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ゲームセンター


「タテちゃん!ゲームセンター行こうぜ!」

「ヤマト。何、突然」


学食でお昼を食べた後、本を読んでいたら、友人のヤマト――矢的豪太(やまとごうた)――が隣に騒々しくやって来た。金髪に、金色の丸いイヤリングや、じゃらじゃらしたイヤーカフがうるさい見た目の男だ。黒シャツにジーパンと、服装はいつもシンプルなのに。


「置いてるゲームが、全部古すぎてヤバいゲーセンがあるって聞いてさー。面白そうだから行ってみたい!」

「ヤマト、友達たくさんいるじゃん。そっちで行ったら?」

「やだ。絶対こういうの好きな連中じゃないもん!タテちゃんなら付き合ってくれるけどさー」

「じゃないもんて……。それ、何処にあるの」


呆れながら聞くと、ヤマトの目がパッと輝く。


「さすがタテちゃん!分かってるー!」


妙に不愉快だけど、話が進まない。僕は文句を言う代わりに、ヤマトを促す。ヤマトはスマホを出しながら続けた。


「駅近くにあるらしくてさ。今日、タテちゃんバイト休みでしょー。善は急げで今日の夜、飯食ったら行っちゃお」


いつもながらフットワークの軽いやつだな、と感心しながら僕は了承した。


そのゲームセンターは、大学最寄り駅近くの雑居ビル内にあった。

看板は無いが、『三階ゲームセンター【プレイランド】』と書かれた小さな案内板はある。階段を上がった先は、しん、と静まり返ったフロア。目の前に、開かれたドアがある。ドアの上には、【プレイランド】と【ご自由にどうぞ】の看板。中に入った途端、微かな喧騒に包まれる。そこは確かにゲームセンターだった。


「本当にあったよ!すげー!」


ヤマトは興奮した様子で、近くのクレーンゲームに突進する。僕もその後に続く。カラフルなくまのぬいぐるみが入っていた。機体のガラスは曇っているし、古めかしい。お菓子を掬って落とすゲームや、アーケードゲーム、コインゲームなどもある。だけど、そのどれもが古い。噂通りだ。ふと気付いて、辺りを見回す。スタッフさんが居ない。完全な無人。少し不安になる。


「ここ、本当に入っても良いの?」

「ドア開いてたし、電気も点いてるんだから大丈夫だって!それに、ご自由にどうぞって看板あったじゃん」


それもそうか。

元気いっぱいなヤマトの答えに納得し、僕もフロア内を歩いてみる。クレーンゲーム、コインゲーム、アーケードゲーム、狭い範囲を一周する、子ども用の電車、もぐら叩き、エアーホッケー。古いだけで、いろいろ置いてある。


「ん?」


僕は奥の方に、長い箱のような物を見つけて近付いてみた。


「うわ」


曇ったガラスケースに入った、日本人形だった。かなり古い。髪もざんばら気味だ。ケースはその下の木製の箱のような物と繋がっていて、箱には『占』と彫られている。詳しい説明板のようなものもついていて、どうやら、お金を入れると占いの書かれた紙が一枚出て来るらしい。見た目はアナログだがちゃんと機械仕掛けのようで、ガラスケースがぼんやりライトアップされている。

怖い。


「何これすげー!」


僕の声を聞いたらしいヤマトがやってきて、感嘆の声を上げる。


「やってみよ!」

「ええ……やるの?」


見た目の気味悪さもそうだが、こんな古い様子で正常に動くのか。


「百円だろ?物は試し!」


ヤマトは、さっさと百円を入れた。ガタゴトと不穏な音を上げながら、紙が吐き出される。


「どれどれ……?『階段注意。引き出しにあり。難は避ける。』だって!意外と普通なこと言ってる。タテちゃんもやってみろよ」

「じゃあ、」


百円を入れる。

ゲームセンターのおもちゃみたいなものなのに、酷く緊張した。同時に、誰かに見られているような気もする。辺りを見回したけど、ヤマト以外誰もいない。視線を戻し、出てきた紙を見る。


「『二度目もあり。気に入られる。お守りを離すな。』……よく分からないな」

「まあ、こういうのってそんなもんでしょ」

「そりゃそうか」


肩の力が抜ける。

紙はポケットにしまった。それからは、エアーホッケーを何回かやってからそのゲームセンターを後にした。結構白熱して楽しかった。ビルから出て、僕らは思わず足を止める。


「え。何で明るいの?」


外が明るい。

夕飯を食べて、夜になってから入ったはずだ。二時間もいなかったはずなのに。スマホを見て驚いた。日付を超えて、朝六時。このビルに入ってから十時間以上経っている。スマホから顔を上げたヤマトと、目が合う。可哀想なくらい青い顔をしていた。


「なんで?」

「さっき、ゲーセンの中スマホで撮ってたよね。その時は何時だったの?」


SNSに上げると、ヤマトがスマホで写真を撮っていたのを思い出しながら聞く。


「時間なんて見てねぇよ〜。八時過ぎくらいだったと思うけど。日付も変わって無かったし」

「僕も体感的にはそのくらいだと思う。写真は撮れてる?」


ヤマトは、写真を見せてくれた。


「あれ。こんな暗くてボロボロだったっけ?」


何枚も写真がある。映っているゲームはどれも間違っていないが、フロアを含めて全てがまるで廃墟のような朽ち具合だった。確かに古かったけど、電気は通っていたし普通に遊ぶことが出来るくらいの状態だったはずなのに。僕らは顔を見合わせる。ヤマトはもう、泣きそうになっていた。


「どうなってんの?ここ、レトロゲーム置いてるだけのゲーセンじゃないの?」


そんなことを言われても、僕だって分からない。僕らは、出て来たばかりの雑居ビルを振り返る。閉じたガラス戸の向こうは薄暗く、もう一度入る元気も勇気も、僕らには無かった。半泣きのヤマトを大学近くの自宅アパートまで送り、僕も帰路に着く。一件だけ、叔父さんからメッセージが入っていた。


『朝帰り?珍しーね』


その文面を見て、気付いたら少し笑っていた。無事に帰れて良かったと思う。



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