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一日三話投稿で、これは今日の二話目になります。
わたしたちが街の中央広場に到着すると、たしかにレッド・ドラゴンがいた。
赤い鱗に巨大な翼。鋭い爪を備えた四肢は完全に成熟したドラゴンだ。
レッド・ドラゴンは火を噴いて暴れまわっている。
「グオオオオ! 五百年ぶりに帰ってきたと思えばなんだこれは!? われの森は!? われの故郷はどこへいったのだああああ!」
ドラゴンは爪で建物を傷つけ、尻尾を叩きつけて地面にヒビをいれていた。
故郷ってことはあのドラゴンが出かけている間にこの街ができちゃったってことなのかしら。
五百年ぶりの里帰りで実家が街になったから怒っているのかしらね。
「あなたの故郷はもうないわ! 悪いけどどこかへいってちょうだい!」
わたしがそういうと、ドラゴンがこちらを睨みつけてきた。
さすがに生きたドラゴンに睨みつけられると生きた心地がしない。
「ふざけるな人間どもが! われの土地を返せ!」
ドラゴンがこちらに向かって突進してきた。
このままだとやばい。あんなのに接近されたら頭からがぶりだ。
「くっ、しかたないわね……来なさいドラちゃん!」
わたしはドラちゃんを呼び出してレッド・ドラゴンの前に着地させた。
大会の後でちゃんと縫いなおしといてよかった。
「なんだこの死にぞこないわ!」
レッド・ドラゴンが爪で切り裂くと、ドラちゃんはたやすく縫い目が切れてしまった。
ああ、せっかく縫い直したのに……半身になんてもドラちゃんはレッド•ドラゴンに襲いかかったが、こんどは尻尾でしばかれ、足蹴にされた。
こうなったら術式解放しかないか。
そろそろドラちゃんの肉体がもたないかもしれないけど、躊躇している場合じゃないわね。
わたしがそうおもっていると、足の間を小さななにかがすり抜けていった。
猫だ。
猫の大群がわたしたちの足元を駆け抜けてドラゴンに向かっていった。
「いけー! 同胞たちよ! 我らの国を守るのだああああ!」
先陣を切っているのはあの黒猫だ。
猫の大軍はドラゴンにからみつき、小さな牙を何度も突き立てる。
どんなに振り払われても見事に着地して何度でも攻撃を仕掛けていた。
「おのれ人間どもとつるむ森の裏切者どもめ! 燃やし尽くしてくれるわ!」
ドラゴンが火を噴こうとしたその時、猫たちが山となって積み重なり、その背を黒猫が駆けあがった。
「うおおおおおおお! 貴様に奪われたこの目のこと、忘れたとはいわせんぞおおおお!」
黒猫の爪がドラゴンの右目を切り裂いた。
普通の威力ではない。明らかに魔力を伴った斬撃によって、ドラゴンは右目から血を噴き出した。
「ぐおおおおお!」
ドラゴンが暴れまわり、落下中の黒猫に尻尾が直撃した。
黒猫は地面を何度かバウンドして、わたしの足元まで転がってきた。
わたしはすぐに黒猫を抱きしめた。
「ちょっと! しっかりしなさいよ!」
「ドラゴンは……やつはどうなった……」
黒猫は息も絶え絶えにそういった。
顔を上げると、ドラゴンは飛び立とうとしていた。
「くっ! 森はない! 目は痛い! これ以上こんなところにいられるか!」
そういってドラゴンははるか彼方へと飛びさっていったのだった。
「ドラゴンはどこかへいったわ」
「そうか……」
「あ、ちょっと」
黒猫はわたしの手から飛び降り、よろめきながら猫たちの前に歩いていった。
一匹の白い猫が黒猫に近づいてきた。
二匹は向き合うと、黒猫はスカーフをとって、白猫にさしだした。
白猫が口で受けとると、黒猫は「あとはまかせたぞ、二代目……」といって倒れたのだった。
黒猫が死に、猫たちがいっせいににゃーにゃーと鳴きはじめた。
意味が分からなかったけれど、わたしたちもなんだか涙が出てきてしまった。
「人間たちよ。迷惑をかけたな」
赤いスカーフを受け継いだ白猫が近づいてきて、そういった。
「迷惑だなんて……あなたたちはこの街を守ってくれたんでしょう?」
わたしがそう答えると、白猫は目を見開いた。
「こいつは驚いた。我々の言葉がわかるのか」
「ええ、そうよ。だから教えて。あんたたちはいったいどうして街を守ってくれたの?」
白猫は事情を教えてくれた。
もともとこの街があった場所には森があったそうだ。
そこでは猫たちはもちろん、様々な生き物が住んでいた。
さっきの猫は、当時からここに住んでいる猫妖精で、森の秩序を守る番人……というか番猫だったらしい。
森が町になったあとも、ずっと守ってくれていたそうだ。
さっきのドラゴンは五百年に一度の周期で森にやってきては暴れる厄介な存在だったらしく、黒猫はずっと昔からあのドラゴンを追い払ってきた。
今回もまたその戦いだったのだが、長年の傷が原因で黒猫は弱っていた。
黒猫は前々から自分が死んだら二代目はお前だと、お前がこの街を守るのだと白猫に言い聞かせていたらしい。
「この街にはやたらと猫がいるのは、ケット・シーの血を受け継ぐ長命種ばかりだったからなのね」
「そういうことだ人間。君たちは安心して暮らすがいい。いつだって、我々が見守っているのだから」
白猫はそういって、にゃあ、と鳴いた。