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一日三話投稿で、これは今日の二話目になります。
「さあ、店舗も確保できたし! 働くわよー!」
わたしは自分の店を見上げながら額の汗を腕でぬぐった。
まだ看板もなにもない、ただの空き家だ。立地は中心部からやや離れた川沿い。でも墓地が近いから悪くない立地だ。
今日からここが、わたしの労働死者派遣サービス業の拠点となるのだ。
「そんなにすぐにお仕事をはじめるのですか? もう少し準備してからの方がよいのではないでしょうか」
「そんな暇ないわ! 借金があるもの!」
「しゃっ……きん……?」
わたしが借用書を見せると、リリアは口から魂が抜け出しそうになっていた。
ブラッドリィの名を使ったのでかなりの額が借りられた。この額を見たら驚くのも無理はないだろう。
借金の内容は店の名義登録や土地と店舗の購入、そのたもろもろの初期費用の借り入れなどだ。
これは今後のために必要な借金なのだからしかたがない。
なお現在この店は商人ギルドの持ち物となっている。
借金を返済して初めてわたしの店になる。
がんばってお金を返さなければ。
「おーい、リリア。しっかりなさい」
わたしが頬をぺちぺちすると、リリアの口からはみ出していた魂がしゅるると収納されて正気に戻った。
「おほん、お嬢様。さっそく働くのはいいのですが、けっきょくのところどうやって仕事を探すのですか?」
さすがわたしのメイド。立ち直りがはやいわ。
わたしの奇行には慣れたものね。
「まずは看板とチラシね。知ってもらわなきゃ依頼もこないし。あとは応接用のテーブルや椅子が必要かしら。さすがに家具がないんじゃちょっと困るしね」
「またお金がかかりますね……」
「とりあえず看板は問題ないわ、わたしにまかせて。リリアは残ったお金で家具を買ってきてちょうだい」
「承知しました」
リリアを送り出した後、わたしはお気に入りの場所にむかった。そう、墓地だ。
川をこえて市場を通り町外れの墓地に到着した。
墓地には誰もいない。せいぜい野良猫がお昼寝しているくらいだ。
「さあ、でてきなさいみんな!」
わたしが指を鳴らすと、地面の下から死体たちが次々と這い出してきた。
ここにいるのはかなりの年月が経った死体ばかりなので全員白骨化している。
これはこれでいいものだとわたしは思う。頭蓋骨の丸みとかとてもラブリーだ。白いのも綺麗だと思う。
わたしは白骨死体のスケルトンたちを直立させ、彼らの前を横切るように歩いた。
ふと、ベレー帽をかぶったスケルトンがいることに気づいた。
「あなた、もしかして生前は絵描きだったのかしら?」
ベレー帽のスケルトンは頷いた。
「わたしのお店の看板を描いて欲しいのだけれど、いいかしら?」
ベレー帽のスケルトンは親指をつきあげた。その後、彼はわたしを抱き上げて肩に乗せた。わりと陽気な性格らしい。
彼をつれて店に戻る道中で、町中の人々が奇異の目で見てきた。
そりゃこんな美少女がスケルトンの肩にのっていたら驚くだろう。
わたしは町の人々に手をふってわざと愛想を振りまいた。
これも宣伝なのである。
「ふふふ、こんにちはみなさーん。わたしは労働死者派遣サービスのエリュシアでーす。よろしくねー」
「ママー! あのお姉ちゃん骨にのってるよー!」
「リリー! み、みちゃいけません!」
親子の反応にはちょっと傷つくが、いまにみんなわかるはず。
一年、いや半年もすれば町中の生者がわたしの死者をつかいたがる。そうに違いない。そう考えると笑いが込み上げてきた。
「くくく……くはーっはっはっは!」
「パパー! あのお姉ちゃんなんで笑ってるの?」
「見てはいけないぞ、リリー……」
不憫な視線を向ける家族を横切り、わたしは店に戻ってきた。