プロローグ2
自己紹介の後は“テスト”とやらをやらされた。
何だったんだろう、あれは。少し疲れた。
その後はみんなで外食した。
先生が八人乗りのバンを出してくれた。
店は、小さなイタリアンレストランで、照明が少し薄暗くなんだかお洒落な感じだった。
暖かい日だし、せっかくだから、と言って先生は僕たちをテラスの席に案内した。
テラスからは満開の桜が見えた。
夜桜だ。
店の庭に植えてあるらしいそれは、下からライトアップされ、上からは月の光があたり、とても幻想的な雰囲気を放っていた。
僕はもとより女の子たちは、すごいだのきれいだの歓喜の声をあげて騒いでいた。
店は食事も値段がそう高くないわりには美味しくて驚いた。
ただそんなことよりももっと驚くことがあった。
三島りさが大変なお喋りだということだ。
バンに乗った時から彼女は歌ったり、窓から顔をだしたりせせこましかったのだが、食事中にはそのせせこましさが全部口に集中したらしい。
そう思うくらいに、とにかく彼女は間断なく喋り続けた。
自分は大阪から来たこと、わざわざ転校してきたこと、両親を説得するのにすごく骨が折れたこと、両親が先生と知り合いだったから結局上手くいったこと。
転校した先では水泳部に入ること、どうやらその中学は五月女と一緒であるらしいこと。
まだあった気がするが、これらのことを機関銃のようにしゃべり続けた。
唖然とはしたが、別に不快ではなかった。
彼女は話すのが上手いのだ。何でもないようなことでも笑いに変えてしまうくらいに。
それに彼女は常にしゃべり続けてはいたが、“彼女だけ”がしゃべっていたわけではなかった。
三島は自分の話を軸に色んな人に質問を振り、茶々をいれては笑いを取り、また自分の話にもっていっていた。
お蔭で、“初対面”という緊急はすっかりほぐれ全体的にだいぶ打ち解けた。
おそるべし女子中学生パワーである。
さらには、
「ななみちゃん」
「あおいちゃん」
「りさちゃん」
なんて、女の子連中はもうお互いを下の名前で呼び合うまでになっている。
しかし困ったことに僕は、思春期オーラ全開の宍道、そもそも人間に興味がなさそうな五月女とはついぞ打ち解けることができなかった。
ワインを飲んでしまった先生のかわりに、帰路は僕がハンドルを握った。
まだ引越しが済んでいないため、今日はみんな研究所の休憩室に泊まることになっている。
先生は僕の隣で酔いのためか船を漕いでいる。
こっくりこっくりする度に大きな体が揺れて面白い。
あんだけ喋りまくったにも関わらず、ニ列目の三島の口を閉じることはなかった。
ところどころ二ノ宮さんと七海の声が交じる。
一番後ろの宍道と五月女は対照的にだんまりだ。
中高生は、お互いに交流する気はあまりないらしい。
僕は小さくため息をついた。
ここは自分が歩みよらなければ。三島みたいに。
ふと、女子中学生を目標にする男子大学生という言葉を思いつき、今度は苦笑した。