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夢の中の秘密基地


気付くと、本棚だらけの部屋にいた。

暖かい色の照明、木の机、座り心地の良い椅子とソファ。カウンターのようなものもある。

机には、僕の知らない面白そうな本が何冊も積まれていた。

窓が少し開いていて、入り込む風が気持ち良い。


「ここ……どこだろう?」


出入り口が見当たらないな、と思った瞬間、壁にドアが出来た。


「えっ、」


もしかして、と思い、机を見る。


「叔父さんのレモネードが飲みたいな」


小さく呟いてみると、机にレモネードの入ったグラスが現れる。やっぱり。


「これ、夢?」


言ってみると、肯定するかのように景色が一瞬揺らいだ。けど、部屋は変わらずに在る。

そうだろうなと感じていたけど、いざ夢と分かると実在しないのがとても惜しい。

僕は、ソファに座ってみた。ふかふかだ。

見上げた天井が高い。段々、気分が落ち着いて来る。

知らない場所のはずだけど、不思議と懐かしいような安心するような、そんな気持ちになる。

理想の部屋や空間なんて、普段考えたことはなかったけど、こんな部屋なら良いな。

他に誰も居ないし、と思って、ソファに寝転ぶ。

何だか、無性に夜空が見たくなった。

すると、天井がプラネタリウムみたいに夜空に変わる。照明も少し暗くなった。


「本当に夢なんだ……」


しばらく無心で夜空を見る内、前に叔父さんに言われた言葉を思い出す。


「……夢は、僕がそうと望めば、いくらでも変えられる」


こんな夢は、今日が初めてだ。穏やかなのに、まるで現実みたいな。

現実みたいな夢は、今までも何回か見てきたけど、何となく、夢というより異界に迷い込んだみたいな怖さや落ち着かなさ、不自由さがあった、と思う。

そこまで考えて、僕は寝転んだまま、部屋を改めて見る。

暖かな雰囲気、癒され、安心出来る場所。僕の望みがそのまま反映される空間。


「秘密基地、みたいな。――なんて」


子どもっぽいな、と自分で笑ってから、手に何か持っていることに気付く。


「……鍵?」


アンティーク調の鍵。

亀と金魚の彫り物がされていて、かなり特徴的だ。


「ふふ、万寿と伽羅みたい」


僕のお守りと叔父さんのピアスが浮かんで、思わず笑う。

これは、大事なものな気がする。この部屋の鍵、とか。

僕は少し考えて、もしまたこういう現実みたいな夢を見た時は、笛と一緒に首から提げておくことにしようと決めた。

決めた瞬間に、もう鍵は首元に揺れている。


「夢を変えられるなら、楽しくて穏やかな夢にしたいな」


この部屋みたいに。

鍵に触れながら、また天井の夜空を見上げる。

無数の煌めきを見上げる内、気分の良い眠気が来た。夢の中で寝るなんて。うとうとして、そのまま何も分からなくなった。


気付いたら、弥命叔父さんのお店にいた。

カウンターの隅の席で、状況が分からず混乱していると、叔父さんがくつくつと笑って僕を見た。

もう閉店したようで、お客さんは誰も居ない。

聞けば、このお店に来たがっていた人を案内して一緒にお酒を飲んだ後、僕だけ寝てしまったらしい。全然覚えていない。


「すみません……そんなに飲んだんですか、僕」


恥ずかしいやら、呆然とするやら。

へこんで謝ると、叔父さんは笑って首を横に振る。その人はそういう客で、ここをかなり気に入って楽しんで帰ったから、むしろ有り難いと言って笑った。よく分からない。

僕は水をもらって飲みながら、店内をぼんやりと眺める。静かだけど落ち着く空間。

あの部屋の夢。

まだ鮮明に覚えていると同時に、何となく納得した。

丸きり知らない部屋じゃなかったのだ。

不思議そうな顔の叔父さんに、どうした?と聞かれたけど、僕は笑って


「いいえ、何でもないです」


そう、答えた。これは内緒だ。

きっとまた入れるだろうあの部屋は、僕の秘密基地なのだから。今のところ。





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