正装
結婚式の式場であるホテルのロビー。
旭はブラックスーツに身を包み、所在なさげに佇んでいた。
「旭」
後ろから呼び掛けられた旭は、振り向いて目を丸くする。
青い髪をきっちりと撫で付け、ブラックスーツを着こなした男が立っている。
気怠げに時計を見る様子は色気もあり、旭はハッと目を奪われた。
「もう受付終わったか?」
よく知ってるように話しかけてくる男に、旭は一瞬曖昧に笑う。
(こんな知り合いいたかな……?)
男は怪訝な顔になって、旭の顔を覗き込む。
「旭?」
その男をしばらく見つめ、旭は、こてんと首を傾げた。
「あの……どちら様でしょう?」
男はがくりと項垂れる。
だが直ぐに、旭を睨んだ。
「おい!俺だよ、俺。弥命!」
「え。え!?弥命叔父さん?」
「マジかよ……頼むぜ、旭くん〜」
弥命は、旭を頬を緩く引っ張る。
「わっ、すみません。いつもと違い過ぎて……」
「喪服姿、見てるだろ」
「髪型は変わってなかったじゃないですか。そういう風に前髪も上げて無かったですし、金魚のピアスも着けてましたし」
「ピアスはこれから着けるんだよ。――露骨に、あんた誰?って顔されると傷付くな」
顔を曇らせる弥命を、旭は慌てて宥める。
「僕が悪かったです。機嫌直してくださいよ。結婚式なんですから」
弥命は旭の頬をもう一度軽く引っ張り、息をつく。
「顔色悪いけど、調子悪いのか?」
「え。まあ、その……」
旭は辺りを見回した後で、声を潜める。
「さっき、血染めの斧を持った赤いドレスの女性が、ロビーの螺旋階段で昇り降りを繰り返してたんですけど、誰にも見えてないみたいで」
弥命は、面白そうに笑って旭を見た。
「ふうん。ま、ここ幽霊出るって有名だしな」
「ええ?」
旭は、目を丸くする。
それを見、弥命は更に笑う。
「よくここで式挙げるなって感心した」
旭の肩を叩き、弥命は会場へと促す。
「ま、何かあったらさっさと抜け出そうぜ。こんな格好させられて、今帰るのも癪だしな。それに、」
「それに?」
後を追いながら、弥命の背へ旭は問いをぶつける。弥命は肩越しに振り向いて、不敵に笑う。
「俺まだ機嫌悪いんだよ。この姿も旭に覚えてもらわないとな」
旭は一瞬きょとん、とした顔になった後、顔色を失う。
「まだ怒ってるんですか?」
焦ったような旭の声を聞きながら、弥命は楽しげに笑った。




