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一日三話投稿で、これは今日の一話目になります。
ドラちゃんをつれて巣穴に入り先へと進む。
巣穴の壁には等間隔で松明が置かれており、比較的明るい。
ゴブリンどもがちょこちょこでてくるが、ドラちゃんの爪によって簡単に倒せるためなんら脅威ではない。
わたしはドラちゃんの背中に乗っているだけでいいので楽チンだ。
「エリュシア! あなた少し目立ちすぎでしてよ! 少し下がりなさい!」
ブリュンヒルダ姉さまが後ろで喚いているが、下がる気など毛頭ない。
「ブリュンヒルダ姉さま。姉さまたちには力を温存していただきたいので、このままで行かせていただきますわ。あ、取りこぼしの処理は任せますのでよろしくお願いいたしますね」
わたしはそういってブリュンヒルダ姉さまに投げキッスをすると、彼女はハンカチを勘で悔しがっていた。
「落ち着きなさいブリュンヒルダ。エリュシアに任せておきましょう」
「ですが姉さま!」
「どうせすぐにあのドラゴンは使い物にならなくなりますわ」
いまの言葉、どういう意味かしら?
負け惜しみにしては落ち着きすぎているような気がするし……。
ほどなくしてベアトリクス姉さまのいった意味を理解した。
なんと行き先が二手に別れており、しかも洞窟が狭くなっている。
これではドラちゃんが進めない。ここで降りるしかなさそうだ。
ベアトリクス姉さまをみると鼻で笑っていた。
くっ、考えてみれば洞窟なのだから狭い部分があってもおかしくはない。
あの人は最初からこの可能性に気づいていたのだろう。
だからといってわたしの功績が消えるわけではないし、ゴブリン・ロードを先に倒せば店の宣伝としては盤石だ。
「じゃあね、エリュシア。ここでしんがりでも守っていては?」
ベアトリクス姉さまが手を振って左の道へ進んだ。ブリュンヒルダ姉さまはにこやかに笑っており、エルレインはぺこりとお辞儀をして後をついていった。
姉妹たちが左にいったのなら、わたしは右へいく。
正解の道かどうかはわからないが、彼女たちの後を追いかけるような事は絶対にしたくなかった。
「まってください、エリュシアさん。わたしたちもついていきます!」
サナたちも右の道に来た。
わたしが先頭で、後ろに数人ついてくる形となった。
右の道をすすむと、大量の骨が転がっているエリアにたどり着いた。
旅人風の服を着た人間の死体や、獣の死骸も落ちている。
どうやらここはゴブリンたちの食糧庫のようだ。
「ゲゲ! グゲゲ!」
食糧庫の奥からゴブリンたちがあらわれた。
彼らにとっての食糧庫はわたしにとっての武器庫。
「術式開放、闘」
わたしは敵を見つけるとすぐに指を鳴らして死者たちを操った。
ここから先はドラちゃんに頼れない。なら一体一体の戦闘力を上げた方がいい。
闘の術式開放はいわば中級クラスの死霊術。パワー、スピード、知力において下級よりもずっと強い。
死者たちは黒いオーラを纏い動き出す。死者たちは地面や壁に手をついて土から武器を生成し、ゴブリンたちに立ち向かった。
ゴブリンたちは弓矢を放ってきたが、死者たちはどれだけ矢が刺さっても意に介さず前進を、ゴブリンたちを切り裂いていく。
数の暴力とごり押しによるパワープレイ。これこそ死霊術らしい戦い方だ。
「す、すごいですねエリュシアさん! 圧倒的です!」
「そうね、雑魚処理に関しては死霊術の右に出るものはないわ」
ドラちゃんのように生まれ持って強力な存在であることを除けば、死者のスペックは大隊同じだ。
術式開放でいっぱしに戦えるレベルにしているとはいえ、よくて生きている戦士と同じくらいの戦力でしかない。
やっぱりドラちゃんを連れてこれなかったのはいたいわね。
「ええと、それじゃゴブリン・ロードはどうやって倒すんですか?」
「どうとでもやりようはあるから任せて」
サナの頭を撫で、先へと進んだ。
広い空間にでた。
左をみると、ベアトリクス姉さまたちの姿が見える。どうやらさっきの分かれ道は、ここで合流していたようだ。
広場には大量のゴブリンたちがひしめいていおり、すでにわたしたちを視界に捉えている。
ゴブリンたちの奥には、玉座があり、そこには一際大きなゴブリンーーあれがゴブリン・ロードだーーが座っていた。
「さあ、戦争よ! いきなさい!」
わたしが死者たちをけしかけると、ゴブリンたちも雄たけびを上げて向かってきた。
死者とゴブリンの乱戦が始まった。人数的にはこちらの方が少ないが、相手はゴブリン。戦力的には五分で拮抗している。
でもわたしの死者はなんど倒れても充填した魔力が尽きない限り片腕になっても敵に襲い掛かる。
時間はかかるが、このまま放っておけばきっと……などとまたしても悠長なことを考えていたら、左側から凄まじい魔力を感じた。
顔を向けると、ベアトリクス姉さまがなにやら詠唱している。
彼女が目を開いた瞬間、大量の火球が放たれゴブリンの群れに襲い掛かった。
ゴブリンだけならまだしもわたしの死者まで巻き添えだ。
「ああああああ! なんでそんなことするのお姉さま!」
「あら、なにやら有象無象が蠢いていると思ったらあなたの死者でしたかエリュシア! さあいきますわよみなさん!」
ベアトリクス姉さまは火球による奇襲をかけて狼狽えているゴブリンたちの群れに突撃していった。
やられた。完全に派手さで負けた。しかもこのままだとゴブリン・ロードの首まで横取りされてしまう。
死者たちは体がバラバラになってしまったが、まだわたしの魔力が残っている。
それにゴブリンたちの死体もたくさんできた。
これなら、いける。
「術式解放、混!」
わたしが指を鳴らすと、バラバラになった死者の体が動き出した。
死者の体はくっつきあい、混ざり合い、結合し始める。
周囲のゴブリンの死体も巻き込んで、それはそれは巨大な肉人形となった。
「ヴオオオオオオ!」
肉人形ちゃんが雄たけびをあげてゴブリンたちを踏みつぶしていく。
「ひいいいい、な、なんだあの肉の塊は!」
「な、なんて悍ましい魔法なの!」
「恐ろしい……恐ろしい……!」
兵士も冒険者も神官たちも肉人形ちゃんの姿に引いていた。
たしかに見た目は少しグロテスクだが戦闘能力は折り紙付きだ。
わたしは肉人形ちゃんの肩にのり、正面を指さした。
「いけー、わたしの肉人形ちゃん!」
「ヴオオオオオオ!」
常に魔力を流し込むことで微細な操作が可能だ。
わたしは肉人形ちゃんを前進させつつ、踏みつぶしたゴブリンどもをどんどん吸収させていった。
いよいよゴブリン・ロードが立ち上がり、こちらに前進してきた。
近くで見るとかなりデカい。かなりの死体を吸収した肉人形ちゃんとほぼ同じサイズだ。
「グギャアアアアア!」
「ヴオオオオオオオ!」
ゴブリン・ロードと肉人形ちゃんが手をつかみ合い、がっぷり四つの姿勢になった。
さすがはゴブリンたちを統べる者。これだけ大量の死者を吸収したのにパワーは互角だ。
「負けないで肉人形ちゃん! がんばれー!」
わたしが叫ぶと、後方が光った。
振り返るとゴブリンたちの群れの中央に魔法陣が描かれている。
その魔法陣の中央に立っているのは、ベアトリクス姉さまだ。
「姉さま!?」
「エリュシア、そのまま止まってなさい! 」
「やめてやめて、わたしが倒すから! お願い邪魔しないで!」
「ふふん、懇願する妹の頼みをまったく聞かないのも姉なればこそ……はああああああ!」
ベアトリクス姉さまは暴風と火炎が織り交ざった槍を放った。
槍はゴブリンたちを蹴散らしながら前進し、わたしの肉人形ちゃんの胴体に穴を開け、そのままゴブリン・ロードの胸に突き刺さった。
「グ……ギャア……」
ゴブリン・ロードが倒れ、ゴブリンたちが慌てふためいていた。
兵士も冒険者も神官も、統制のとれなくなったゴブリンたちを蹴散らし、ゴブリンの巣は壊滅したのだった。