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新しい発見:次女の視点

包丁を持つ手に、なんとなく力が入りすぎているのが自分でもわかる。だけど、どうやったら力加減が「ちょうどいい」になるのか、よくわからない。




目の前に置かれた人参を切ろうとすると、思いのほか固くて、包丁がぐっと跳ね返ってきた。気を取り直してもう一度押し込むように切ってみると、今度は断面がぐちゃっと不揃いになってしまう。切り口がこんなにもバラバラになるものだなんて、意識したこともなかった。




「次女、もっとまっすぐ!包丁をこうやって持つの。」




横から三女の声が飛んできた。小さな手が私の手元を指し示しながら、器用に包丁の使い方を教えてくれる。自分より年下の妹にこんな風に指導されるのは少し変な感じだけど、彼女は妙に得意げで、楽しそうにさえ見える。




「こんな感じ?」と切ったきゅうりを持ち上げて見せると、三女は少し顔をしかめた。




「全然違うよ。もっと薄く、均等に切らないと、煮え方がバラバラになっちゃうから。」




煮え方がバラバラになったら何がいけないんだろう、と一瞬思ったけど、まあ彼女にとっては大事なことなんだろう。野菜なんて結局、煮込んだら全部一緒だと思うけど、口には出さないでおいた。




それよりも、切った断面に目が行った。断面には細かい模様が浮かび上がっていて、それが何だか妙に面白い。中心から外側に向かって、薄い層が輪のように広がっている。これは細胞が並んでいるのかな?いや、茎の構造?




三女がまた「そうじゃないよ、もっとこう!」と声を上げるけれど、私は気にせず別の角度から切ってみた。すると模様が微妙に変わることに気づく。同じ人参なのに、角度が違うだけで、見える景色がこんなにも違うんだ。これは面白い発見だ。




「ねえ、見て。これ、こうやって切ると輪っかがこんな風に並んで見えるんだよ。」




そう言いながら断面を三女に見せたけど、彼女は少しむっとした顔で「そうじゃなくて!」と首を振る。どうやら私の切り方は、彼女の言う「正しいやり方」からはほど遠いらしい。でもいいじゃないか。こういうものは試してみて、面白いことを発見する方が楽しいに決まってる。



とはいえ、三女の真剣な顔を見ると、邪魔をしすぎるのも悪い気がして、少しだけ彼女の指示に従うことにした。彼女が「猫の手!」と言いながら私の指の形を直してくれる。




「ふむ…こんな感じかな。」




半分はお遊び、半分は真面目な気持ちで切った人参をそっと置く。三女がそれを見て「さっきよりちょっとだけマシ!」と小さなガッツポーズをした。



内心、思う。こんなふうに細かく野菜を切るのって、私には少し退屈だけど、断面の模様とか形の変化とか、見方を変えれば面白い部分もあるんだな、と。そして、こんなに張り切って指導してくれる三女の熱心さは、なんだかちょっと可愛らしい。

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