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5-1

一日三話投稿で、これは今日の三話目になります。

「いやぁ、すごい真実だったわね。まさかこの街が猫によって守られていただなんて」

「そうですね」


 まさに驚き桃の木なんとやらだわ。


 いちおうルイスさんにはことの顛末を伝えたら、彼もまたずいぶんと驚いていた。


 とても驚いていたけれど、納得もしてもらえた。なんでもルイスさんのお爺さんから、この街ができたころから猫たちが住みついており、彼らは町を守る守護者なのだという話を聞いていたらしい。


 ルイスさんですら子供だましだと思っていたお話がまさか真実だったなんてね。


「で、なぜ俺はここにいるんだ……?」


 わたしの膝の上で、眼帯をつけた黒猫が呟いた。


「あんたは今日からこの店の猫になるのよ」


 前足の付け根をつかんでびろーんと伸ばすと、黒猫は「はぁ?」といって睨んできた。


「なぜ俺が人間に飼われなければならない! 我ら崇高な猫こそが人間を飼っているというのに!」


 こいつ、街の人間に対してそう考えていたのね。

 まぁ、どうでもいいけど。


「いまあんたが動けているのは、わたしの死霊術のおかげなのよ。それに、あの廃教会はわたしが買い取ったの。だから取り壊しもなくなったけど、もしあんたがうちの猫にならないっていうのならさっさと手放しちゃおうかしら」


 あの廃教会は猫たちの大事な集会所だ。

 せめてものお礼にと思って、わたしがあそこを買いあげて取り壊しを阻止した。

 おかげでここ最近の売り上げはぱぁだ。


「くっ! これだから人間は!」


 なんだかぶつくさいっているけど、逆らえないのはわかったらしい。

 実はわたしはこの猫に目をつけていたのだ。

 前足の真ん中に白いハートがあるこの黒猫を。


「あんたの名前は今日からネクロよ。よろしくね、ネクロ」

「ちっ!」 


 廃教会の出費は痛いけど、マスコットが手に入ったしいいとしましょうかね。


「いいことネクロ? お客様がきたら愛想を尽くして可愛らしく鳴くのよ? やってみなさい」

「ふざけるな! なぜ俺がそんなことをしなければならない!」

「やりなさい」


 わたしが指を鳴らすと、ネクロはぶにゃーんと鳴いた。

 あんまり可愛くないわ。


「な、なんで勝手に!?」

「あなたの意志と無関係にわたしはあなたを操れるのよ」

「くっ! 俺は屈せんぞ! 下等な人間め!」


 ネクロはそういって床に寝転がるとお腹を見せてきた。

 あれ、これって犬がすることだったかしら。まぁどっちにしろ屈辱的だからいいでしょう。


「あああああ! もうわかった鳴けばいいんだろう鳴けば!」

「はじめからそうやって素直になればよかったのよ。あ、ほら。ちょうどお客さんが来たみたいだからちゃんとやるのよ」


 店の入口がノックされ、わたしは「どうぞ―」と声をかけた。


 ネクロがにゃおーんと鳴いたが、わたしもリリアも絶句していた。


 入ってきたのは牛の仮面をつけた黒づくめの怪しい人物だったからだ。


「あ、あの……労働死者派遣サービスはここであってますか……?」


 鈴が転がる様な声が聞こえてはっとした。

 まさか、この牛仮面。女なの!?


「え、ええ……ここですよ。いらっしゃいませー」


 あしもとでネクロが「愛想はどうした」と呟いていた。うるさいわね。


 ひとまず牛仮面をソファに案内してコーヒーをだした。


 リリアはいつもどおり澄まし顔だ。自分は話さないからってずいぶんと余裕じゃない、まったくもう。


 牛仮面はじっとテーブルのコーヒーを見下ろしている。


 この人、たしか冒険者ギルドにいた呪われたパーティーの一人よね。


 なんで来たのかしら。


 まさか呪いを解いて欲しいとかそういう依頼かしら?


 だったら専門外だからお引き取り願おう。


「あ、あの、よかったらどうぞ?」


 とはいえいきなり追い出すのもはばかられるので、とりあえずコーヒーを勧めた。


「え! あ、はい! いただきます!」


 牛仮面が仮面を外すと、これまたびっくり。ずいぶんと可愛らしい顔立ちの女の子が姿を現した。


 薄い水色の髪で片目が隠れている。藍色の瞳は宝石みたいに光を反射していて吸い込まれそう。


 なのに、顔の左側から首にかけて黒い紋様が浮かび上がっている。


 そういえば呪いがどーたらって言ってたわね。


 紋様の少女はコーヒーを啜ると「あひゅい!」といって飛び上がっていた。


 ドジなのかしら。


「あ、大丈夫ですか!? すぐお水をお持ちいたします!」


 リリアがすぐに動き出したが、紋様の少女は手を突き出した。


「い、いえ、おかまいなく……いつものことなので……」


 どうやらドジで引っ込み思案な性格らしい。

 どこかエルレインと似ていて親近感が湧いてきた。


「それじゃあまずは自己紹介からしましょうか。わたしはエリュシア・ブラッドリィ。この労働死者派遣サービス、クロネクロのオーナーよ」

「あ、えと、わたしはサナ・ハナトリアムといいます」

「サナさんはなんの御用でいらっしゃったのかしら?」

「ええと、実は……恋の相談をしに」

「……恋? あ、ごめんなさい。呪いと聞き間違えたかしら? オホホホ」

「いいえ、恋です。恋愛相談に乗ってほしくてここに来ました」

「なんで!?」


 呪いはもとより恋愛相談なんてもっと専門外だ。


 なんなら生涯未婚を志しているわたしに相談するなんて絶対に間違っている。


 いったいどのような経緯でここに来ることになったのだろう。


「ええと、サナさんはどうしてここに恋愛相談をしに来たのかしら?」

「実はーー」


 サナさんは事の顛末を話し始めた。


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