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3-1

一日三話投稿で、これは今日の二話目になります。

 初仕事は無事に終わった。


 依頼主のグレイスさんはとっても喜んでくれて、報酬を二倍にしてくれた。


 さすがはエリート中のエリート。太っ腹である。


 これで今月分の借金は返済できそうだ。


 初めての収入を、わたしはなんども数えた。


「うふふ、お金がひとーつ、お金がふたーつ、お金がみーっつー」

「お嬢様、ずいぶんとご機嫌ですね」

「そりゃそうよ。グレイスさんはみんなにもこの店のことを紹介するっていってくれてたし、きっとこれから大繁盛するわ! そしてわたしはブラッドリィ家を凌ぐ財産を手に入れて奴らを見返してやるのよー! はーっはっはっはっー!」


 社長のデスクに足を乗せながらわたしはそんなことを豪語していた。


 それから三日後ーー


 客は、だれも来ていない。


「なんでなの……なんでだれもこないの……なんで……」


 わたしはヤケミルクをのみながらむせび泣いていた。


 こんなにお客さんがこないなんて悔しいし悲しいし情けないにもほどがある。


「げ、元気を出してくださいお嬢様。きっとまだ噂が広まっていないだけですよ」

「いや、違うわ。ただ待ってるだけじゃダメなのよ。もっと積極的にわたしたちの存在をアピールしなきゃ」

「アピールというと?」


 わたしはミルクを一気に飲み干した。

 そんなのとにかく目立った物勝ちだろう。


「ぷはぁ……パレードなんてどうよ? 大量の死者をつかって町中を練り歩くの。音楽とか踊りも添えてね」

「正気ですかお嬢様。町人が怯えまくる地獄絵図が想像できますよ」


 たしかに死者たちのパレードを見て衛兵が召喚される光景が目に浮かぶ。


「ぐっ……じゃ、じゃあ、訪問セールスなんてどう? いまなら依頼ひとつにつき死者一体を無料で貸し出すサービスとか!」

「訪問セールスなんて地道なこと、お嬢様にできるのですか?」

「……無理」


 商売するならどかんと人を集めたい。

 ちまちま草の根運動のようなことをするのは性にあわないにもほどがある。


「まぁ千里の道も一歩からといいますし、わたくしは訪問セールスがいいと思いますよ」

「やっぱやだ! そんな地味なことしたくなーい!」


 地道なのは研究だけで十分だ。わたしは自分の地道な研究の成果をド派手に披露したいのだ。


 なのにどうして店の運営まで地道な努力が必要なんだ。


 なにかあるはずだ。一撃で大勢にわたしたちの存在が認知される、そんな画期的な方法が。


 わたしが駄々をこねていると、店の扉が開いた。


 入ってきたのは、フードをかぶった女の子だ。


「いらっしゃいませー! ご用件はなんですか!?」


 わたしがデスクを飛び越えてお客さんにかけよると、お客さんは「きゃ」と短い悲鳴をあげた。

 おや、どこかで聞いたことがある声だわさ。


「その声……あなたまさか?」

「お姉さま、お久しぶりです」


 女の子がフードをとると、見知った顔が目の前にあらわれた。


 金髪のショートボブに深海のような青い瞳。わたしに負けず劣らずお人形のような滑らかな肌。


 エルレイン・ブラッドリィ。わたしの妹だ。


「どうしたのよエルレイン!」

「お姉さまが心配で……」

「まぁなんて優しい妹なの! 姉は健在よ!」


 エルレインはまだ十歳なのに心配して様子を見に来てくれるなんて、この子は天使の生まれ変わりなのだろうか。


 きっとそうに違いない。だってこんなにも可愛いんだもの。


「うん、元気そうでよかった。商売は順調なの?」

「え? あー、えーと、まぁぼちぼちってところかしら!」


 本当はまだ一件しか依頼をこなしてないけど、妹の手前、ついかっこうをつけてしまった。

 姉の威厳を保つためだ。しかたない。


「そうなんだ。さすがお姉さま」


 エルレインは両手を握り合わせて羨望の眼差しを向けてきた。


 くぅ、このキラキラが今のわたしには毒だ。かっこうつけた後ろめたさでいまにも浄化されそう。


「ま、まーねー……ははは……」

「じゃあ、これは必要ないかな……」


 エルレインは一枚の紙切れを見つめながら呟いた。


「それは?」


 わたしが尋ねると、エルレインは紙切れを差し出した。


 そこにはユーグレナ大魔法大会と書かれていた。


 これは、なにかのイベントのチラシだろうか。


「えっとね、もしもお姉さまのお店にあんまりお客さんがきてなかったら、このイベントに出てみればどうかなと思ったの。宣伝になるかと思って」

「エルレイン! 結婚しましょう!」


 わたしはエルレインを抱きしめた。


 優しい上に気が利くなんてこの子は本当になんなんのだろう。女神か。そうに違いない。


「わわっ」

「お嬢様。姉妹で結婚はできませんよ」


 リリアにぴしゃりといわれ、わたしはエルレインから離れた。


「んなこたーわーってるのよ。でもこれだわ! これこそわたしが求めていたものなのよ! 本当にありがとう、エルレイン!」

「えへへ……お姉さまの役に立ててうれしいな」 


 エルレインがはにかみ、わたしは鼻血を噴き出したのだった。


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