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お姉ちゃんみたい:長女の視点

朝の光がキッチンの窓から差し込んで、野菜を洗った後の水滴が光って見える。さっき庭で収穫したばかりの新鮮な野菜たちが、まな板の上に並んでいる。私が軽く手入れをしてキッチンに持ち込んだそれを、今度は次女と三女が切り分ける番だ。


三女が張り切って次女に包丁の使い方を教えている姿を見て、なんだか微笑ましくてたまらない。


「次女、こう持つんだよ。ほら、指をそろえて猫の手みたいにして。」


三女はいつもの柔らかい声で、でもどこか先生ぶった調子で教えている。その様子に、普段なら「分かってる」と突っぱねそうな次女も、今日はおとなしく従っている。とはいえ、その手つきは相変わらずぎこちなくて、きゅうりを斜めに切るつもりが妙に分厚かったり、にんじんを切ったら断面がガタガタになったりしている。


「そっちじゃなくて、もっとまっすぐ切るの!」


三女の声に少しの焦りが混じるたび、次女は「そんなに完璧じゃなくていいだろ」と軽く反発する。けれど、なんだかんだで次女は真剣に取り組んでいるようで、顔には少し困惑したような、それでいて集中した表情が浮かんでいる。それがまた、普段冷静な彼女らしくなくて、思わず笑いそうになってしまう。


「危ないよ、もっと手元に気をつけて。」

私は見かねて声をかけ、次女が失敗して厚みの揃わないきゅうりを軽く整えながら、三女の気遣いに感心する。


「うん、もうちょっと力加減をやさしくして。ほら、次はこれを切ってみて。」三女がそう言いながら、真新しい人参を手渡している。


私はその横で、スープの下ごしらえを進める。野菜を切るのが一番難しい次女の担当になるなら、火加減や味付けといった料理の仕上げ部分は私が引き受けるべきだ。それぞれが得意なことをやる。それが私たち三人のやり方だと思う。


ふと、三女が私のそばに近づいてきた。彼女の小さな手が私の袖をそっと引っ張る。顔を上げると、彼女が恥ずかしそうに小声で耳元にささやいた。


「私、なんだかお姉ちゃんになったみたい。」


その一言に、私の胸が少しぎゅっとなる。


「そっか、三女も立派なお姉ちゃんだね。」私はそう返しながら、彼女の頭を軽く撫でた。


三女の嬉しそうな笑顔を見ながら、心の中で思う。この二人には、何があっても幸せになってほしい。たとえ今、この世界が少しずつ暗い方向に進んでいるとしても、たとえ明日がどうなるか分からないとしても。彼女たちには、笑顔のままでいてほしい。


キッチンの中に広がる野菜の香りと、スープが少しずつ煮える音。それに混じる、次女と三女のやり取りの声が、まるで日常の一部のように心地いい。この平穏が少しでも長く続きますように、と祈るような気持ちで鍋をかき混ぜた。

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