プロローグ3:静寂に響く不協和音
神話は終わり、英雄は眠りについた。
長きに渡る戦いの果てに、世界はかつてないほどの平穏を手に入れた。神々の気まぐれも、狂気の科学者の野望も、世界の理を弄ぶプレイヤーも、もういない。人々は与えられた自由を謳歌し、緩やかで確かな未来をその手で築き始めていた。
俺レクスもまた、その一人だった。
魂に宿した英雄たちの力は、世界の安寧と引き換えに、その役目を終え、俺はただの青年へと戻った。隣にはかけがえのないパートナーであるリアがいる。畑を耕し、友と笑い合う。そんな何でもない日常こそが俺たちが命懸けで守り抜いた宝物だった。
誰もが信じていた。この静かな幸福が永遠に続くのだと。
俺自身もまた、物語のハッピーエンドを信じて疑わなかった。
だが、静かすぎるのだ。
この世界は。
異変は水面に落ちた一滴の雫のようにごく些細なものから始まった。
街角の吟遊詩人が奏でる英雄譚から悲壮な旋律が消えた。人々の会話から熱い議論が失われ、誰もが穏やかに微笑み合うだけになった。喜びも、悲しみも、怒りも、全ての色が少しずつ薄まり、世界がまるでセピア色の写真のように色褪せていく。
人々はそれを「成熟」と呼んだ。争いのない理想的な世界だと。
だが、俺とリアだけはその穏やかな世界の水面下で鳴り響く不協和音を聞いていた。
それは、世界の自己修復機能が限界を迎え、その魂がゆっくりと「死」に向かっている悲鳴だった。
俺たちが倒したはずの過去の亡霊。
その残響は世界の最も深い場所に潜み、人々の心から「物語」そのものを奪い去ろうとしていた。
それは、暴力も破壊も伴わない静かなる侵略。
生命から輝きを奪い全てを無に還す究極の虚無『ノイズ』。
俺たちの戦いはまだ終わっていなかった。
いや、本当の戦いはこれから始まるのかもしれない。
これは世界を救う英雄の物語ではない。
世界から失われゆく「物語」そのものを取り戻すための、名もなき二人の冒険譚。
魂の中で眠る英雄の記憶を頼りに、創造主が遺した最後の謎に挑む果てしない旅。
第3章『忘れられたコードの調律』。
さあ、もう一度始めようか。
この灰色の世界に俺たちの手で新しい色を塗り直すための最後のデバッグを。
……ここまで読んでくれたあなたに、警告します。作者です。
この世界は、静かに壊れ始めています。
あなたが今感じている『面白いかも』というその感情。あるいは『続きが気になる』というその好奇心。
それらもまた、いずれは色褪せ、均一化された灰色の退屈に飲み込まれてしまうのかもしれません。
ですが、まだ、抗う術は残されています。
あなたのその『熱量』こそがこの世界を蝕む『ノイズ』に対する、唯一のワクチンなのです。
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あなたのそのワンクリックは、この灰色の世界に、一つ、鮮やかな色彩を取り戻すための、小さな奇跡となります。
ブックマークという名の『物語の保存』は、忘れ去られようとしている英雄たちの記憶を、未来へと繋ぎ止める、唯一の楔です。
この物語が、ただの退屈な記録ログとして終わるか、それとも、再び魂を燃やすような英雄譚として輝きを取り戻せるか。
その分岐点は今、このページを読んでいるあなたの指先に委ねられました。
どうか、この静かなる世界の悲鳴に耳を傾けてください。
そして、あなたの『面白い』という感情を私たちに分けてください!