの世界で大切にされているのだと、心から信じられる時間だった。
◇
式が終わるころには、妹はすっかり疲れてしまっていた。
控室の長椅子に横たわり、母の膝に頭を預けている。
頬紅の下の顔は、いつも以上に白かった。
私は侍医を呼ぼうと立ち上がったが、妹が私の手をつかんだ。
「お姉様」
「どうしたの、リリー?」
「……楽しかった」
小さな声だった。
「とっても、とっても、楽しかった」
「そう。よかったわ」
「お花も、綺麗だったね」
「ええ」
「お兄様も、優しかった」
「そうね」
「お姉様も、綺麗だった」
私は、思わず笑った。
「今日はあなたが主役でしょう?」
「でも、綺麗だったもん」
妹は、うとうとと目を閉じかけながら言った。
「……私、大きくなったら、お姉様みたいになりたいな」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
「……なれるわ」
私は、妹の手を握った。
「きっと、なれるわよ」
それが嘘だと、わかっていた。
わかっていたけれど。
妹が望んでいる未来を、私が自分の手で奪うことだけはしたくなかった。
「お姉様」
「なあに?」
「……お姉様は、大きくなっても、私のこと、好き?」
私は、妹を抱きしめた。
小さな身体。
薄い肩。
私の腕の中で、かすかに上下する胸。
「……大好きよ」
涙がこぼれそうだった。
「リリーが生まれた日から、ずっと。これから先も、ずっとよ」
妹は、安心したように笑った。
「……よかった」
それから、静かに目を閉じた。
私はしばらく、妹の髪を撫で続けた。
窓の外では、青空の下に花びらが舞っていた。
幸せな物語の最後の一頁のような光景だった。
けれど、私は知っていた。
物語は、まだ終わっていない。
この子が目を覚ましたら、今日のことを何度でも話してあげよう。
どんなドレスを着ていたのか。
どんな花が飾られていたのか。
エドワード様が、どんな顔で笑っていたのか。
参列者たちが、どれほど温かく祝福してくれたのか。
そして。
あなたは、世界で一番幸せな花嫁だったのだと。
何度でも、何度でも。
◇
その夜、エドワードが私の部屋を訪ねてきた。
「リリアーヌは?」
「眠っているわ。今日は少し疲れたみたい」
「そうか」
彼は安堵したように息を吐いた。
私は窓辺に立ったまま、彼を振り返った。
「……エドワード」
「何だ?」
「今日は、本当にありがとう」
「礼を言うのは、こちらのほうだ」
彼は首を横に振った。
「君が許してくれなければ、私はあの子の願いを叶えてやれなかった」
「私は、何もしていないわ」
「そんなことはない」
彼は、静かに微笑んだ。
「君がいたから、あの子は今日、花嫁になれたんだ」
私は唇を噛んだ。
そう。
私は、妹の願いを叶えることができた。
けれど、それで妹の未来が変わるわけではない。
明日になれば、また薬を飲まなければならない。
少し歩けば、息が切れる。
熱が出れば、家族全員が眠れない夜を過ごす。
そして、いつか。
妹は、私たちの前からいなくなってしまうかもしれない。
「……私、怖いの」
気づけば、そう口にしていた。
「この子がいなくなるのが、怖い」
エドワードは何も言わなかった。
「今日みたいな幸せな日を、いくつ作っても。どれだけ願っても。あの子が大人になる未来を、私は約束してあげられない」
声が震えた。
「私は姉なのに。何もしてあげられないの」
エドワード様は、そっと私の肩に手を置いた。
「……アデライド」
「……うん」
「君は、あの子に今日という一日を贈った」
彼の声は、穏やかだった。
「君が何もしていないのなら、私は今日、あんなに幸せそうなあの子の笑顔を見られなかった」
私は目を伏せた。
「それに」
彼は少しだけ笑った。
「君が姉であることは、あの子にとって、とても幸せなことだと思うよ」
私は、とうとう泣いてしまった。
声を上げて泣く私を、彼は何も言わずに抱きしめてくれた。
私たちは婚約者だ。
いつか本当の結婚式を挙げるだろう。
その日には、私が花嫁になる。
エドワードが隣に立ち、私の手を取ってくれる。
けれど、今日という日は、もう二度と戻ってこない。
妹が五歳の花嫁だった日。
私の大切な妹が、世界で一番幸せそうに笑っていた日。
私はその一日を、決して忘れない。
◇
翌朝。
妹は目を覚ますと、開口一番にこう言った。
「お姉様!」
「はいはい、どうしたの?」
「もう一回、結婚式したい!」
私は思わず、侍女と顔を見合わせた。
そして、笑った。
「……そうね」
私は妹の額に口づけた。
「また、しましょうか」
「本当!?」
「ええ。今度は、どんなお花がいい?」
妹は、目を輝かせた。
「水色!」
「水色ね。わかったわ」
「あとね、ケーキも!」
「ケーキも?」
「イチゴの乗った大きいの!」
「それは、食べきれるかしら?」
「食べる!」
妹は胸を張った。
私は笑った。
笑いながら、泣きそうになった。
この子の未来が、どこまで続いているのかはわからない。
けれど、未来が短いかもしれないからといって、今日の幸せまで諦める必要はないのだ。
明日が来るのなら、明日も笑おう。
来週が来るのなら、来週も花を飾ろう。
そして、いつか。
もしも本当に、妹と過ごす時間が終わってしまう日が来たとしても。
私は今日のことを覚えていよう。
白いドレス。
薄紫の花。
青い空。
高らかに鳴り響く教会の鐘。
そして、世界で一番幸せそうに笑う、小さな花嫁のことを。
今日、私の婚約者は妹と結婚式を挙げた。
そして私は、妹の姉でいられることを、神様に心から感謝した。




