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身代わり金魚

夜の縁側。

弥命は一人、煙草を吸っている。

のんびりと一本を吸い終え、見るともなく庭を見ていると、心地良く吹いていた風が、不意に止んだ。


「……ん?」


庭の木々の影から、影絵のような黒く大きな獣が飛び出した。口を大きく開け、飲み込もうとするように、弥命目掛けて飛んで来る。


ばしゃん。


水に何かを叩きつけるような音が響いたと思うと、獣は急に怯みだした。

獣は弥命から距離を取ると、そのまま、庭から消え去る。

弥命が息をつくと、シャツの胸ポケットの中で、パリン、と何か割れる音がした。取り出すと、小さなガラス細工の金魚。友人である、ヤリハルが作った物だ。真っ二つに割れていた。


「……さんきゅ。最近、あんまこういうの無かったから、油断した。旭が来てからは、少なくなったと思ったが……」


弥命は指で、割れた金魚を撫でる。

小さなガラス細工の金魚は、弥命がヤリハルに頼んで作って貰ったのが最初だった。この金魚は、弥命が怪異に遭い危険が迫る時、身代わりとなって割れる。今まで、何個も割れて来た。

弥命は、そうと知って作らせた訳ではない。純粋に、ヤリハルの作る金魚を気に入っていたのである。今でも、何故割れるのか、守られているのか、弥命もヤリハルも詳しくは分かっていない。

頻繁に割れる金魚を見、ヤリハルは怒り心頭になりながら、今でも弥命の為に新しい金魚を作っている。

金魚だった朱い欠片を傍らに置くと、弥命は再び煙草に火を点けた。


「ヤリハルに、また怒られるな。面倒くせぇ」


左耳の、大きな朱い金魚が揺れる。自嘲気味に笑い、弥命はゆるりと煙を吐き出した。



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