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3-2

一日三話投稿で、これは今日の三話目になります。

 イベント当日。わたしたちは町の広場にやってきた。


 広場の中央には四角形のリングが設置されている。


 観客も多いし、これは目立つ。


 わたしは今日のためにしっかり髪のお手入れをして、新しいドレスも買った。


 完璧だ。いまのわたしは世界で一番美しい自信がある。神だって惚れさせるに違いない。


「素晴らしい舞台だわ! これこそわが労働死者派遣サービスの売名にふさわしいってものよ!」

「う……うぅ……そうですねお嬢様……」


 リリアはなぜか泣いていた。

 え、本当になんで?


「ちょ、ちょっと、あなたどうして泣いているの?」

「お嬢様が……あのお嬢様が……ちゃんとおめかししてくださるなんて……わたくし、嬉しくて……びえええええん!」


 そんなことで泣いていたのこの駄メイド。


 わたしだってちゃんとしなきゃいけないときくらい髪のお手入れとか衣装とかしっかりするわよ。失礼ね。


 この日のために卸したドレスは背中が大きく開いた紫のドレスだ。髪はお団子にして後頭部でまとめている。口と指先は紫に塗っている。大人の色気ムンムンだ。


「ママー! あのお姉ちゃん可愛いねえ!」

「そうねぇ」


 自分より小さい子に可愛いと言われてちょっとムッとしたがまぁいい。中身は大人のわたしはそんなことでは動じない。


 あーあ、早くイベント始まらないかな。ド派手な魔法でみんなの注目かっさらいたいのに。


「出場者の皆様は運営窓口までお越しくださーい!」


 拡声魔法が会場に響いた。


 わたしはリリアに別れを告げて運営窓口へと向かった。


 どうやらひとりずつ順番に番号札を渡されるらしい。


 列に並ぶこと三十分。ようやくわたしの番が来た。


「はいどうぞ。がんばってくださいね……って、え?」

「ありがとうございますぅ……はぁ?」


 番号札を配っていたのは、なんと次女のブリュンヒルダお姉さまだった。


「お、お姉さま!? なんでこんなところに!?」


 愛想を尽くして猫撫で声をだしたのに。これじゃまるっきり損だわ。


「このイベントは占星術組合が主催だからよ! それよりエリュシア、あなた商売人になったんじゃないの!? なんでこんなところにいるのよ!」

「ちょっとまって。ねえ、ちょっとまってくれるかしら。そういえばなんでエルレインやブリュンヒルダ姉さまがわたしの商売について知ってるの?」


 いくらなんでも情報が早すぎるし、知ってるならどうして餞別のひとつもよこさないのだろう。


 いや、よく考えてみればわたしはブラッドリィ家の嫌われ者。商売を始めたからって家族が喜んで協力してくれるわけがない。


 むしろ死霊術なんて少しも広めたくないだろう。


「そ、それは、風の噂というか……」


 ブリュンヒルダ姉様は目をばっしゃんばっしゃん泳がせていた。


 どうやらビンゴだ。


「ねえ、お姉さま。正直に教えてもらえるかしら。あなた方、まさかわたしの商売の邪魔してなーい?」


 ぎくり、とブリュンヒルダ姉さまの体が揺れた。


 ギルティ。


「やっぱりそうなんでしょー! なんでそんなことするのよー!」


 受付のテーブルに乗り上げてブリュンヒルダ姉さまの胸倉を掴むと、彼女は「あーれー」と普段じゃ聞かないしおらしい声をだした。


「なーにがあーれーよ!? いつもみたいに胸倉掴み返してきなさ……え?」


 誰かに首根っこを掴まれ、引きはがされた。

 首だけで振り返ると、全身を黒い鎧に包んだ人物がわたしをぶら下げていた。


「ちょ、ちょっとなんなの!? だれよあんた!」

「我は黒騎士。ブリュンヒルダ様の側近である。妹君よ、いくらご家族と言えどもこれ以上の蛮行は見過ごせませぬ」


 黒騎士にすごまれたが、わたしはそっぽをむいて口を尖らせた。

 なにが黒騎士よ。ごたいそうな話し方してムカつくわ。


「いいのよ黒騎士。その子をおろしてあげて」

「しかしブリュンヒルダ様」

「いいの。その子はとても不憫な子なのよ。すこしくらい我儘を聞いてあげるのが姉の務めだわ」


 そういって涙を拭くふりをしながらブリュンヒルダ姉さまはほくそ笑んでいた。

 こ、こいつ!


「はっ! さすがブリュンヒルダ様! ご寛大であらせられる!」


 わたしはようやく地面におろされた。


 なにが寛大なのよこの性悪女狐。


 か弱いふりしていっつもまわりを巻き込む癖に。


 この黒騎士とかいう男もすっかり騙されているじゃないのみっともない。


「はーあ、呆れたわ。もうわたしは行くからね」

「帰ったらどうですかエリュシア。どのみちこの黒騎士が出場する以上、あなたが優勝する可能性は万に一つもありませんよ」


 いまのは聞き捨てならないわ。


「それって、わたしがこの唐変木に負けるといいたいのかしら?」


 わたしは背中を向けたまま問いただした。


「もしそう聞こえなかったのでしたらまずは病院にいくべきですわ。もちろん頭のね、オホホホ」

「ブリュンヒルダ姉さま」


 わたしは振り返って親指を下に向けた。


「ぶっ殺す!」

「ふふふ、受けて立ちましてよこの愚妹! オーッホッホッホ!」


 絶対に負けない。なにがなんでも勝ってやる。


 闘志をメラメラ燃やしつつ、イベントが始まった。


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