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一日三話投稿で、これは今日の二話目になります。

 わたしは大量の書類が入ったトランクケースを両手にぶらさげながらお屋敷の門に額をこすりつけた。


 塀の上では野良猫がお昼寝している。気楽な物だ。


「エリュシアお嬢様……いまからでも謝りにいったほうが……」


 リリアが心配そうに背中をさすってきた。


 彼女はなにを勘違いしているのだろう。よもやわたしが悲しんでいるとか落ち込んでいるだとかそんなことを考えているのではあるまいな。


「……ふふふ、ふーっふっふっふ!」

「お嬢様?」

「はーっはっはっは! ようやくこの息苦しいお屋敷から出られてせいせいするわ! ぜったいに大金を稼いで見返してやるんだから! リリア、あなたも残りたければ残っていいのよ!」


 わたしは一人でだって生きていける。


 前世では補給なし、退路なし、援軍とはかけ離れた孤立無援の陸の孤島に取り残されるなんて場面に遭遇したことだってあるが、その度にわたしは笑って切り抜けてきた。


 お屋敷を追い出されたくらいなんだというのだ。無駄に凹むだけのお見合いをさせられなくてすむのだからむしろ自由の身になれてハッピーだ。


「いえ、わたくしはエリュシアお嬢様のメイドですのでおそばにおります」

「まぁどっちでもいいわ。それよりまずは働き口を探すわよー!」


 わたしたちは町の中心部を目指した。


 郊外にあるブラッドリィ家から歩くこと三十分。


 ようやく人が賑わう中心部に到着した。


 ここユーグレナは城下町だけあってたいそうな賑わいだ。


 露天では色とりどりの果物を取り扱っており、武器屋や道具屋も品揃えが豊富だ。


 売る人も買う人も毎日大賑わい。


 人あるところに仕事あり。これだけ流通がしっかりしているのだから人手を欲しがるところだってたくさんあるだろう。


 わたしはうきうきで周囲を観察した。


「お嬢様はどんなお仕事を探されるのですか?」

「んー、そうねぇ、やっぱり魔術関係のお店で働きたいけど、そういうところってだいたい国家認定魔術師しかできないからなぁ……」


 国家認定魔術師とは国王や教会が認めた魔術師のことだ。


 主に国の運営や人々の役に立つ魔術が指定されている。


 残念ながらわたしの死霊術は国の運営にも人々の役に立つとも思われていないため、国家認定されていない。


 世知辛い世の中である。


「ダメでもともと、とりあえず手当たり次第に申し込みよ!」

「ガンバです! お嬢様!」


 わたしは町中の魔術店を訪ねた。


 単刀直入にいってしまえば……まぁ、全滅した。みんな、わたしが死霊術師だと知ったとたんに顔をしかめて拒否したのだ。


 ま、まぁ予想通り。死霊術師は不遇職だものね。


 せめて姉たちのように国家認定見習いならなんとかなったかもしれないと思うとちょっぴりやるせないけど。


「どうしましょうお嬢様……どこも雇っていただけません……」

「そう不安がらないでリリア。次はギルドへいくわよ!」


 ギルドとは組合のことだ。


 一般的には商人たちが助け合うために手を組む商人ギルドが有名だ。


「ギルドって、あの商人組合のことですか?」

「そう。でもわたしが行くのはただのギルドじゃない……冒険者ギルドよ!」


 冒険者ギルド。


 その名の通り、冒険者たちが集まるギルドだ。


 薬草をつんだり石ころを集めたりする仕事からドラゴン退治まで幅広く扱っている。


 ここならきっとわたしにもできる仕事があるはずだ。


「たのもー!」


 スイング・ドアを開いて冒険者ギルドに入ると、酒と煙草の臭いが鼻をついた。


 こんなもの軍属時代に嗅ぎ慣れているのでどうってことはない。


 それよりも強面の男たちがいっせいにこちらを向いたことのほうが注意すべき案件だろう。


「おうおうおう、ガキがなんのようだコラァ?」


 スキンヘッドの男が詰め寄ってきたが、わたしは動じない。


 体格差はあるが、わたしなら二秒で目玉をえぐりだせる自信がある。


 とはいえ力があるからといって無暗にふりまわすのはあまりにも幼稚だ。


 ここは大人の対応をみせてやろうと思う。


「仕事をさがしにきたんだけどぉ、どこにいけばいいのかわからなくてぇ。おじさま教えてくださるぅ?」


 どこからともなく、きゅるーん、という音が聞こえてきた気がする。

 きっと世界がわたしの味方をしてくれているのだろう。


「お、お嬢様……!?」


 わたしが子供らしい声でおねだりするようすを見て、リリアがぎょっとしていた。ふふん、どうやらわたしの演技力で度肝を抜いてしまったようだな。


 わたしだって見た目だけはまともなのだ。ちょっと愛想を尽くせばこんなのチョロい。


 スキンヘッドは「ああん?」と唸ってから、右の受付を指さした。


「あちらさんだコラァ! 歓迎すっぞオオイ!」

「ありがとう。ごめんあそばせ」


 わたしはスカートをつまんでお辞儀をすると、男の横をすり抜けて受付にむかった。


「ふつうにいい人でしたね?」

「くっくっく、きっとわたしの愛くるしさに悩殺されたのだわ」

「子供が子供っぽいことしただけでは……?」


 受付の列に並んでいると、わたしたちの番が来た。

 登録用紙に個人情報を記入して受付のお姉さんに渡すと、数秒ほど硬直していた。


「なにか?」

「あ、いえ……死霊術師ですか……」

「ええ、そうよ。お仕事ちょうだい?」


 首をこてんと倒して尋ねると、受付のお姉さんの鼻からブバッと血が噴き出した。


「きゃあ!? 大丈夫ですか!?」


 リリアが激しく動揺している横で、わたしはにやりとほくそ笑んだ。


「だ、大丈夫です……その、あまりにも可愛くて……」


 受付のお姉さんはハンカチを赤く染めながら血を拭っていた。


「か、可愛い……?」

「そんなことよりお仕事ちょうだいよー。おーしーごーとー!」


 わたしが畳みかけるように受付カウンターをばんばん叩くと、受付のお姉さんはさらに血を噴き出した。


 面白いぞ、この女。


「はわわわわ、キュート……! いえ、なんでもありません……えーっとですねぇ、エリュシア様におすすめのお仕事なんですが……」

「なんですが?」

「誠に申し訳ありませんが、現在は受注できるものがございません。せめてどなたか戦闘職の方とパーティーを組まれていただければと思います」

「戦闘職かぁ……」 

「戦闘職ですかぁ……」


 わたしたちは声を揃えていった。


 リリアはただのメイドだし、戦うことに関してはまったくの門外漢。というか門外ガール。


 であればあとはこのギルドに集まっている人たちに猛アプローチを仕掛けるしかない。


 まずはあそこにいる気の弱そうな冒険者グループだ。


「ねぇ、そこのお兄さぁん。わたしを冒険につれてって?」


 上目使いを炸裂したら、三人組の男たちはそろって鼻血を噴き出した。


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