まどろっこしい朝:次女の視点
朝、目が覚めた時、外の世界はまだ眠りの中にいるようだった。寝室の窓を少しだけ開けると、冷たい風が入り込んで頬を撫でた。頭はぼんやりしていたが、外から聞こえてくる微かな声に耳を澄ませる。ラジオだった。
「おはよう、皆さん。さて、どれくらいの人がこの放送を聴いてるのか分からないけど、まだ生きてるならラッキーだな。今日もそれを祝っていこう。」
サムの声が、ざらついたノイズを挟みながら部屋の中を満たす。その軽快で少し皮肉めいた口調は、どうしようもない状況の中で奇妙に心地よかった。
私はベッドの上に座り、膝を抱えながら耳を傾ける。サムの言葉は、今起きている現実を強調するようでありながら、不思議とそれを遠ざける力も持っていた。「どうせ変えられないなら、こうして笑ってる方がマシだよな」とでも言わんばかりの態度。それが今の私にはちょうど良かった。
ふと窓の外を見ると、小さな家庭菜園に人影が見える。姉たちだ。長女はいつものように真剣な顔で作業をしていて、三女はその隣で何やら熱心に話しているようだ。こんな早朝から、あんな泥まみれのことをしているなんて信じられない。普通ならまた布団に戻るところだが、今日はなぜか足が動いた。
靴を履いて庭に出ると、空気が肌にしみるほど冷たかった。まだ陽が昇りきっていない空は、紫と青の間を揺れている。私はふらりと畑に近づき、しゃがみ込む姉たちに声をかけた。
「何してるの?」
長女が顔を上げ、少し驚いたような表情を浮かべた。「あら、次女。珍しいね、早起きなんて。」
別に、と私は短く返す。ふと視線を下ろすと、三女がカゴいっぱいの野菜を手に、満面の笑みでこちらを見上げてきた。
「次女も手伝ってくれるの?」
その嬉しそうな声に、どう答えていいか分からなかった。たまたま目が覚めただけで、特に理由があったわけじゃない。でも彼女の期待に満ちた瞳を無視するのも少し気が引ける。
「まあ、ちょっとだけなら」
そう言ってしゃがみ込むと、長女がすぐに指示を出してきた。「じゃあ、にんじんを収穫して。根元を持って引っ張ればいいだけだから。」
根元を持って引っ張るだけ。簡単そうに聞こえる。でも実際にやってみると、どうにも力加減が分からない。一本目は茎だけが無残に千切れた。
「だから、根元をちゃんと持ってって言ったのに」長女が呆れたように言う。
その横で、三女が慌てて手を伸ばす。「ほら、こうするの! 優しくね、こうやって…」彼女の手つきを見ていると、それが簡単そうにも見えるのが不思議だった。でも、いざ自分がやるとまた失敗だ。
「なんでこんなまどろっこしいの?」私はつい口を突いてしまう。
三女は目を丸くして私を見上げた。「まどろっこしいって…野菜をちゃんと取らないと可哀想だよ!」
可哀想? 野菜に? そんな風に考えたことはなかった。でも三女は本気のようで、しっかりと睨んでくる。その熱意に少し圧倒されながら、私はため息をついてもう一度挑戦した。
ようやく、にんじんが一本、きれいに土から顔を出した。その瞬間、ほんの少しだけ勝った気分になった。
「ほら、できたでしょ」と長女が微笑む。
「まあね」私は肩をすくめる。
三女はそれを見て満足そうに頷くと、「これで次女もお手伝いしてくれるよね!」と嬉しそうに言った。その声に、私はなんとなく苦笑いするしかなかった。
陽が少しずつ昇り始め、空がオレンジ色に染まっていく。地面に座り込んで泥だらけの手を見つめながら、ふと思う。この作業に何の意味があるのか、正直まだ分からない。でも、たまにはこうやって姉妹と一緒にいるのも悪くないのかもしれない――そう思いながら、次のにんじんに手を伸ばした。




