鎮具と破具
「それでね、友達が妊活に成功して、妊娠したらしいの」
姉がアールグレイ、ブーケ & ティー ラテを飲みながら早口で捲し立てている。私はダークモカチップフラペチーノを飲みながら相槌をうつ。
「それが本当に喜べなくって! 悔しくて悔しくて泣いちゃったの」
ありがとうも言わなかったのかな。もう、とうとう壊れちゃったのかもしれない。
ダークモカチップフラペチーノが、ほんのり紅茶の香りが混じった。嫌だな、と思った。私は紅茶が好きじゃない。吐くほど苦手だから。
そこから先はあんまり覚えてない。うん、うんと相槌だけを打ってたことは確かだ。彼女が婚活をし始めてもう何年かわからない。まだ、出会えないらしい。私はというと、恋愛もしたことがないし、よくわからない。結婚も、彼氏も、恋愛も、この歳になっても、何もわからなかった。ただ、うん、うんと相槌を打つことしかできない。彼女の本当の痛みなど、到底わからないだろう。それって、「おめでとう」って言えないぐらい、悪びれないほどに、辛いことなのかな、とさえ思う。姉も姉だが、妹も妹だ。
一つ言えるのは、多分相談相手は、私ではない。
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ついに、彼氏ができたらしい。愚痴がなくなるのは、いいことだ。壊れた心、治せたのかな。彼が、治してくれたのかな。このまま、何事もなく、思うままにいくといいけど。私はというと、まだわからない。ずっとわからないままかもしれない。
1人、抹茶フラペチーノを飲みながら、まあ、そんなうまくいくわけないよな、なんて恐ろしいことを考える。ストローからずずっと音がした。進む姉と、停滞する妹。きっと彼女にはまた困難があるだろう。その時、私はうんうんと頷くだけだ。悲しいけれどもこう思う。姉とは、ずっと、チグハグなままなのかもしれないな、と。




