1話、終わらない夜
今日もまた満員電車に乗り、見慣れたオフィスに向かう。皆さんの中にはそういう風景を思い浮かべたことはあるだろうか。夜のネオンの光は明るさに満ちているはずなのに、心には鉛のような重さがのしかかる。終わりの見えないデスク、上司からの容赦ない指示、そして苦しいほどの残業。しかしこれはサラリーマンの中の日常のうちのごく一部にすぎない。この物語は、そんな「終わらない残業」の日々に翻弄される一人の男、小森優也の姿を描いた物語である。これは決して特別な誰かの物語ではない。格差や閉塞感が蔓延する現代日本において、懸命に生きようとする全ての人々に捧げる。
どうか、この物語を通して、自身の置かれた状況や、自身の在り方を少しでも見直すきっかけになれば幸いです。
ここは都会のとあるオフィス。今日もまた、小森優也はパソコンの画面を睨んでいた。終電まであとわずか。部署のほとんどは既に帰宅し、オフィスには蛍光灯の白い光と、タイピング音だけが響いている。
「小森くん、悪いけどこれも頼むよ。」
背後から、いつもの声が聴こえてきた。小森の直属の上司、高倉将也だった。高倉はにこやかな顔で、分厚い書類の束を小森のデスクに置いた。
「え、これって今日中ですか?」
小森の声は、疲労の色を隠せない。
「ああ、まあ君なら大丈夫だろう。いつも遅くまで残ってるし。」
高倉はそう言うと、小森の返事を待たずにオフィスを出て行った。小森は高倉の背後を無言で見送った。高倉は毎晩のように定時で退社し、夜の街へと消えていく。
「また俺だけか⋯」
小森は小さく呟き、渡された書類と言う名の悪夢に目を落とした。今日も家に帰るのは深夜になるだろう。
その夜も小森は日付が変わる頃にようやく会社を出た。疲れ切った体を引きずり、最寄りの駅へと向かう。駅前のコンビニで買ったストゼロを片手に、小森は夜空を見上げていた。
「俺は何のために働いているんだ⋯?」
拭いきれない疑問と、じわじわとした怒りが小森の中に湧き上がってきた。今日も街のネオンがぼんやりと彼を照らしていた。
この物語の中には、辛い場面や、胸が痛む描写が含まれているかもしれません。しかしそれは決して働く人を馬鹿にすることを目的としたものではありません。むしろ、地球上の皆様と共に私たちが生きるこの社会の現状を直視し、より良い方向へと進むためのきっかけになればいいなと願っています。