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長女の視点

朝の柔らかな光がリビングに差し込む。テーブルにはいつもより少し鮮やかに彩られた料理が並べられ、三女が得意気な顔でこちらをちらりと見ている。きっと、次女にあれこれ教えながら頑張ったんだろう。彼女なりの努力が皿の隅々に宿っているのがわかる。


普段はつけっぱなしのテレビだが、ここ数日は避けている。緊急事態宣言の発令以降、ニュースといえば暴動や混乱の報道ばかり。特に次女はああいう話題に敏感だから、食卓に余計な緊張を持ち込みたくない。実際に画面を目にすると、私自身も胸がざわついてしまう。だから今日は静かな食卓にした。


「さあ、みんな揃ったし、食べよっか。」椅子に腰を下ろしながらそう声をかける。


三女が得意げに並べた野菜料理は、どれも丁寧に盛り付けられていて、目にも鮮やかだ。人参ときゅうり、トマトがバランスよく皿の上に収まっていて、ほんの少し葉物が添えられている。その配置に、彼女の細やかなセンスが表れている。


「次女が摘んで、次女が切った野菜だから、きっと格別だね。」私は軽く冗談めかして、声を弾ませる。


次女はその言葉には特に反応せず、目の前の野菜の断面をじっと見つめている。その表情はどこか真剣だ。フォークを持つ手も止まったままで、何かを考え込んでいる様子だ。


「味はどう?」と聞いてみても、彼女はちらりと私を見ただけで、「まだ食べてない」と短く答える。そしてまた断面に視線を戻す。


その真剣さが、なんだかおかしくてつい笑いそうになる。食べる前にそんなに形をじっくり観察するなんて、次女らしいというか、少し変わっているというか。


「野菜の模様が気になるの?」と軽く尋ねると、次女は「うん、ちょっとね」とだけ返事をした。興味がそこに向いているのは間違いないようだ。


三女は「次女、ちゃんと味も見てね!」と小さく抗議するが、次女は軽く肩をすくめるだけでフォークを動かさない。そんなやり取りを眺めながら、私は三女の一生懸命な盛り付けを思い出す。この食卓に並んだ料理には、彼女たちそれぞれの思いが少しずつ詰まっている気がしてくる。


私自身も、こうして穏やかな時間を過ごせていることがどれほど貴重なのかを感じる。三人で食卓を囲む、この何でもない瞬間が、どうか少しでも長く続いてほしい。


「さ、冷める前に食べよう。」


私は箸を手に取り、最初のひと口をゆっくりと口に運ぶ。どんなに先行きが不透明でも、この瞬間だけは、何かを守れている気がした。

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