【三女の視点:微かな光の中で】
長女の言葉に少し安心したものの、胸の奥にはまだどこか不安が居座っていた。いつもそうだ。お姉ちゃんたちが優しい言葉をくれると、一瞬だけ安心する。でも、その後にはすぐに、「本当かな?」って疑う自分が出てきてしまう。
ボブおじさんが大きな声で「水がうまいな!」と言いながら戻ってくると、リビングが少しだけ明るくなったように感じた。おじさんの声って、不思議と周りの空気を変える力がある。私もそんなふうに、誰かの役に立てたらいいのに。
「三女、少し顔色が良くなったな。」ボブおじさんが私を見て、少し笑った。その笑顔が、なんだか眩しくて、私は小さく頷くことしかできなかった。
「うん、大丈夫。」自分でそう言ってみると、少しだけ本当のことのように思えてきた。
長女が立ち上がり、次女の肩を軽く叩きながら何か話している。彼女たちの間には、いつも私には入れないような会話がある気がして、それが少しだけ羨ましかった。でも、今はその二人の背中を見ているだけで安心する。
「三女、何か手伝えることある?」長女が私に振り向いて聞いてきた。その瞳は真剣で、でもどこか優しさを含んでいる。
「……ううん、大丈夫。リビングはもう片付け終わったよ。」
そう答えると、長女は少しだけ微笑んで「ありがとう」と言ってくれた。その言葉が、まるで暖かい毛布みたいに私の心を包んでくれる気がした。
でも、本当は、もっと何かをしたかった。長女みたいに頼りにされる存在になりたいし、次女みたいに自信を持って話せる人になりたい。私だって、何か特別なことができる人になりたい。
「おじさん、町の様子って、やっぱり危ないの?」自分の中の不安を追い払うように、私はボブおじさんに聞いた。
「まあな。」ボブおじさんは、少しだけ困ったような顔をして、それからゆっくりと椅子に座り直した。「治安が悪くなってきてるのは確かだ。配給所の周りでも揉め事が増えてる。でも、ここはまだ大丈夫だと思うよ。俺がいる限りはな。」
その言葉は、少しだけ頼もしく聞こえた。ボブおじさんはいつもそうやって私たちを守ってくれる。でも、それがいつまで続くのかは誰にもわからない。それが怖い。
「……怖いよ。」気づけば、その言葉が口をついて出ていた。
ボブおじさんが私をじっと見た。その目は、少し悲しそうで、でも暖かかった。「そりゃ、怖いさ。こんな状況、怖くない人なんていない。でも、怖いからって立ち止まってたら何もできないだろ?」
「うん……わかってる。」私は小さく頷いた。
長女がボブおじさんの隣に立ち、「三女はしっかりしてるから大丈夫だよ」なんて言ってくれた。でも、その言葉が逆に重たく感じた。しっかりしていなきゃいけないのに、私はまだ弱虫だ。
「ねえ、おじさん。」私はもう一度ボブおじさんを見た。「どうして、こんなことになっちゃったのかな?」
おじさんは少しだけ困ったように眉を寄せて、それから天井を見上げた。「そうだな……人間が欲張りだからかもしれないな。もっと強くなりたい、もっとたくさん持ちたい、もっと安全になりたい……そんな気持ちが重なって、こんな状況になっちまったんだろう。」
その言葉を聞きながら、私はぼんやりと考えた。強くなることや、たくさん持つことって、本当にそんなに大事なことなのかな?
「でもさ、三女。」おじさんが私の方に顔を向けた。「お前みたいに優しい心を持ってる人間がいる限り、世の中全部がダメになるわけじゃない。そう思わないか?」
その言葉に、私は少しだけ救われた気がした。優しい心。そんなものが役に立つなら、私にもできることがあるのかもしれない。
次女が「また説教じみたこと言ってる」と軽く茶化し、長女がそれに苦笑しながら「そんな言い方しないの」とたしなめる。二人のやり取りを見ながら、私は小さく笑った。
少しだけだけど、今の自分でも大丈夫な気がした。私が私でいられること。それが、きっと何かの役に立つはずだって、信じたかった。




