ショートショート 昭和のお浣腸物語2-2
昭和の中頃、子どもの頃の家庭医療、姉弟とのお浣腸の思い出について
内容描写に不愉快な部分もあるかと思いますので、ご容赦下さい
ショートショート 昭和のお浣腸物語2-2
朝の食事が終わり、片付けをしながら、
「おねえちゃん、ひろくん、お腹の調子はどう?」
2人とも黙々と遅めの朝ご飯を食べ終わり、お茶を飲んでいます。
「大丈夫だよ。これから、遊びに行っていい?」
「いいけど、また野球?」
娯楽の少ない当時は、男の子の大好きなものと言えば、「巨人、大鵬、玉子焼き」。この時代の定番です。巨人が好きか嫌いかではなく、人々は野球中継に熱狂し、子供は空き地で盛んに草野球をしたものでした。当然、ひろくんもご多分に漏れずの返事です。
「そう!」
「どうせ、お昼も帰ってこないでしょう?先に宿題やってからなら、いいわよ」
「はーい」
ひろくんは、もうすっかり元気になったようで、野球に行きたいために先に宿題をするのでしょうか、2階の子供部屋に駆け上がっていきます。昨夜、二人とも別々に施浣されています。ひろくんはどうにか排便迄、出来ましたが、お姉ちゃんの方は、残念ながら排便できませんでした。
「お姉ちゃんは?ご飯、残しちゃったね」
調子が悪いままのようです。その証拠に普段から小食ですが、今日はさらに残してしまいました。
「お母さん、ちょっと町の薬局店まで行ってくるから。調子悪くなったら寝ていていいからね」
この町は、今でこそ駅ができて新市街が発展しましたが、そこから離れて鉄道開通前の時代から交通の要所として街道筋を中心に栄えておりました。つまり新町と古町の2つの地域から、市街ができています。お目当ての薬局店は、町役場や郵便局、消防本署などが連なった古い家並み中にあります。それ故、一旦、駅までバスで向かいそこから少し歩きますので、1時間ほどかかりましたが、なんとか午前中にお店に着きました。店の外壁には、この時代よく見る今も売っている軟膏薬や頓服薬や栄養飲料のの役者さんの顔付看板に混ざりながら、軽便浣腸を製造する有名な製薬会社兼外用薬の名前が記された琺瑯挽きの看板が出されています。看板を一瞥してお店に入ります。まだ他のお客さんも来ていないようです。店員さんもいませんが、正面のガラスケースには、青地に白十字のパッケージのお目当てのものがあります。
「ごめん下さい」
お店の人に呼びかけます。何度か呼びかけて、奥から声が聞こえました。
「はい」
大人の女性の声で、返事がありました。その声に返すように、
「ごめん下さい」
と言うと、
「いらっしゃいませ。少々お待ちください」
とまた返事がありましたが、なぜか小さな女の子が出てきました。
「なんにしましょうか?」
薬剤免許のない子供に、薬屋の店番をさせるなんてと思わないで下さい。昭和のこの頃にはよくあったことで、懐かしくもあります。ひろくんのおかあさんも、女の子の返事に対して少々面喰いながらも、薬剤の並んだケースを指さします。
「これ、頂けますか?」
逆に今度は女の子がその指を目で追います。すると、恥ずかしさからでしょうか言いよどんだ感じで返答をします。
「お、おか…、こちらのお薬ですか?」
お浣腸の意味を知っていて決して(かんちょう)とは言いません。幼い声で少々あいまいに返事をします。そのため、意思を通じるために、買い求めに来たお母さんは具体的に商品名の復唱の返事をしました。
「はい。そちらの軽便浣腸30を頂けますか?」
何度も浣腸と言われて少なからず顔も赤らんだ感じがします。その女の子にとって、恥ずかしかったのでしょうか?間を開けて、また商品名を名乗らず商品を手に取りました。
「こちらですね?」
と商品を確認した時に、中年と呼ぶには少し若い女性が奥から出てきました。
「いらっしゃい。お待たせしました。洗い物をしていたので手を止められなくて…それで、何かお入り用ですか?あー、こちらね。ちーちゃんもういいわよ。ありがとう。お洗濯たたんでおいてね」
自宅の軒先に作った小さな薬局です。きっと家事をしていたのでしょう。その女の子が店の奥に消えるのを確認すると、目の前にある商品を手に取ります。
「お待たせしました。こちらの軽便30ですか?」
「はい。このお浣腸を頂こうかと」
「軽便浣腸の30と……お便秘にご使用ですか?」
今なら浣腸をする人に便が出なのですかとは、わざわざ聞くこともないですが、この時代は便秘以外にも熱を出したり、ひきつけを起こしたりしたときなどにも使われたので、あえて聞いたのでしょうし、お医者さんの代わりに薬のことを聞いたり、容体の相談をする機能があったので、取り留めて不思議ではなくむしろ自然な流れです。
「はい」
「いかほど、お入り用ですか?」
「6個ほど」
「まぁ、6個もお入り用ですか?どなたがお使いで、奥様ですか?」
この時代は、お徳用パックなどは売っていませんでした。あるとすれば精々、問屋から薬局に降ろされる際に、ダース単位の箱で、売値は軽便が2つ入った小箱の小売価格に掛けるダースなので、その価格もかなりな金額になり全く持ってお徳用ではありませんでした。このためこの時代は、小箱を1つか2つ入用な分だけを買い求めたものでしたから、店の方も驚いたのでしょう。
「いえ、私も使うかもしれませんが、子供たち用にです」
「あら、そうですか?どうりでたくさんお求められるのも、ご家族でお入り用なんですね。そのお子さんは、大きいんですか?」
「上が女の子で中学生、下が男の子で小学生の高学年ですが、2人とも小柄で、さっきの女の子くらいの背丈です」
「そうなんですか、それなら軽便の20を1つで十分かと。うちの娘にもよくかけてあげますが、大概は20で十分ですよ。昨日も使いまして、しっかりお通じつきましたのよ」
不運にも薬屋の娘。それで、お顔が赤らんだのでしょうか?自らの身体を使って宣伝効果抜群です。
「それが、実はですね。昨日、軽便20を使ったんです。お姉ちゃんの方は出なくて、弟の方はようやく出た次第で、効果が出ないので追加しようと思ったのですが手持ちの軽便浣腸もなくなってしまって。それで、子供たちには可哀そうなことをしたものですから…」
子供たちにとっては、浣腸を1つされたことがすでに可哀そうなことで、それが追加の薬が無いから可哀そうだなんて全く思っていません。が、立場が違うと物は言いようで、追い薬をしてやれなかったので排便に至るまで苦しませたり、お姉ちゃんに至っては排泄させてあげられなかったと心底思っているのです。
「だから、今度はちゃんと苦しまずに出させてあげたいと思いましてね」
「それは、それは。息子さんはさぞ、出るまでが大変だったでしょうね。で、お家のお嬢様はまだお便は出てないんですね」
「そうなんですよ。困ってしまって。お便が無いのをしばらく放っておいたものですから。その時に、お隣さんから余って頂いたとはいえ軽便もお借りしたので、そのお返しも」
「奥様もお便秘ですか?」
「はい、恥ずかしながら。そのなんというか、子供たちは体質が私に似ちゃったんでしょうね」
「ご使用頻度はどのくらいですか?」
「しばらく浣腸を使わなかったんですよ。それで今回、便秘をこじらせてしまいましたので」
「使わなかったって、便秘になってどのくらいですか?」
「下の子は、4・5日、上の子は1週間ほどで、浣腸を掛けましたら下の子は何とか出ましたが、上の子は出なくて…」
「まあ、そんなに長く。2日無かったら、3日目には浣腸かけてあげないと。だんだん硬くなっちゃって水分がなくなって便が出にくくなりますのよ」
「分かっていたのでそうしたかったんですが、嫌がりましてね…」
「それはそうでしょうけど、子供の健康が一番。体調が悪くなったら、便秘でも風邪でもすぐに浣腸かけないと、今回みたいにカチカチになって浣腸でも出にくくなりますよ」
「はい。これからは分かり次第、すぐに使用したいと思います」
「分かりますよ、ご家庭の事情がおありでしょうから。でも便秘は油断大敵ですよ、すぐに掛けてあげて下さいね。それで、お便の頻度は如何ですか?」
「私も子供たちもまぁ、週に1・2度くらいでしょうか」
「それなら、お浣腸も週に1・2度しないと」
「子供たちに私もだから、えーっと、週に6回?まぁ大変」
「そうでうね、週に1・2度、各人にするとして、3人となると、延べると毎日する勘定ですね。それならリスリンにしては如何ですか。その方が経済的ですよ」
「リスリン?あの水で割ってするお薬ですか?」
「そうです。こちらのガラスはお持ちですか?」
お店に他にお客さんがいないせいでしょうか、色々と聞かれ、同じくショーケースに入っていた、ガラス浣腸器まで持ち出されました。
「はい、ございます。子供たちが生まれた時に助産婦さんから頂きましたので。2本ほど、押し入れにずっと仕舞ってありますが」
「そうでしょう。それなら、お使いなさいな。ずっと経済的ですよ。軽便は緊急時に常備薬にしては」
「そうでしょうか?ガラスの先が折れませんか?子供たちもじっとしてないですから」
「お子さんにお浣腸掛ける時、どうしていますか?」
「昨日は中腰で立ったまましましたが、大概は四つん這いですね」
「そうでしょ。それじゃ、じっとしていられませんよ」
「ではどうすれば?」
「ちょっと待っていてくださいな。ちーちゃん!ちょっとこっち来て」
お勝手の方に顔を向けると、さっきの娘の愛称で呼んでいます。しばらくすると、丈に短い吊りスカートにブラウス姿の娘のちーちゃんが出てきました。
「なに?お母さん。まだ、お洗濯物、畳んでないわ」
「それは後で母さんがするから。それよりこっち来て手伝って頂だい」
お店と自宅を隔てる暖簾の隙間から顔だけを出していた娘に、母親の店主は手で招いています。
「ちょっと、そこに仰向けに寝てくれる?」
そう言われて、コンクリートの床に置いてある、来客用のソファーに促されます。そうそう、何故か、この頃の薬屋さんには、狭い店内ながらもソファーが置かれ、それだけではなく小さい机には、灰皿とライターなんかもおかれて、喫煙もできたりしました。そのソファーに何をされるか分からないまま、寝かせられるのです。
「仰向けにねんねしてみて」
そんな中でちーちゃんは何にも分からず仰向けになると、お母さんに足を掴まれています。
「仰向けに寝かせて、足をこう持って、そうするとお尻が固定されて動かないでしょう?それに浣腸器本体にもこのゴム管をつけるの。先が割れないように保護にもなりますし、第一、直腸の奥までお薬が入るのでよく効きますよ。兎に角、砕石位にすると、身体も安定しますよ。奥様が自分でなさる時にも便利ですよ」
すっかりスカートが捲れて白い下履きが露になったところに、肛門部と思しき場所にゴム管の先端をあてがいます。すると、
「お浣腸、いや!」
余程危機感を覚えたのでしょうか、さっきまで決して口に出さなかった(かんちょう)という言葉が、とっさに出てきました。
「大丈夫よ。今はしないから」
この場で浣腸をされると思い慌てたようですが、すぐに足を掴まれてお尻も固定されて動けません。
「こうすれば、楽でしょ」
「あら、本当ね」
2人の会話を聞きながら、ちーちゃんも、本番じゃないとわかり落ち着いたようです。でも今はしないと言うだけで、きっといずれ近いうちにされてしまうのでしょう。薬屋の看板娘も楽ではありませんね。身体を張って、商品の説明に役立たなくてはなりませんから。それにしても買い求めに来たお母さんは先ほどから処置方法について聞くばかりですが、同じ浣腸でも、色々と勉強になります。
「リスリンは50%になる様に割ればいいだけです。概ね100㏄の浣腸液作るなら、リスリン50、水50。ぬるま湯、40℃位で割ると水で割るよりよく効きますし、お腹も渋まなくて済みますよ」
これも一緒にお買い上げねとばかりに、目の前には、軽便浣腸30を6箱に、リスリンの瓶と橙色の管も目の前に出されました。
「どうしても我慢する時や排便後のお漏らし心配なら、おしめをすると良いですよ」
「そうなんですか?」
「はい、それにこれをすると、ぎりぎりまで我慢できますよ」
「おしめはあるけど…カバーは無いわね。こちらにはカバーもあるのかしら?」
「はい、ございますよ」
小さいお店なのに品揃えのいいこと。
「万一、夜、お休み前にお浣腸して残便感があっても、安心してお休みできますよ」
要は、寝ながら排泄してしまう場合にも、用心できるということです。
「では1つ頂こうかしら」
「はい、ありがとうございます。先ほど小柄な中学生と高学年のお子さんと伺いましたが、それでしたら、10-11歳児の中児用で良いかと」
「ではそれ、1枚下さいな」
色々、出費がかさみましたが、色々ためになる話も聞けましたので、勉強代も払ったと思えば、安い買い物だったかもしれません。
他に食材などと一緒に浣腸道具が入って一杯になった買い物かごを抱えて、来た道と逆に駅前からバスに乗り、お昼過ぎに家に帰りつきました。
「ただいま」
「おかえりなさい」
お姉ちゃんの声が聞こえます。
「ひろくんは、どうしたの?宿題、終わったかしら?」
「野球に行きたい一心で、ちゃんと宿題していたわよ。お腹空いたって言うからおにぎり作って、さっき食べて、出っていたわ」
「代わりに作ってくれたのね?ありがとうね」
「おかげでご飯の残り、無くなっちゃった」
「まぁ、そんなに食べたの?それなら当分帰ってこないわね。お父さんも朝から会社の人と釣りに出かけているから…私たちもご飯食べようか、何がいい?」
とお母さんが聞く合間も、本人も気になるのかお姉ちゃんはおなかを擦っています。
「どうするのご飯?」
「あまり食べたくないな…」
「おねえちゃん、朝も食べてないじゃない。やっぱり具合悪いの?お腹?」
「うん、でも浣腸は嫌だな。お薬買ってきたの?」
「買ってきたわよ。ほら」
あまり見たくないものですが、調子が悪くて、結果次第では病院に行く必要もあるので、どうしても気になります。でも、まだ、袋から出しません。
「どうする、今する?お昼ご飯食べてからにする?」
「食欲はないの」
「そっか?そうだよね。じゃあ今しようか。客間に行って待っていてくれる」
客間。玄関に近いところにある部屋です。こんなところでするの?と思うかもしれませんが、ここがお便所に一番近い部屋なのです。一応、念のために、琺瑯のおまるも用意します。
「さあ、用意出来たわよ」
お母さんはお盆に布切れ、ガラス浣腸器、水差しを持って部屋に来ました。今しがた買ってきた、薬をそのお盆に置き直します。見ると、軽便が数箱、ゴム管、瓶の薬液。それにおしめカバーまでありましたが、使うつもりがないのかまだ包装されたままです。
「下履きを取って、そこのソファーに仰向けになって」
早速、薬屋さんで教わったポーズにさせます。お姉ちゃんは言われた通りソファーに横になりながら、テーブル上の器具を一見します。
「おかあさん、ガラスは嫌よ」
「そんなこと言ったって、このお腹どうするの?今日、薬屋さんに勧められて、浣腸器に着ける管も買ってきたから、痛くしないから」
「だから、やよ」
「嫌って言ったってしょうがないでしょ。早く治さないと」
「お願い。軽便さんなら我慢するから」
ガラス浣腸器と軽便浣腸。そのどちらも中身は、同じグリセリン液です。片方が良くて片方がダメなのかよくわかりませんが、お姉ちゃんの治療が先なので、
「わかったから、軽便にするわ。その代わり、これで出ないと本当に明日月曜日に、病院に掛かってもらうからね」
お姉ちゃんの頭がこくりと頷きます。
「仰向けになって。そうそう。お母さんがお浣腸しやすいように、自分で太腿の裏、手で持って頂戴」
一度起き上がっていたお姉ちゃんを、再度、おむつ替えのようにソファーの上に寝そべらせます。少し高さがあるので、床に座ったお母さんの目線に、娘の菊門がまだ発達していない陰部の下にちょこんとあります。軽便浣腸30の箱を開けています。出来るだけ奥に入れたいので、買い求めたゴム管を軽便に接続します。ゴム管の先にも軟膏を塗り込めます。その塗った指そのままで、再び軟膏をひとすくいして肛門部に塗り込めます。
「はい、用意出来たわよ」
いよいよ、施浣です。
「おねえちゃん、いい?」
いいも悪いもありません。どうせここで拒否などできないのですから、中学になったばかりの娘の小さな菊のように可憐な肛門目掛けて、ゴム管を立てます。
(?)
「お姉ちゃん。管が入らないよ」
何度やっても入りません。
「お姉ちゃん、だめよ。力入れちゃ!」
「力入れてないよ」
(?)
なんでだろうという疑問が再びわきます。
「ちょっとごめんね。昨日はちゃんと入ったのにね」
試しにゴム管を外して今度は軽便の嘴管を直接押し込みますが、軽便浣腸の胴体をつぶしても、薬液が直腸内に流れません。最近、セルロイドからプラスティックに容器が変わったとはいえ、嘴管部の硬さは変わりませんが、肛門部から先に上手く入って行きません。固い便に嘴管部が刺さっているようです。肛門に小指を立てて押し入ろうとしますが、つかえて入っていきません。どうやら昨日中途半端に浣腸したので、わずかばかりですが、便が下りてきたようです。それも1週間以上溜まった、カチカチの硬い便です。
「お姉ちゃん、軽便入らないよう。うんち肛門部まで降りて来ているね。苦しいね?」
再び浣腸失敗です。何とかしてあげなければなりません。もう病院に頼るしかありません。
「下履き履いていていいから、楽にして、ちょっと待っていてね」
最近、電信電話公社から提供されて、家にようやく入った黒電話機で町の診療所に電話をかけます。しばらく、呼び鈴が鳴りますが。お休みでいないかな、もう切ろうかなと思った時、受話器が上がりました。
「もしもし…」
「はい、町立診療所ですが」
「あの…」
当番の人につないでもらい、これ迄の仔細を手短に話します。入院患者と特別な急患以外は受け入れないとのことです。ただし、配慮をしてもらえることとなりました。
「診察してみないと何とも言えませんが、恐らく、固くなった便が肛門まで出かかっているかと思いますので、摘便後に浣腸かけることになりますね。ご自宅でできないとのことですが、ゴム管や軽便浣腸ではなく直接ガラス浣腸器の嘴管を直腸に挿入してみてください。こちらの方が、強く押せますので、そうすると、お薬が入りやすくなることもあります。出来るだけかけてみて下さい」
とのことです。また次のようにも言われました。
「いずれにしても、今日、外来は休診ですので、明日朝来てくれますか。朝一番、少し待つかもしれませんが診察時間前にお取りしますから。お大事に」
通常は朝9時診察開始なので、明日朝は30分か1時間ほど前に伺うことにして、電話を切りました。
「お姉ちゃん。明日朝、診療所で見てくれるって」
「うん」
「明日は、朝一番のバスで行ってね。それとお医者さんが、もう一度お浣腸して見て下さいって…もう一回お浣腸してみましょうね。ガラス使うけど、ね、がんばろう」
「ええ?やだ!ガラスは!それにさっき一度したじゃない」
「したけど、お薬、入ってないでしょ?」
予想した反応です。本人の気が変わらないうちに、すぐに処置をしたいところですが、自力で出るなら待ってあげることとして、その代わり出ないなら寝る前にもう一度浣腸して、出ちゃえば明日病院でされなくて済むわよと、何とか本人を説得しました。それに今日買い求めた漏れ防止にカバーをするので、お風呂に入った後にしてあげることにしました。
皆が寝静まったころを見計らって、お姉ちゃんを1階の客間に呼びます。開封して使わなかった軽便浣腸の薬を使うため、ガラス浣腸器の内筒を抜き、嘴管を人差し指で押さえながら軽便浣腸から薬液を移し替えます。外筒に内筒を添えると素早く嘴管が上になる様に上下を逆にして、空気を抜きます。一方、お姉ちゃんには、下履きを抜き取らせて日中にさせた体位を取らせます。肛門部には丹念に軟膏が塗り込みます。そうしておいて肛門に嘴管を立てて、
「いい?入れるわよ」
本人が頷くのも待たず、ピストンを押し込みます。すると最初は堅く動きませんでしたが、押し込む力を強めると徐々に内筒が押し込まれ、最後の方はすーっと薬が入るまでになります。
「入ったわよ。はい、終わり。しばらく我慢よ」
失敗できない中、うまく入りました。念のため、もう一回です。ガラス浣腸器ではなく、軽便30をそのまま使います。
「もう一回だからね」
素早く施浣をして、直ぐに抜き取ります。合計で60g、直腸内に送薬されたことになります。見るともう薬が効いているのでしょうか、もじもじしています。
「うんちしたい」
今度は成功させねばなりません。
「我慢するのよ。今度失敗したら、病院でこーんなに大きな浣腸されるわよ」
ちょっとかわいそうですが、ここは方便を使います。
「がまん、できない!」
ちり紙で押さえていますが、ちょっと漏れたのでしょうか、水分を含んできました。
「がまんよ」
何とか励まそうとしますが、便意は募るようです。
「ほんとうにがまんできない!」
足の付け根が震えています。もういいでしょう、おまるを引き寄せてここでさせます。それを見て跨りますが、そうは言っても女の端くれ、親であっても人前であることを思い出し、最後の意地を張っているのでしょう、しばし時間が流れます。
「ぶっばー」
事が切れたのでしょう。弾ける音がします。すぐにお母さんが、オマルを覗きます。
「あら、出たね。もう出ない?」
お姉ちゃんも、顔を上気させて頷きます。お尻を拭いてあげながら、
「お便、ちょっと少ないわね。あとは、明日、診療所で診て貰いましょう。さぁ、今晩はこれ付けておきましょうね」
盆に載った布を取り寄せて、仰向けに寝かせたおねえちゃんの下半身を包んでしまいました。
「なぁにこれ」
下半身のドビー織生地を弄っています。
「お漏らし用のおしめよ」
「おしめなんていやあよ!下履き履かせて」
お姉ちゃんの猛抗議をよそに、一切手を止めずテキパキを進めます。
「あら何言っているの、これも立派な下履きよ。これから寝るのに、寝ながらしっちゃったらもっと嫌でしょ」
(プチ、プチ)
仕上げにとばかりに、今日買ってきたばかりのカバーをつけます。
「さぁ、できた」
「おかあさん!やだ、脚閉じられない」
「ちょっと多目に包んだからね。これで漏れないわよ。明日の朝、取り換えてあげるから、念のため病院もこれで行くといいわ。それとちゃんと先生に排便具合も説明してね」
おしめカバーの足口から指を入れて、はみ出したおしめを整えながら、閉まり具合も確かめます。娘の抗議などなかったように、最後に、腰ひもをうんと強く結わかれます。
「もう今日はおやすみなさいね。あとは明日朝、病院ね。そのあと学校にも行かれるように、7時台のバスに乗るのよ」
「下から見えちゃうから…」
「だったら、ちょうちん履いて行きなさい。それならいいでしょ」
ちょうちんとは、提灯型の帆布製のブルマーのことで女学生の体操服にもなります。ニット製と違い、伸び縮みしない代わりに、腰の部分のふくらみが大きいのも特徴で、履くときはスカートのように脇のファスナを開いて着ます。これだと、普段からのふくらみの分、おしめカバーをしていても分かりません。普段は優しい母親ですが、こういう時は意志が強いことも知っています。枕元には、琺瑯のおまるまで置かれ、こうなれば従うほかありません。分かった、とばかりに無言で返事をします。
浣