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一日三話投稿で、これは今日の二話目になります。
例の喫茶店にやってきた。
二人は楽しく会話しているようだった。
みたところサナのスリップダメージも出ていない。
ようやく特訓の時の強気な姿勢を思い出したようだ。
時が流れ夕方になった。
二人は時計塔に上った。この街で一番見はらしいが良い場所だ。
「よい景色だな」
「そうね、ギルバート」
二人は巨大な鐘の下で街を眺めていた。
全身鎧と真っ黒ローブという異色な格好の二人だけど、いい雰囲気だ。
「お嬢様……さっきのことですが……」
「しっ! いまいいところなのよ!」
いけ、もう告白しちゃえ。
わたしはそう思いながら二人を見つめていた。
「あのねギルバート! わたし!」
「む? どうしたのだサナ殿」
サナは息を荒げながら胸を抑えている。
きっとかなりのスリップダメージが入っているのだろう。
口の端から血が流れてきたが、彼女はぐっと拭ってギルバートを見上げた。
「わたし! あなたが好きなの!」
「サナ殿!? そ、それは……し、しかし俺はーーーー」
その時、鐘がなった。
ギルバートの言葉は掻き消され、サナは彼に抱き着いた。
そのまま鎧の上からキスをしたのだった。
ギルバートがサナを受け止めると、彼の体から黒い影の様なものが放出され、夕焼けに掻き消された。
「ギルバート? いまのは?」
「ありがとうサナ殿……どうやら俺の呪いが解けたようだ」
「ええ!?」
えっと、どういうことなのかしら。
「実は俺の呪いは、愛する者のキスで解けるものだったのだ。サナ殿のおかげで俺はついに呪いを解くことができた。ありがとう」
「ギルバート……」
「だが、君にひとつ伝えなければならないことがある」
「え……?」
ギルバートの全身を覆っていた鎧に亀裂が入った。
亀裂はどんどん広がっていき、ついに鎧が砕けた。
長い赤い髪が広がり、夕日を受けて輝いた。
鎧の下から現れたのは、背の高い、凛とした女性だった。
「俺の名は、アーリア・ギルバート。なんというか、その…………女なんだ」
「ええええええええ!?」
サナは驚きのあまり叫んでいた。
わたしも開いた口が塞がらない。
リリアはさっきのことをまだ根に持っているのか頬を膨らませている。
まさか中身が女だったなんて……これじゃあ……。
そう思っていると、サナはギルバートの手を握った。
「それでもいいです!」
「え?」
「わたしは性別なんて関係ない、全身鎧のギルバートを好きになったんです! だから、いまさら女の人だっていわれたくらいへのかっぱです!」
「サナ殿……」
「ギルバート……」
二人は抱きしめ合った。
最後の方でびっくりさせられたけど、なにはともあれうまくいってよかった。
ちゃんと報酬ももらえたし。
ギルバートは呪いが解けたけど、相変わらずあの三人でパーティーを組んでいるとサナから聞いた。
「これにて一件落着ね」
他人の恋愛をみると、やっぱりわたしには恋愛って向いてないと思う。
ああも他人に気持ちを振り回されるなんてごめんだわ。
「本当にそうお思いですかお嬢様?」
リリアはずいぶんご立腹のようだ。
気絶させたことをまだ根に持っているらしい。
しかたない、ここは謝っておこうかしら。
「ああ、えっと、悪かったわよぅ。あれはほら、勢いってやつで」
「勢いで腹パンされるメイドの気持ちがわかりますか?」
「あうう……ごめんなさい……」
「罰として一週間キノコ生活ですからね!」
「ええええ!? それはやだ! 絶対にやだー!」
わたしはキノコが大っ嫌いなのだ。
あの食感がたまらなく嫌だ。
「駄目です!」
なんとかリリアを説得しようとしていると、店の入口が開いた。
「あ、ほらお客さんです……よ……」
「あら本当……ね?」
店糊口に立っていたのは、バーバリアンだった。
彼はナイフに舌をはわせながら、涙を流して立っていた。
「あんたまさか……サナのこと……」
「ヒャハー!」
笑ってはいるが、それが返って悲しい。
実る恋あれば散る恋もある、ということなのか。
「うん、とりあえずあがんなさいな。飲むなら付き合ってあげるわよ。わたしはミルクだけど」
「ヒャハハッ!」
少しだけ、バーバリアンのいっていることがわかった。
そんな気がしたのだった。